018-2_広橋国光さんがやって来た
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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018-2_広橋国光さんがやって来た
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「武田が村上義清の葛尾城を攻めた」
長尾さんの話をしていたけど、いきなり違う話になるね。
「戦況は?」
「すでに村上は逃げ出した」
「え、もう?」
「砥石城が落ちてからは、かなり調略が進んでいたようだ。囲まれて三日も持たなかった」
調略かぁ。戦う前に勝利を確実にしておいたわけだね。武田さんもやるな。
「真田が気合を入れて調略したようだ」
「海野さんの親戚か……」
村上義清は葛尾城を放棄した後、この上野に向かっているらしい。武田領を通るわけにはいかないので、一度越後に出てから上野に来る予定なんだとか。
「なんでこっちに来るんだよ」
「越後は口ほどでもないと踏んだのだろう。それに越後を通れば、嫌でも内乱の機運を感じるはずだ」
「信濃で武田さんじゃない勢力はあるの?」
「守護の小笠原と信濃国高井郡の高梨政頼くらいだろう。高梨は景虎の叔父だ」
景虎さんが無事で内乱もなければ高梨さんを支援するかもだけど、現実はかなり厳しい。高梨さんは風前の灯火といった感じなんだとか。
「信濃を獲った武田さんは、どう動くかな?」
「信濃を統一した後は越後だろう。武田は海を欲しているからな」
「海かぁ……」
内陸部の甲斐と信濃を治めても満足しないんだろうな。
「越中もあるが、あそこは一向宗が面倒だからな」
「一向宗?」
「浄土真宗本願寺派だ」
うん、知らん。だって俺、無宗派だもん。クリスマスが来たらキリスト教、大晦日の除夜の鐘やお盆の墓参りで仏教、正月は初詣で神様を拝んでいた。要は一般的な日本人なわけ。
「一向宗は信徒が兵になる。武器がなかったら鍬などの農具を持って戦う。数だけは圧倒的だ」
「うわー。会いたくない人たちだ」
「面倒この上ない奴らだな」
一向宗は加賀を中心に能登、越中に大きな勢力を誇っているらしい。以前、越前に三十万の大軍で攻め込んだけど、一万の朝倉軍に敗れたらしい。三十倍の戦力でどうやったら敗れるのか? このことを考えると、一向宗は烏合の衆っぽい。
この時に朝倉軍を指揮した朝倉宗滴さんは、すでに七十を越えた老人らしい。今でも宗滴さんの威光によって、一向宗の越前侵攻は防がれているのだとか。
さて、朝廷からの使者がやって来た。広橋国光さんというお公家さんだ。白粉を塗っている。ちょっと引く。
「新田義純殿を従五位下上野介に任じるものである」
どうやらお義兄さんに官位が与えられたようだ。今頃と思わないではない。お義兄さんと家臣たちは、口にしないけど喜んでいるようだ。
「ありがとう存じます。今後も尊王の心を忘れず、忠勤に励む所存にございまする」
「よき心がけでおじゃる」
初めて聞いたけど、本当に「おじゃる」って言うんだ。笑ったら駄目だから、顔を下げて必死に堪える。笑いを堪えて肩が震えるのは愛嬌ということで。
「時に、賀茂忠治なる者はどなたかな?」
え、俺? 何? 俺、何もしてないよ?
「はい。私にございます」
白粉を塗りたくった顔を見ると、笑いそうになる。ポーカーフェイスだ、俺我慢しろ。
「ふむ。そなたは三輪系氏族でおじゃるか?」
昔祖父さんから聞いたが、うちは三輪系氏族の賀茂だ。なんでもあの三輪神社に関係しているとかで、元々の出身は奈良県だと言っていた。一度家系図を見せてもらったけど、うちは賀茂でも分家の分家の分家らしい。ほぼ無関係だな。
「祖父によれば、三輪系氏族だったようですが、分家の分家のさらに分家とのことです」
「ほう。では陰陽師でおじゃるか?」
賀茂の家系が陰陽師なのは祖父さんから聞いているが、そんな教育は一度も受けたことはない。そもそも陰陽師なんて時代錯誤だよと、その時は思ったものだ。
「いえ、私は陰陽師の修行をしたことはございません」
「左様でおじゃるか」
現代日本で陰陽師が話題になるのは、安倍晴明くらいなもので賀茂の名は出ない。でも安倍晴明の師匠が俺の祖先なんだよね。一応、多分、おそらく……。
「賀茂忠治殿を従七位上陰陽大允に任じる」
「え?」
「官位を授ける。ありがたくお受けいたすのじゃ」
「……あ、ありがとうございます」
俺は慌てて頭を下げ、お礼を言った。なんで俺に官位をくれるんだよ? しかも陰陽大允だぜ。陰陽師の修行なんてしてないっつーの。てか、そんな官位あるのかよ、初めて知ったよ!
「御上が上野介殿と陰陽大允殿にお会いしたいと申しておじゃる。両名は直ぐに上洛するように」
「……はい?」
なんだって? パードゥン? もう一回言ってくれるかな。
「御上がお呼びでおじゃる。直ちに上洛せよ」
「承知しましてございまする」
お義兄さんのが平伏するから、俺も慌てて頭を下げた。なんで俺が呼ばれるんだよ!? 俺は陰陽師でも鬼でもないのに……。
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