018-1_広橋国光さんがやって来た
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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018-1_広橋国光さんがやって来た
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田植えの頃、俺は金山城に入った。お義兄さんと海野さんのことを相談するためだ。お義兄さんの婚礼や堤防を築いたりしていたら、この時期になってしまった。
お義兄さんの判断は、こちらから攻めるというのは駄目だというものだった。今は北条家に備えて、国力を上げることに力を注いでいる。できるだけ戦争はせずに、敵も作りたくないらしい。
「俺一人で事足りますよ」
「忠治殿が海野庄を取り戻したとして、その後の防衛はどうするのですか? 忠治殿には厩橋城を治めていただきたいし、上野から援軍を出すにしても時間がかかりますよ」
当然の懸念だ。俺もそう思う。ただしやり様はある。
一番いいのは、武田さんも村上さんも攻めて来ないこと。こっちが海野庄を取る際に力を見せつけることで、それは可能だろう。武田さんが馬鹿じゃなければ、ちょっかいは出してこない。
もし攻められた際は海野さんが独自に対応することになるから、援軍が到着するまで持ち堪えるだけの防御力が必要。これは俺が城を築けばなんとかなるかも。
問題は海野さんの戦力が、少ないことだ。城を築いても、防衛するのは人だからね。
あまり気乗りしないけど、ゴーレムに領地を防衛させることもできる。でもこの世界でここまでやっていいのか迷うところだ。
ゴーレムを使ってしまうと、なんでもありになってしまう。ゴーレムで領地防衛なんて、異世界感が半端ないもんな。
いくら一緒に温泉に入った仲とはいえ、そこまでの義理はないか。
それに武田さんに対しても恨みはない。酷いことをしてるようなので、悪感情はあるけど。
「おそらく北条とは遠からず戦うことになります。その際に、海野殿が活躍したら、考えないでもないですよ」
お義兄さんができる最大の譲歩だろう。これ以上を望むのは無理だし、するべきではない。
「さて、話は変わりますが、朝廷から使者がやってきます」
お兄さんが佇まいを正したから、俺も背筋を伸ばす。
「冬の間に献金した件ですか?」
「そのお礼らしいのですが、正直言って目的がわかりません。お礼は帝の宸翰をいただきました。それなのに今になってお礼というのは、どうも納得がいきません」
宸翰というのは帝(天皇)直筆の書のことらしい。ある意味家宝になるものだ。
現在の天皇は後奈良天皇だけど、官位と引き換えの献金を嫌われるそうだ。だからお義兄さんは三千貫も献金したのに、何も要求しなかった。そのお返しに宸翰が贈られたのだ。
同時に足利幕府にもいくばくかの銭を贈ったらしい。こっちは受け取るだけでお礼の一言もないらしい。ずいぶんと礼儀知らずな奴らだ。
「また献金を頼みに来るのでは?」
「三千貫も献金したのですから、また献金してほしいとは言ってこないと思います。もし献金と言われても、さすがに今度はお断りしますよ」
それもそうか。じゃあ、何が目的なのかな? 天皇なんて雲の上の人だから、俺にはさっぱり分からないや。
「今回は忠治殿にも出席してもらいますからね」
「俺は遠慮しておきますよ。お公家さんの相手なんてできませんからね。失礼があったら、お義兄さんに迷惑をかけますし」
「そのようなこと気にしませんよ。ですから出席をお願いしますね」
「いや、俺が気にしますから」
お義兄さんはどうしても一緒に出席するようにと退かない。しかたがないから出席することにした。でも本当に失礼なことをしても知らないからね。
小太郎さんが現れた。相変わらず何もないところポンッと現れるから、俺以外の人は驚いてしまう。わざとやっているよね、それ。
「越後で反守護代の声が高まっている」
反守護代ってことは、長尾景虎さんに反旗を翻す人が増えているということか。爺やさんたちの思惑通りになっているんだね。
「景虎さんは勝てそう?」
「五分五分だな」
越後の長尾家は蒲原郡三条の三条長尾家、古志郡の古志長尾家、魚沼郡上田庄の上田長尾家がある。景虎さんは三条長尾家だけど、他の二つの長尾家が反旗を翻している。
「三条長尾が守護代を独占していることに反感を持っているようだ」
長尾三家で守護代を争っていたが、ここ最近は三条長尾家が守護代を独占している。そのことに他の二家が不満を貯め込んでいたようだ。
さらに揚北衆も反景虎さんらしい。ただし他の反景虎勢とは結びついていないようだ。この揚北衆というのは阿賀野川北岸地域の国人たちのことで、独立意識が強いらしい。景虎さんの求心力が低下して、今なら好き勝手できると考えたようだ。
「元々景虎が力で押さえつけていただけだ。その力が弱まれば反発するのは当然だろう」
越後は三条長尾勢、反景虎の長尾二家勢、そして揚北衆の三つ巴の内戦状態に陥ることになるようだ。
「田植えが終われば、本格的に動くことだろう」
「もし長尾二家勢と揚北衆が手を結んだら、景虎さんはかなり難しい状況に追い込まれそうだね」
「景虎の母は古志長尾家の者で、姉は上田長尾に嫁いでいる。この二家は景虎が守護代を辞すれば収まるだろうが、揚北衆は独立独歩が目的だ。景虎がそれを理解すれば、そこまで大きな乱にはならないだろうな」
もし内乱になったとして、上野への塩の供給が止まるとややこしい話になるぞ。景虎さんを越後に帰す条件として、塩を安く提供するというものがある。これが守られない時は、お義兄さんが越後に攻め込む大義名分ができてしまうからね。
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