017_お引越し
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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017_お引越し
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蒼海城に逗留している間に、利根川の堤防を十キロくらい築いた。今回は思わぬ長雨で氾濫したけど、基本的に梅雨の時期か台風の時期に氾濫は起きやすいようだ。
金山城に帰った俺はお義兄さんと爺やさん、それから横瀬さんと利根川の堤防について話し合った。
「坂東太郎の氾濫対策ができるのなら、それに越したことはないですね。忠治殿に負担をかけてしまうけど、頼めるかな」
「そのつもりで話をしたので大丈夫です」
お義兄さんたちは諸手を上げてやってほしいと言った。
「そこで賀茂様には、坂東太郎流域にある厩橋城を是非とも治めていただきたく」
横瀬さんが頭を下げる。俺は領主なんて務まらないから。
「厩橋城は坂東太郎さえ収まれば、石高が多く見込める土地です。是非そうしてほしい。それに忠治殿が領地を得ないと、これから先手柄を立てた者たちに領地を与えることができません。どうか、受け入れてください」
俺は自分の我が儘で領地は要らないと言っているのに……。お義兄さんまで頭を下げてくる。
「忠治殿が土地を統治できぬと言うのであれば、某が賀茂家の家老として統治のお手伝いをいたしましょう」
「え、爺やさんが? でも、それではお義兄さんが困るのでは?」
「息子の孫八郎に跡目を譲り、殿に仕えさせます。あやつもそろそろ独り立ちしていい年なれば」
口うるさい爺やさんだけど、領地の管理については有能だ。お義兄さんが金山城に入ってから、爺やさんは横瀬さんたちと侃侃諤諤やりながらしっかりと領地を管理している。その爺やさんが来てくれるなら、丸投げできそうだ。
「孫九郎もこう言ってくれている。どうでしょうか」
「分かりました。そこまで仰ってくださるなら、この話をお受けします」
「そうですか! いやー、良かった。これで胡蝶も城主の奥方だね」
そうか俺が城主になるということは、胡蝶が城主の奥方になるのか。お義兄さんとしては風来坊の妻よりも、城主の妻のほうが安心できるんだろうな。
しばらく不在にしていた間に、京からお公家さんがやって来て、お義兄さんは献金をしたそうだ。献金はいいが、なんと三千貫も出したとか。かなりの大金をポーンと出したらしい。
大金が出て行ったので、錬金術を再開して銭を作らなければ。爺やさんと息子の孫八郎さんが用意した悪銭を錬金術で良銭にしていく。
錬金術が終わったら、利根川流域の国人領主たちから要望があった堤防造りだ。一応公共事業なので、お義兄さんと各国人から銭か米で報酬をもらうことになった。俺は要らないと言ったんだけど、これは本来領主がすることだからと報酬をもらうことになった。
俺が厩橋城の城主になる話が決まった三日後、下総の古河城からお義兄さんの妻になる姫が輿入れしてきた。足利というだけあって、輿入れはそれなりの規模だ。
花嫁は十三歳前後、中学校に入学したてくらいの少女だ。胡蝶を妻にした時も思ったが、ロリコンもいいところだ。
子供が子供を産むんだよ。ちょっとどころかかなり引くよね。
祝言は上野の国人たちも集まって盛大なものだった。足利さんところからは二人が参加。二人参加しただけでも多いらしい。誰もいないことも普通にあるというのだ。政略結婚だとしても、皆で祝ってやればいいのにね。
お義兄さんはロリコンなのか、かなり嬉しそうだった。終始にやけてだらしない顔だ。一国の主なんだからシャキッとしなさい。
それから十日もすると、今度は側室たちが金山城にやって来た。このハーレム野郎め!
いいもん。俺には胡蝶がいるんだから!
その頃には利根川流域の堤防工事も終わり、俺は厩橋城へ引っ越すことになった。
厩橋城は利根川のすぐそばにある城で、平城(平地の城)のため防御力に不安がある。
防御力をあげるために五重の防壁を築き、大砲を設置しようかと思っている。火薬は錬金術で作れるから防御力と火力を併せ持つ城にしてやろうじゃないか。
「胡蝶はどんな城がいいかな?」
「妾は忠治と一緒ならどんな城でもあばらやでもいいのじゃ」
「胡蝶……」
「忠治……」
交差する視線。頬が熱くなる。胡蝶を引き寄せて抱きしめる。ああ、胡蝶!
「ゴホンッ。そういうのは皆がいないところでお願い申し上げますぞ、殿。北の方様も」
爺やさんの言葉にはっとして皆を見ると、顔を逸らしていた。
「よし! 先ずは防壁だ!」
誤魔化すために元気いっぱいに振舞う。
一番外側の防壁の高さは十五メートル。防壁の高さは十メートルずつ高くしていく。そのため一番内側の防壁は五十五メートルもの高さだ。ただし、内側はその分土と石を盛っていくから、石垣みたいなものだね。
また迷路のような通路にして、敵の進入を防ぐ。ふふふ。一度入ったら二度と出られないんだからな。
砲台もちゃんと設置した。風雨を防ぐ建物にしているが、これは大砲を隠すためのものでもある。
あと利根川に湊を作って物流を活発化させる。両替商は俺じゃないとできないから、これからは厩橋城で行うと商人に伝えている。
坂東太郎を使えば船ですぐ目の前の前橋湊まで銭を運んで来られるから、便利になっているはずだ。
堤防の上は平になっていて、主要な場所で下りれるようになっている。つまり船でなくても堤防の上を荷車を牽いていくこともできる。上野国の利根川流域はこれによって物流が加速するはずだ。
利根川は厩橋城から南に進み、武蔵国との国境沿いに西へと流れる。武蔵国側には堤防を築いていない。それは武蔵の国人か北条家がすることだ。それに堤防が防壁の役目を果たして、北条勢を防いでくれるからね。
金山城がある新田郡にも新田湊を築いている。何かあれば利根川を利用した移動が可能だ。前橋湊と新田湊の周辺には商人の店や蔵が建てられていく。建設ラッシュだ。
城の天守から見下ろす前橋湊は、活気に溢れている。港の周囲に建ち並ぶ蔵。ひっきりなしに出入りする船。
城の第一層(第一防壁と第二防壁の間のエリア)に設置された両替用の施設に多くの悪銭が持ち込まれては、両替した良銭を運び出す商人が多い。
両替は上野だけでなく、越後、信濃、武蔵、下野、下総、上総、常陸、相模、甲斐からもやってくるそうだ。そんなに遠くからやってきて大丈夫なのかと思うが、悪銭はそれだけ邪魔なんだろう。
悪銭と良銭の交換比率は五対一。両替手数料は一貫につき十文。来る時に比べ帰りは五分の一の量になるため、商人は空いた五分の四のスペースに商品を乗せて帰りたい。だから前橋湊には米や色々な商品が集まってくる。そのための蔵がバンバン建っていく。厩橋城下ではバブルが起こっている。
「活気があるのじゃ」
胡蝶の肩を抱きながら、活気のある前橋湊を見下ろす。人が集まると、うちの税収も増える。他の場所から商品になるものを買い込んで前橋湊に持ち込もうとする商人もいるから、他の土地も潤う。
「ただ、このままでは長く続かないだろうな」
「どうしてなのじゃ?」
「仮にだけど、何十年かして俺が死んだらどうする? 両替はできなくなるから、前橋湊から商人が去っていくことになるぞ」
「む、それもそうじゃな」
俺がいなくても商業が回るようにしなければいけない。今は両替目的でも、いずれ両替はついでだと思うような商業の町にしないと廃れるだけだ。
「どうしたらいいのじゃ?」
「商品を作ればいい。この前橋湊でないと手に入らないような商品だ」
「そんなものを簡単に作れないのじゃ」
胡蝶の言う通りだ。だけど俺には現代の知識がある。そのものを作れなくても、アイディアを出すことができる。
たとえば椎茸。驚いたことにこの時代では滅多に口にできないような高級品だ。
他には石鹸。これは衛生環境が悪いこの時代では、できるだけ広げたい。こっそり商人に卸してみようかな。
あとはジャガイモやサツマイモの栽培かな。この時代の日本には共にないかもしれないけど、実を言うと俺のアイテムボックスの中に入っているんだ。
米が育たないような場所でも育つから作ってみていいかもしれない。ただし異世界の植物だから、この世界で育つかは疑問が残る。やってみてからの判断だな。
この世界のジャガイモやサツマイモを探すのもいいかも。まあ、機会があればってことで。
同じく異世界の植物で油が大量に採れる木もあるし、果物もある。全部は無理でも一種類くらいは栽培できるかもだから、色々やってみていいだろう。
それから……この時代でも葡萄はあるらしいから、山間部などで栽培させてもいいか。アイテムボックス内のものを使わなくても、甲斐にあるらしいと聞いた。小太郎さんに頼めば、持ってきてくれそうだ。
やれそうなことはいくつもある。俺の領地でできることは椎茸と石鹸、あと葡萄を栽培してワイン造りかな。
異世界の植物は試験的に育ててみて、育つかどうかを確認だな。育った後は目的のものが採取できるかだ。違う世界で育てたら、違った植物になるかもしれないから管理をしっかりしないとな。
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