014-2_海野さんがやってきた
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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014-2_海野さんがやってきた
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あー、もうすぐお義兄さんのお嫁さんたちがやってくるんだ。俺たちって邪魔かな……。
お嫁さんたちも小姑の胡蝶がいると嫌かな。胡蝶の性格はさっぱりした爽やか男子系だから、意地悪とかしないと思うけど……。
「忠治殿。面会を望む者が来ておりますが、いかがしましょうか」
胡蝶の膝枕で色々考えていると、爺やさんが来客を告げた。
「どちら様ですか?」
「海野棟綱殿にございます」
うんのむねつな……ああ、信濃の海野庄の人か。面倒な話っぽいが、無下に追い返すのもなぁ。
「会いましょう。通してください」
「承知しました」
爺やさんが床板をドスドスと踏んで遠ざかっていく。
「海野さんてどういう人か知ってる?」
「信濃の豪族くらいじゃな」
胡蝶に聞いてみると、あまり知らないようだ。ここはドラ●モンじゃなかった、彼に聞いてみるか。
「小太郎さんは?」
俺の声に反応し、今まで誰もいなかった縁側に人影が現れた。胡蝶が驚くから、もう少し出方というものを考えてほしい。
「海野庄を取り戻すのに必死だな」
相変わらずぶっきらぼうだな。
「能力は?」
「智謀はそれなりに。武勇はそこそこ」
「人望は?」
「同じ滋野氏の海野と禰津に顔が利き、小県郡と佐久郡にもそれなりに知己はある」
滋野氏というのは海野さん、禰津さん、望月さんの三家のことらしい。この三家を滋野三家と呼ぶのだとか。そして俺でも知っているあの六文銭の真田さんは海野さんの分家筋なんだって。海野さんの家紋も六文銭。ちょっと興奮するね。
現在真田さんは海野さんの下を離れ、武田さんの力を借りて砥石城を攻略して真田庄を取り戻したんだって。海野さんも分家の真田さんに負けないように、海野庄を取り戻したいんだろうね。それなら武田さんに……もう遅いか。今武田さんの下についても、真田さんの風下に立たされるかもしれないもんね。
本家の矜持と望郷の念か。本家云々は置いておいて、故郷への念は俺も分かる。異世界で必死に戦ったのは、日本へ戻るためだったから。それを考えるとまた腹が立ってきた。あの女神、今頃何をしてるのかな? どうせ碌なことしてない気がする。
まあいい胡蝶と出逢えたことで帳消しにしてあげるよ。少しもやもやするけど。
「某、海野棟綱と申します。急な訪問にも関わらず、お会いいただき感謝します」
「俺は賀茂忠治です。今日はどのようなご用向きでしょうか」
海野さんは六十くらいのお爺さんで、俳優の小日●文世さんに似ているかな。なんとも言えない飄々とした雰囲気の人だ。
「どうか某の望みを叶えていただけないでしょうか」
「望みですか。どのような望みでしょうか」
聞かなくても想像はできるけど、俺は知らないという体で話を進める。本当は聞きたくないけどね。
「某は信濃国小県郡海野庄を代々守っておりました。されど、天文十年に村上に攻められ、海野庄を離れることになり申した」
天文十年……十一年前らしい。十一年も故郷から離れているのか。ちょっと俺の過去にダブってシンパシーを覚える。
「どうか、某が海野庄を取り戻すための助力をお願い申しあげます」
床に額をつけて頭を下げる。どこの馬の骨かもしれない俺に、そこまで頭を下げるか。その必死さに心が揺らぐ。
「俺はあまり情勢に詳しくないのですが、海野庄は上野からやや遠く、海野さんが戻ることができてもすぐに奪い返されるのではないですか。それに今の上野は北条さんへの対策が最優先の課題です」
海野庄に行くには、上野国碓氷郡から碓氷峠を通って信濃国佐久郡に入り、そこから小県郡へ向かわなければいけない。仮に海野庄を奪還することができても、上野と連携するのは難しい。守るためには、佐久郡全体を海野さんか上野勢がとる必要があるかな。評定でも言われていたように、それでは武田さんと全面戦争になるからさ、簡単じゃないわけ。
評定では信濃のことは棚上げで、北条対策のほうが急務ということになった。それを俺が覆すのはどうかと思うわけよ。
「そのための賀茂殿にござる! 一騎当千。いや、万夫不当の賀茂殿に出馬いただき、海野を庇護していただきたく! もちろん海野は賀茂殿に臣従いたします。どうか、どうかぁぁぁっ」
必死に頭を下げる。困ったな、ここまで頼まれると断りづらいんだけど。
とりあえずお義兄さんに判断を仰ぐとするか。もちろん温泉の後ね。俺、湯治に行くんだ。
十一年待ったんだから、お義兄さんの判断が出るまでの時間を待つくらいできるでしょ。
でも多分駄目と言われると思う。評定で北条さんに備えることになったのに、それを簡単に覆して海野庄に攻め込んだらお義兄さんが侮られる。
別に俺一人でも海野庄を取り戻すことはできると思うけど、お義兄さんの顔を潰すことになるからね。義弟としてはできないよね。
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