014-1_海野さんがやってきた
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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014-1_海野さんがやってきた
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金山城に雪が降った。胡蝶と二人で雪見風呂だ。こういうのんびりとした時間が心地良い。
「いい湯だな」
「はい」
胡蝶が盃に酒を注いでくれる。それをクイッと飲む。旨い。何が旨いって、隣に胡蝶がいることが一番のスパイスだ。それだけで何を食べても、何を飲んでも旨い。
「胡蝶も飲むか?」
「いただくのじゃ」
俺の盃を渡して、徳利を傾ける。
可愛らしい口で盃の酒をコクコクと飲むその姿が萌えるぜ。
「美味しいのじゃ」
お義兄さんが俺に城をくれると言うが、俺はずっと断っていた。でも温泉地の城が欲しくなる。一年中温泉に入り放題なのは魅力だ。
風呂はお湯を沸かしてもらうんだけど、小物という使用人たちが大変な思いをして沸かしているんだ。ちょっと気が引ける。
別に俺が魔法で沸かしてもいいけど、それをやるとね。色々な人から止めろと言われそうだ。
「露天風呂もおつなものじゃな。ただ恥ずかしいのじゃ」
「胡蝶の裸を見た奴は、俺がぶっ飛ばす。記憶なくなるまで殴り倒してやるから安心しろ」
「できれば見られる前になんとかしてほしいのじゃ」
「それもそうか。ははは」
一応、ここに近づけるのは風呂の火を見る小者と女性だけ。女性も風魔党のくノ一だから、戦闘力は折り紙付きだ。
ある日のことだ。俺と胡蝶は温泉地に向かった。俺が温泉に入りたいと言ったら、胡蝶も入りたいと言うのであの有名な草津温泉に向かっている。
「寒くないか」
「忠治にくっついているから暖かいのじゃ」
胡蝶は一人で馬に乗れるけど、そんなの俺が許さない。俺とタンデムですよ。俺のマントの中にすっぽり胡蝶が入って顔だけ出している状態だね。
ああ、柔らかい。何とは言わないが、柔らかいのだ!
「忠治殿。人目がありますゆえ、あまりいちゃいちゃしないでください」
「見たい奴には見せつけてやればいいでしょ」
爺やさんが苦笑し、俺は笑い飛ばす。胡蝶は頬を赤らめて可愛らしい。
俺たちが住む金山城は上野の南東部。目的地の草津温泉は北西部。上野を斜めに横断する感じだね。
新田家の筆頭家老でもある爺やさんだけど、俺と胡蝶さんのお目付け役としてついてくる。爺やさんも温泉に浸かって湯治したらいいと思う。
厩橋城の近くにさしかかると、伊勢守さんが合流した。伊勢守さんの上泉城はこの近くにあるんだ。
「久しぶりですね、伊勢守さん」
「ご無沙汰しており、申しわけありません。師匠」
「そんなこと気にしてないよ。領地のほうはどう?」
「おかげ様で領内は安定しました。これも師匠のお心遣いのおかげです」
銭を少し融通しただけで大したことしてないけど、伊勢守さんは何度もお礼を言う。そういうのいいから、旅を楽しもうよ。
「伊勢守さんも働きすぎだと思うから、心身を休めるいい機会だよ」
伊勢守さんとそのお弟子さん数人を加えて、厩橋城に逗留。
「殿がこの厩橋城をと申しておりますぞ、忠治殿」
城をくれると言うお義兄さんがしつこい。俺の活躍で多くの城や土地が新田家のものになった。それに負い目を感じているんだね。でもさ、温泉地にちょっとした屋敷をもらうなら考えるけど、領地経営なんて面倒だから領主なんてしたくない。
厩橋城は去年北条さんの城になった。長野さんの一族が城主をしていたらしいけど、あの関東管領の上杉さんが越後に逃げた時に一緒に逃げたのだ。
今年の夏に上杉さんと一緒に戻ってきて城主に返り咲いたんだけど、俺が上杉さんと長尾さんをぶちのめした際に城主と嫡子を殺してしまったようで、城主一族は箕輪の長野さん預かりになっている。
この厩橋城の近くに伊勢守さんの上泉城や小太郎さんの蒼海城があるため、俺の勢力に囲まれていると皆に思われているらしい。だから長野さんも厩橋城に親戚を入れてほしいとは言ってこないようだ。腹の中は分からないけど。
一応、厩橋城から見て上泉城は北東に、蒼海城は西側になる。
伊勢守さんと小太郎さんは俺の弟子と配下だから、その間にあるこの厩橋城は俺のものにするには丁度いいと皆が思っているらしい。しかも厩橋城の立地は上野の中心から南寄りの場所にあるため東にある金山城が攻められたり、信濃から武田さんが攻め込んできたり、武蔵から北条さんが攻め込んできたりした際に連絡がしやすい場所なんだって。北東の陸奥国からは少し遠いけどね。
俺としては自由にあちこち動けるほうが都合がいい。その際に胡蝶は堅牢な金山城にいてほしいわけよ。金山城は俗に言う山城で、攻めるのが難しく防衛に向いている。しかも俺が防御を強化したから、防御力は日本一だと思っているわけ。
俺にとって胡蝶の安全が何よりも優先されるのだ。
もし厩橋城をもらうことがあったら、防御力は上げるよ。それこそ金山城どころじゃないくらい爆上げする。
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