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012-1_新田家

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 012-1_新田家

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 戦の時って、土足で建物の中に入るんだよ。信じられないよね。いつ何があるか分からないから、草履を脱がないんだってさ。

 だから城の中は掃除がしやすいように、板の間ばかりなんだって。


 お義兄さんを始め、爺やさん、横瀬さんなどなど色々な武将が集まった大広間。この後の掃除が大変だなーと、汚れた床を見つめながら会議に出席している。


「関東管領軍二万を撃退してくれた忠治殿には感謝しかありません。この通りです」

「いえ、少し腹に据えかねたものですから、つい」

「ついで二万の軍を撃退できるものではないのですよ」


 お義兄さんは軽やかに笑った。それにつられて爺やさんたちも笑う。広間の雰囲気はこれ以上ないくらい明るい。

 こういう笑顔を見ると、やってよかったと思う。


「殿。此度のことはすぐに上野だけでなく、関東中に広まりましょう。この際、再び新田姓を名乗られてはいかがでしょうか」

「新田姓を……」


 爺やさんが苗字を変えるように提案すると、お義兄さんは顎に手をやって考え出した。


「おお、それは良い。源実朝公により源氏の嫡流が途絶えたことで、新田が源氏の正嫡。足利などは新田の分家にござる。殿が新田姓を名乗り、上野さらには関東をまとめ、乱れに乱れた天下を静謐(せいひつ)に導くべきです。それができるのは殿を置いて他にはございません!」


 横瀬さんが何やら力説しているけど、天下とか話が大きすぎない?

 てかさ、こういう血筋の話って本人の考え次第でいくらでも捻じ曲げることができるよね。誰が家を継ぐとか継いだとかってさ、その時の権力者によって改ざんされていることがいくらでもあると俺は思うんだ。だから横瀬さんの言葉が正しいと鵜呑みにすることはできない。けれど時の権力者によって改ざんできるなら、間違っていても権力を手に入れて改ざんすればいい。なんて思ってしまうんだよね。


「「「おおおっ」」」


 家臣たちが目をキラキラさせている。


「新田姓を名乗るのは良い。しかし話が大きすぎますね、信濃守」

「そのようなことはございません。賀茂様がおられれば、殿が天下を取ることも夢ではないでしょう」


 俺任せかよっ(笑)


「天下云々は時間をかけて話し合いましょう。されど新田姓はこれより名乗られるということでよろしいですな」

「そうだね。そのように取り計らってくれるかな、孫九郎」

「承知いたしました!」


 爺やさん嬉しそうだな。


「殿。天下の話は時間をかけるにしても、この上野の平定はできるだけ速やかにしたく存じます。殿が上野を治めなければ、武蔵から北条、下野や下総からは古河公方や宇都宮、信濃からは武田が攻め寄せてきましょう。それを防ぐには、殿がこの上野をまとめる他ありませんぞ」


 他の地域から攻められないようにするために、お義兄さんが頂点に立って上野の人たちをまとめるのは悪い話じゃないと思う。俺の体は一つしかないから、複数の方向から同時に攻められたら対処できないからね。


「某も信濃守殿の提案に賛成でございます。殿が上野をまとめて他国の介入を防ぎなさいませ」

「孫九郎もか……分かった。そのように動くとしよう。上野をまとめる。皆の働きに期待する」

「「「はっ」」」


 お義兄さんが上野の主になる覚悟を決めたか。俺もがんばらないとね。


「それでしたら賀茂様の名をお借りして、上野の国人たちを降らせましょう」

「甚左衛門。それはどういうことかな」


 矢田堀甚左衛門さんは、金山城の北にある支城を任されている人だ。四十過ぎの脂の乗った人で、弓の名手らしい。その矢田堀さんが俺の名を借りたいと言う。お義兄さんだけでなく、俺もどうするのか聞きたい。


「さればでございます。今回のことで賀茂様の恐ろしさは越後と上野の者に否応なく伝わることでしょう。故に上野の各国人へ新田へ降るように使者を出しましょう。臣従すれば良し、断れば新田の守護神もしくは赤鬼が敵を食らい殺すと言ってやればよろしかろうと存じます」

「なるほど! それは面白いな!」


 それ、脅迫だよね。


「それは悪くない。遠からず忠治殿の名は上野中に鳴り響くことでしょう。皆が忠治殿に恐怖いたしますゆえ、今のうちに臣従を申し入れて来た者は所領安堵し、そうでない者を滅ぼし新田が源氏の惣領であることを示しましょうぞ」


 矢田堀さんの提案に、横瀬さんと爺やさんは大賛成。諸手を上げて支持している。


「それはならぬ。忠治殿の名を汚す真似はしてはならぬ」


 お義兄さんが止めると、家臣たちが黙った。

 別に俺は構わないけど、お義兄さんにこう言われてはなかなか言葉が出ないようだ。


「ならば噂ではいかがでしょうか」


 今度は堀越右衛門太夫さんが提案する。この人も金山城の支城の植木野城を任されている人だけど、まだ若い。三十にもなって無い若さで、城を任されているのだから優秀なのかな。


「使者は出さず、噂を撒くのです。新田に降らなければ、赤鬼が現れると。いかがでしょうか」

「殿。噂だけでもそれなりの効果があると存じます。ご了承いただけないでしょうか」


 爺やさん必死だね。それだけ新田を盛り立てたいんだろうな。今まで辛酸を嘗めてきたから、どうしても新田を盛り立てたいんだろうな。


「忠治殿。噂だけにする。名を貸してくれますか」

「大した名前ではないですが、お好きなように」

「すまないね。孫九郎、信濃守。噂だけだぞ」

「「ははぁぁぁっ」」


 この後話が盛り上がった。爺やさんたちはとても嬉しそうに悪だくみをしていたよ。


 

ご愛読ありがとうございます。

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