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窓の外には桜が散っていた。もう桜の見頃も終わりだろう。
病室で、茉莉花はたたずんでいた。
ベッドには天使のように安らかな隆吾の姿がある。
突然、春の突風が吹いた。桜の花びらを奪っていくかのように花びらが散って、空に舞った。
窓ガラスが揺れた音が聞こえたのかもしれない。
「隆吾くん……」
「……おはよう」
隆吾は微睡みながら茉莉花に応えた。
「おはよう。気持ち良さそうに寝てたよ、隆吾くん」
「春だからかな。最近よく眠れるんだ」
隆吾が倒れてから3ヶ月。隆吾が倒れたあの日、隆吾の母親にドナーが見つかった報せがあった。
隆吾は救急車で運ばれて、数週間後に骨髄移植を受けた。
経過は順調でもうすぐ退院だ。
「もうすぐ退院だね」
「うん。まさか生きられるとは思ってなかったよ」
「ねぇ、退院したらお願いがあるの」
「何?」
「あたしの処女をもらってくれないかな?」
隆吾は吹き出した。
「ふ。他に言い方あったんじゃない?」
「だってもらって欲しいんだもん」
「僕でいいの?」
「隆吾くんがいい」
「わかった。素敵な初めてにしよう」
春の柔らかな日差しが二人を包んでいた。