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 数ヶ月経って、茉莉花に転機が訪れた。


「三条さん、僕と付き合って下さい」


 体育館裏、男子生徒が頭を下げる。


 男子に呼び出された茉莉花は初めての告白を受けていた。


 茉莉花は、信じられない、といった表情で手を口に当てて驚く。


「あ、あたしでいいの? 真山くん。真山くんは転校生だからあたしのことよく知らないかもしれないけど、うちのお父さん、極道なんだよ?」


「聞いたよ、他の男子から。でも、オレ、君のことが好きなんだ。君のお父さんの職業なんて気にならないくらい」


「嬉しい! 是非、あたしと付き合って!」


 茉莉花は手を差し出して、二人は握手を交わした。


 それから日曜日は毎週デートに出かけた。


 茉莉花は重松には友達と遊んでくる、と言って彼氏の存在を内緒にして、映画館や繁華街へデートに出かけた。


「楽しい! 好きだよ! 涼介くん!」


 まだ手を繋いで歩くだけの関係だったが、茉莉花は恋に一生懸命だった。


 が、幸せは長くは続かなかった。


 付き合い出して3週間経って、涼介は茉莉花をカフェに呼び出した。


「茉莉花ちゃん、大事な話があるんだ」


「何?」


「オレと別れて欲しい」


「え!? まだあたし達3週間しか付き合ってないじゃん!」


「君のお父さんがうちに来たんだ」


「え……」


「茉莉花ちゃんが付き合いだしたのに勘づいて後をつけたらしい。オレ、黒塗りの車に乗せられて、これ以上娘と関わったら殺すって脅されたよ。超怖かった」


「あんの、馬鹿親父」


「ごめん、もう君とは会えないよ」


「そっか……」


「本当にごめん」


「いいよ。気にしないで。涼介くんは悪くないよ」


 だが茉莉花にはもやもやした思いが立ち昇っていた。


「ごめん、あたし、帰るね」


 茉莉花は気持ちの整理がつかないまま、涼介を残して席を立った。


 電車に乗って最寄り駅に着く。茉莉花は駅のホームに着くなりベンチに座った。


 電車の中では堪えていたが、思いが一気に溢れ出した。


 茉莉花は人目をはばかりながら泣いた。


 さんざん泣いた後、茉莉花は最寄り駅を出た。


 時刻は22時を回っている。家までは徒歩で15分ほどだが、帰りたくないので、明かりのある飲み屋街をふらついて歩く。


 すると、酔っ払いに声をかけられた。


「お嬢ちゃん、おじさんと遊ばない?」


「あ?」


 茉莉花はキレそうになったが、中年の酔っ払いは茉莉花の腕をつかんで、しつこく絡んでくる。


「気持ち悪い、離せよ! おっさん」


「まあまあ、そう言わずに、遊ぼうよ」


「しつこいんだよ!」


 つかまれた腕を振り解こうとするが、力が強くてなかなか離れない。


 誰か助けて、そう叫ぼうとした瞬間。


「やめなよ」


 長身の男子高校生が酔っ払いの腕をつかんだ。


「な、なんだ、このガキ」


 ぎゅっとつかんだその手は力が強かったのだろう、酔っ払いを跳ね除けた。


「警察呼びますよ?」


 男子高校生が言うと「ちっ」と言って酔っ払いは去っていった。


「あ、あの、ありがとうございました。って、え!?」


 茉莉花が男子の鞄を見ると、ヘルプマークと『フィギュかの』の缶バッチがいっぱい付いていた。


 あのカフェで見た男子高校生だ。


「あ、あの、『フィギュかの』好きなんですか? あたしも好きなんです」


 と言って、茉莉花は自身の鞄につけたアクキーを見せる。


「わ、すっごい! 推しも一緒だね」


「あたし、三条茉莉花って言います。名前教えてくれませんか?」


「あ、僕は、白川(しらかわ)隆吾(りゅうご)


「『フィギュかの』のこと良かったら話しませんか?」


「あ、でももう遅いし帰った方がいいよ?」


「あたし、帰りたくないの」


「え?」


「家出したいの。ねぇ、今晩泊めてくれない?」


「えー!? 急だね」


「ごめんなさい。あたしって、変だよね」


「うーん。ちょっと待って」


 隆吾はスマホを取り出して電話し始めた。


 数分後、電話を切った隆吾は言った。


「母さんに話したら、今晩だけなら泊めてもいいって。うち来る?」


「いいの? やったー!」

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