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茉莉花が家、(といっても組の者が出入りする日本家屋なのだが)に帰ると、一斉にクラッカーが鳴らされた。
パンッ! パンッ! パンッ!
「ハッピーバースデー〜お嬢〜♪ ハッピーバースデー〜お嬢〜♪」
組の男衆5人が、玄関で茉莉花を囲んで、バースデーソングを歌う。
「やめろ! 恥ずかしいだろ!」
茉莉花は男衆を制する。
「まあまあ、そう言わんといて下さい、お嬢。みんなお嬢を小さい頃から大事に育ててきたんや。お嬢が17歳になったなんて、オレ達、感無量なんやから」
「お嬢!、ケーキ用意してありやす。どうか居間の方へどうぞ」
「ちっ、しゃあねぇなぁ」
茉莉花は男衆の好意を無下には出来ず、居間で祝ってあげられることにした。
「よ! お帰り。茉莉花」
居間では茉莉花の父、三条重松が和室の上座に陣取っていた。
部屋はうす暗く、真ん中にあるテーブルにはバースデーケーキが、蝋燭の火をチラチラと灯している。
「ああ。ただいま、親父」
「さあさ、立ってないでケーキの火を消してくれ」
「あのなー、ケーキに蝋燭って、小学生じゃないんだから」
「いいから、早く」
「ちっ、しゃあねぇなぁ」
茉莉花は座布団に座って、ケーキの火をふっと吹き消す。
パチパチパチと廊下にいる男衆から拍手が起こると、部屋に電気が灯された。
「茉莉花、お前ももう17だ。男手一つで育ててきて、娘が無事に育ってくれることほど嬉しいことはない。オレは涙腺緩みっぱなしだぜ」
「あ、ありがとうな、親父。恥ずかしいが嬉しいよ」
「お前、良い子に育ちやがって。そうだ、ほれ、誕生日祝いだ」
そう言って重松は、ラッピングされた箱を茉莉花に渡す。
「開けていいか?」
「おう、開けてくれ」
茉莉花が包みを開けると、中から高級ブランドの鞄が出てきた。きっと数十万はする。
「あー。ありがとな。高校生が持つには高すぎるブランドで、きっと使わないが大事にするよ」
「使え、使え。お前は頭の娘だ、それくらい持ってて当然だ」
「あ、あたしは、普通の高校生でいたいんだよ。もっと普通のプレゼントの方が良かった」
「茉莉花、気に入らないのか? オレのこと嫌いか?」
「ばっか。そんなこと言ってねぇだろ。悪かった。嬉しいよ、ありがとう」
「がはは。そうだろう、そうだろう」
すると、男衆の一人が茉莉花に包みを差し出す。
「お嬢、オレもプレゼント用意しました。お嬢の好きなアニメのグッズです!」
「マジか、後藤。そうだよ、こういうプレゼントが普通で嬉しいんだよ。あんたは気がきいてるなぁ」
「へへ、ありがとうこざいやす!」
茉莉花は嬉々として包みを開ける。
「──何、これ?」
「お嬢の好きなアニメ、『フィギュアな彼女』のコミックです」
「ばっか! これ同人誌じゃねぇか、しかも18禁の!」
「へ?」
「あ、あんた、うら若き乙女に向かってなんてもんくれてんだ!」
「す、すいやせん。間違いやした」
すると、重松が怒号を放つ。
「おい!後藤!」
「へい。頭」
「娘はまだ処女だぞ? よくも娘を汚しやがったな?」
重松の言葉に茉莉花は顔が真っ赤になる。
「馬鹿親父! 娘に向かって処女とか言うな!」
「おい、後藤! 指切れぃ!」
「へい! 切りやす!」
それを聞いて慌てて茉莉花が止める。
「ばっか。切らなくていい。それくらいのことで!」
「マジっすか、お嬢」
「後藤、命拾いしたな。茉莉花に礼言っとけ」
「へい。お嬢、ありがとうございやす。オレ、お嬢に一生ついていきやす」
「ばっか。ついてくんな、鬱陶しい。こ、このコミックは、今後の勉強のために貰っといてやる。あ、ありがとうな」
「へい。お嬢から礼を言われるなんて、オレ感激して泣きそうっす」
「もう、本当にこの組は馬鹿ばっかり。あたし、自分の部屋行くよ」
「茉莉花!」
「なんだよ馬鹿親父」
「ケーキ食べていきな」
「わかったよ」