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読んでいただきありがとうございます。
全5話ですので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
学校一の美少女と名高い三条茉莉花は、窮地に陥っていた。恋愛の。
「田村くん、あたしと付き合って!」
体育館裏で茉莉花は男子に告白する。
「ひ、ひぃー。お助けを!」
「あ、ちょっと、逃げないでよ!」
男子生徒は泡を食って逃げてしまった。
「くー。15戦15敗。これも全部、馬鹿親父のせいだわ!」
茉莉花は悔しがる。
茉莉花がモテないのには理由がある。いや、男子の間ではその美貌は褒め称えられているのだが、みんな茉莉花のことを避けている。
あの事件以来。
「──指定暴力団 壱伍組の組長、三条 重松容疑者が高校生を拉致した疑いで、逮捕されました。
三条容疑者は容疑を否認しており、"男子高校生が娘と交際しようとしたから説教しただけだ"、などと述べています」
テレビに移る茉莉花の父親。
一年生のとき、茉莉花と同じクラスの男子が茉莉花に告白した。
まだ誰とも付き合ったことのなかった茉莉花は、OKした。
しかし男子生徒は茉莉花の父親に拉致されてしまう。
よほど怖い目にあったのだろう、解放された男子生徒は、転校していった。
以来、七星高校では、三条茉莉花と付き合うと、ヤのつく人から目をつけられると専らの評判で、誰も茉莉花に近づかなくなった。
教室で茉莉花はクラスメイトと話す。
「茉莉花、あんたの鞄、またアクキー(アクリルキーホルダー)増えた?」
「うん。またガチャ回しちゃった。だって『フィギュかの』の推しを集めてるんだもん」
「そんなにジャラジャラしてたら、男子から引かれるんじゃない?」
「いいの。あたしの理想は一緒に『フィギュかの』について語れる人なんだから」
そんな茉莉花を尻目に男子生徒達は噂する。
「惜しいよなー。あんなに美人でしかもアニメオタクときた。オタクのオレらからしたら、天使みたいな条件が揃っているのに、悪魔のような親父がバックについているんだから」
男子から注目される茉莉花だが、恋はなかなか実らなかった。
学校の帰り、都会の雑踏の人通りは激しい。
繁華街で茉莉花は声をかけられた。
「君、かわいいねー。ライン交換しない?」
見ると、今どきのマッシュボブでイケメンだ。だが、茉莉花は相手にしない。
「あたし、急いでるから」
「そんなこと言わずにさー、合コンしようよ」
「うざい。消えてよ」
「ちっ、高飛車な女」
茉莉花の事情を知らない男子から茉莉花はよくナンパされるのだが、茉莉花はチャラい男は眼中になかった。
「あーあ。どっかにあたしの運命の人いないかなぁ」
最寄り駅のカフェで茉莉花は一人、ストロベリーフラペチーノを楽しむ。
すると隣の席から男子の声が聞こえてくる。
「お前、鞄の缶バッチまた増えたんじゃね?そんなにつけてると女子から引かれるぜ?」
「いいんだ。僕の理想は『フィギュかの』について語れる人なんだから」
それを聞いて茉莉花は思った。
「何、このデジャ・ヴ。どんな人が話しているのかしら」
茉莉花はちらっと横目で男子達を見る。
鞄に目が行く。ヘルプマークがついている。病気の人かな?
でもヘルプマークを覆い隠すほど、缶バッチがいっぱいついている。
『フィギュかの』の缶バッチだ。しかも推しキャラは茉莉花と一緒。胸が高まる。
目線が男子の方へ行く。
学ランだ。高校生。そして顔は。
茉莉花が男子生徒の顔を見た瞬間、はっ、となった。
長いまつ毛、綺麗な肌、清潔感のあるベリーショート。
イケメン! 茉莉花の心は胸踊る。
一緒に『フィギュかの』について語りたい!
と思った瞬間。
ブブブッ、ブブブッ。茉莉花のスマホに着信だ。
「はい。なんだよ、え? 組であたしの誕生日パーティーするから早く帰れ? あたし、何歳だと思ってんの、この馬鹿親父!」
ちっ、と舌打ちして茉莉花はスマホを切った。
そして意気揚々と隣を見る。
だが男子高校生はいない。帰ってしまっていた。
「あー、運命の人だと思ったのに! ちくしょう、何もかも馬鹿親父のせいだ!」