落ち来て我は何を待つらむ
落ちる、落ちる、何処までも落ちて行く───
落下していく感覚が延々と続く。
猛烈な速さで過ぎ去って行く景色の向こう、遙か遠くに見えていた光が次第に迫りそして、全身を包み込んだ。
純白の光の世界───尚も落ち続ける感覚の中、意識の片隅で微かに、女の声が聞こえた。
─────……い……めて……
「何!? 誰? 誰なの!? 何を言っているの!?」
白の世界を落下し続けながら、問い掛ける。
─────私は……お願い……止めて……
「とめる!? 何を止めるの!? 君は誰なの!?」
その問いは答えを得ないまま、純白の中へと飲み込まれていった。
地響きを伴う轟音が、意識を呼び覚ました。
響き続ける唸りに怯え、恐る恐る顔を上げる。
浅縹の空と櫨染色に波打つ砂漠、炯然たる白い太陽によって映し出される黒い影────。たった四つの色で構成される世界が、何処までも果てしなく広がっている。
少しすると音は止み、荒涼とした風の音が静かに吹き抜けて行く。
顔や服についた砂を落としながら、ゆっくりと立ち上がって辺りを見渡す。
砂、砂、砂────。生き物の気配を感じさせない砂の世界を遠くから、生き物の様に蠢く細かい砂の群れが生温い風に乗り、足元を通り過ぎていく。
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「何?……ここ……?」
砂の世界に一人佇み思わず、リサイリはそう言葉にした。
────ここは何処!? 一体何が起きたん……!?
冷静に記憶を辿る間もなく、再び大気を振るわせる爆音が轟き、地面が揺れた。
周囲一帯を包み込む轟音に驚いたリサイリは、うわぁっ! と声を上げてかがみ込んだ。
腰を低くしたまま、警戒しつつ辺りを見回す。少し離れた所にある砂丘の向こう側に、激しく立ち昇る黒煙が目に入った。
重い砂に足を取られながら、リサイリは丘へと向かって走った。
崩れ落ちる砂を駆け登り丘へと上がると、一気に視界が広がり焦げ臭い熱風が吹き付けてきた。
焼けた風と、それによって巻き上げられる砂に目をしかめる。風の吹いてくる方へ視線を向けるとそこでは、壮絶な戦闘が繰り広げられていた。
────あれは……魔導機!?
遠くの空を飛び回る無数の魔導機と、それらの優に十倍はあろうかという、一機の巨大な人型の魔導機が戦っているのが見える。
赤黒く禍々しい紋様に包まれる機体から、仄暗い湯気の様な物を立ち昇らせる巨大な人型魔導機が、背中から夥しい数の赤い光線を放った。
赤い光線が、縦横無尽に空を飛び回る他の魔導機を追いかける。
光線に撃ち抜かれた魔導機は爆発を起こし、炎に包まれ次々と砂漠へ落ちていく。
乱れ飛ぶ光線、爆炎に煙る激戦────。その中を、青い稲妻を纏う一機の魔導機が駆け抜けた。
青白い炎を吹き出し、異常な速さと機敏な動きで、稲妻の魔導機が青い光線と無数の火球を乱れ撃つ。爆炎に包まれた巨大人型魔導機が怯んだ。
その隙に、他の魔導機が蜘蛛の子を散らす様にして退却していく。
どうやら稲妻の魔導機が囮となって、他の魔導機を逃している様だった。
他の魔導機が撤退すると、稲妻の魔導機は巨大魔導機を翻弄しながら少しずつ、離れて行く。
そして稲妻の魔導機は、蒼い爆炎を吹き上げながら一直線に、リサイリの方へと向かって来た。
「ぉおおぉぉおおーーーー!?」
猛烈な速さで飛んで来る稲妻の魔導機に、リサイリは驚きのあまり声を上げて尻もちを付いた。
そうして動けなくなっているリサイリの真上を、稲妻の魔導機は超低空飛行で駆け抜けた。その勢いと風圧に圧倒されたリサイリは、更に後ろにひっくり返った。
瞬く間に遥か彼方へと遠退いて行く稲妻の魔導機を追いかける様に、空気を引き裂く轟音が響き渡った。ひっくり返ったままのリサイリの視線がそれを追い掛ける。
甲冑を纏う騎士の姿を思わせるその魔導機は、軍用魔導機という印象とはかけ離れた、華やかな模様が所々に施されていて、鮮やかな桃色の機体をしていた。
手にはキラッキラに装飾された棒状の物を抱えていて、兜を被った様な頭部には、その屈強な姿形とはおよそ不釣り合いな、真っ赤なリボンがひとつ、ついていた。
────ななな……何なの……あれ……!?
遠くの空を駆ける稲妻の魔導機を言葉無く見つめていると、稲妻の魔導機が急旋回し、再びリサイリへと向かって直進して来た。
「ふが!?……何なになんで!? なんでこっち来るの!?……どっどどどうしよう!……どどどどどうしよう!」
確実に自分の方へ向かって飛んでくる稲妻の魔導機に、リサイリは立ち上がる事も出来ず、後退りして後ろを振り向いた。
「うぎゃーーーー! あわわわわ……」
視界に映った光景に、リサイリは絶叫した。
かなり遠くに居たはずの巨大魔導機が想像以上の速さで接近していて、もう既にすぐ近くまで迫って来ていた。
「あわわわ……!」────逃げなきゃ! ににに逃げなきゃ! 逃げるって……逃げるって何処に!?
正面から稲妻の魔導機、後ろからは巨大魔導機────。正体不明の魔導機が前後から迫る。どうする事も出来ずにリサイリは、唯々じたばた右往左往する。
そんなリサイリの姿を映し出すゴーグルモニターの映像を見つめながら、稲妻の魔導機の操縦席に座る女が思わず言葉を洩らした。
「……どうしてこんな所に子供が!?」
その直後、男の声が女に問い掛けた。
「姐さんどうしたってんだ!? もう皆撤退出来てる! 逃げるんだよ早く!」
「お前たちはそのまま撤退しな! 民間人を一人発見した! 少年だ!」
「あぁ!? 少年だぁ!? んな訳ねえでしょ! ここに人なんかいるわけ……」
否定する男の声を遮って、姐さんと呼ばれた女が声を荒げた。
「居るんだよそれが! とにかく! こんな所に放っておくわけにはいかない! 私はその子を保護してから撤退する! お前たちは良いからとっとと行きな!」
「だけども姐さん! 大神はもうすぐそ……」
男が話し終わる前に、姐さんと呼ばれた女が無数に浮かび上がる小さな魔法陣を操作すると、音声が途絶えた。
────くっ! 大神めもうあんな所に……!
モニターに映し出される超巨大魔導機『大神』を睨み、女は両手に握る操縦桿を引絞った。
────間に合うか!?……いや……「間に合わせる!」
女がそう叫ぶと、稲妻を纏う桃色の魔導機が眩い光に包まれた。
次の瞬間、全身桃色で赤いリボンのついたある種異様な姿のその魔導機は、短く響く低い唸りと共に、リサイリの正面に姿を現した。
「あがっ……が……が……!?」
突如目の前に出現した異形の魔導機に思わず変な声を上げて固まるリサイリを、その魔導機が両手で優しく包み込む。
「な……な……なななな……!?」
驚きのあまり何の抵抗も出来ないリサイリを捕まえた稲妻の魔導機は再び光を放ち、そして、その光の中に溶け込むようにすうっと、姿を消した。
第四章がスタートです!
慈雨たる御手の前で姿を消したリサイリがどうして砂漠に!? そしてあれよあれよという間に謎の桃色の魔導機に連れ去られてしまいましたよ!? 一体ここは何処!? 魔導機を操縦していた女の人は誰!?……でもちょっと待って! これってもしかして……!?
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