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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第三章 イムラン悲愴曲
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守らるるなりけり 後編

 矢に貫かれた脚に激痛が走る。

 まともに歩く事も出来ない。


 それでも進む。

 

 助けを求める人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っている。

 狂信者たちの振り下ろす凶刃が罪の無い命に突き刺さる。


 それでも進む。だからこそ進む。

 

 両手で杖にもたれ、脚を引きずり、歯を食いしばる。


 渾身の力を振り絞り、今まさに剣を振り下ろそうとするギルアデに、セルシアスは飛び掛かった。



「ジャフィリヤさん! 逃げて早く! 今のうちに逃げて!」



 ギルアデを後ろから羽交い締めにしながら、セルシアスが叫ぶ。


 剣で貫ぬかれた傷から溢れ出す血が床を滑らせ、ファルトゥマを抱いて必死に逃げるジャフィリヤを赤く染めて行く。



「邪教徒め……離せ……離せ!」



 戦う術も知らず、ましてや、立つ事さえままならないセルシアスに、鍛え上げられたナダールの戦士を止める事など出来るわけがない。


 ギルアデは背中に取り付くセルシアスを鷲掴みにして引き剥がし、壁に叩き付けた。


 激しく打ち付けられたセルシアスは苦痛に呻き、床に崩れ落ちる。



「ナダール神の慈悲深い御心が分からぬ愚かな邪教徒め……」



 床に倒れ込むセルシアスにギルアデが剣を振り上げようとした瞬間、他の誰かが横からギルアデに飛び掛かかった。


 ギルアデ諸共床に倒れ込み、激しく揉み合いながら、ナキールが叫ぶ。



「もう城のあちこちにナダールの奴らが入り込んでる! 外へ逃げろ! 中央広場へ向かえば味方の兵士が居るはずだ! 外へ逃げるんだ!」



 ギルアデはナキールを突き飛ばし剣を振り上げるが、セルシアスがギルアデの脚にしがみつき、続いてエリヤもギルアデに飛び掛る。


 血を流し、よろめきながらジャフィリヤは立ち上がり、ファルトゥマを抱えて必死にその場から逃げ出した。



─────────────────────



 ────逃げた方が良いかしらね……



 イザベラの体力はもう限界だった。

 そうであるにも拘わらず、全く弱る気配を見せない闇の眷属に、イザベラは恐怖を覚える。



 ────いくら何でももう限界だわ……こいつ死なないのかしら……


 

 ウジェーヌとドラクロワの二人が放つ麗しき戦慄の攻撃『美麗なる恵み』そして、イザベラの持つ矛戟(ぼうげき)、『赤の誘い』によって繰り出される必殺の技『我暁となり瞬きて』────


 最大限の全力攻撃によって、既に十分なダメージを与えているはずだった。


 しかし、闇の眷属は尚も激しくのたうち、光の檻の隙間から凶悪な攻撃を仕掛けて来る。


 イムラン軍の援護とツァレファテの魔法障壁によってかろうじて防いではいるものの、イムラン軍は甚大な被害を受け、イザベラ自身も傷を負っていた。


 この檻がぶっ壊れたら、やばいわね───。イザベラが思った、その時だった。


 闇の眷属の腕が光の檻を突き抜け、イザベラを掴む。


 イザベラは握り潰されまいと全力で抗う。

 矛戟を振るって巨大な手に突き刺すが、その手を振り解く事は出来ない。



「ぐぅあああ! 離せ! 離しなさいよこのバケモンがー!」



 苦痛に絶叫しながらイザベラは、闇の眷属の手を突き刺し続ける。

 イザベラは捕らわれたまま激しく空に振り回され、暫くの格闘の後、ようやく手を振り解いたかと思った瞬間、イザベラは勢い良く遥か彼方へと投げ飛ばされた。



「ああっ!」



 手印を組み、必死に呪文を唱えていたツァレファテは、その様子を目にして思わず声を上げた。

 闇の眷属を倒し得る希望、正体不明の赤い戦士が今、失われた。

 もはや、闇の眷属を倒すのは不可能。

 魔法障壁も限界だった。



 ────それでも、だいぶ時間は稼げた……早く! 早く来て! 揺るがざる庇護……!



 光の檻が一本、また一本と崩れて行く。


 巨大な腕が空を、大地を、悍ましく弄る。

 漆黒の瞳でツァレファテを見つめ、闇の眷属は狂気の笑い声を上げ始める。



 ────もう……もうだめ……



 闇の眷属を包み込んでいた光の幕にひびが入り、硝子細工が壊れる様な音を立てて、弾ける。

 力の限界を迎えたツァレファテはその場に崩れ落ち、魔法障壁は光の塵となって砕け散った。



「ツァレファテ殿!」

「皆の者! ツァレファテ殿を保護して退却! 退却だ!」



 光りの塵となり、煌めきながら消滅していく魔法障壁の中、イムランの兵士たちが倒れたツァレファテを担架に乗せて退却を始める。

 瞬く輝きの中から醜悪にうねる黒い髪が這い出してきて、反撃しながら退く兵士たちへと絡み付く。

 血飛沫が、陽を受けて光る。


 

「早く……早く来て……」



 担架に仰向けになり、ツァレファテは朦朧とした意識で空を見つめ、守護の魔導大隊【揺るがざる庇護】の到着を祈る。

 

 何としてもツァレファテを守り抜く、絶対に死なせるわけにはいかない!───イムランの兵士たちは自らの命を擲ち、盾となってツァレファテを守る。


 その兵士たちを、闇の眷属の凶悪な猛攻が切り裂いていく。


 このまままでは全滅する、ツァレファテも殺されてしまう!───成す術も無く打ち崩され、追い詰められたイムランの兵士たちは死を意識する。


 殺意の黒髪を断ち切る魔法の矢は尽きた。光線を放つはずの魔導砲は、その魔力を失った。

 死を運ぶ邪悪を抑える力はもはや、微塵も残されてはいなかった。


 払い除ける事の出来ない絶対の脅威、確実な最期。

 せめてツァレファテだけでも────。身を呈して闇の眷属の前に立ち塞がる兵士たちの瞳に、鮮烈な蒼い光が映り込む。


 その光は、迫り来る狂気を、齎された絶望を、包み込んだ。


 

間一髪! セルシアスと城の料理人ナキール、そしてエリヤの三人がかりでどうにかギルアデを押さえ込み、ジャフィリヤは逃げ出す事が出来たようですが、城の中にはまだ沢山のナダール兵が入り込んでいます! 傷を負ったジャフィリヤとファルトゥマはどうなってしまうのか!?


そして、イザベラを失い絶体絶命のツァレファテたちのもとへ、遂にイムランの誇る守護の魔導大隊【揺るがざる庇護】が都西へ到着!


第三章イムラン悲愴曲、いよいよクライマックスです!



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