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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第一章 揺蕩いのプレリュード
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出発進行(おまけ付き)

「先生! 先生ー!」



 そう叫ぶ少年の声と、その少年が玄関の扉を叩く音でラシディアは目を覚ました。


 昨晩、セルシアスから届いた手紙をきっかけとして突如開催された、ラシディア言うところの『祝☆大賢者祭り』で朝方まで飲み明かしたラシディアは、眠い目をこすりながらふらふらとベッドから起き上がると、部屋の窓を開けて、あくびをしながら声のする方を見下ろした。



「……ふわぁ~……あれ~? サトワじゃない、どうしたの? こんな朝早くから」


「先生! 何寝ぼけたこと言ってんだよ! 朝じゃないよもう昼だよ! そんな事より先生! 大賢者と遠くへ行っちゃうって本当なの⁉」


「……え? 大賢者?……大賢……者……」



 ラシディアは降り注ぐ陽射しに目を細め、記憶を模索するように視線を宙に漂わせたかと思うと、陽の眩しさも忘れて目を大きく見開き、「ぁああぁあー!」と叫んだ。



「ジュメイラ! ジュメイラー!」


「あら、やっと起きたのね、喉乾いているでしょう? お茶飲む?」



 のんびりとした口調でそう答えるジュメイラに、階段を転げ落ちる様に降りて来たラシディアがその勢いのまま飛びついた。



「ジュメイラ何そんなのんきな事言って! 昨日! 昨日のあれ! 夢じゃないよね! あれ夢じゃないよねー!」


「え? 昨日のって……何の事?」



 ジュメイラが白々しくそう答えると、ラシディアの表情が一気に沈む。



「嘘よウソ! 大丈夫現実よ」



 悪戯っぽく笑いながらジュメイラがそう言うと、ラシディアは「はあぁ、良かったぁ、現実だったぁ〜」とにやけたが、すぐにまた血相を変えてジュメイラに掴みかかった。

 

 ラシディアに激しく揺さぶられてジュメイラの手に持つお茶が勢いよくこぼれる。



「あぁっ! あれ! あれは⁉ 手紙は⁉ セルシアス様からの手紙!」


「ちょっとラシディア落ち着いて! あれなら、お義父さんが立派な額縁に入れて、今朝早くからお義母さんと二人して街のみんなに見せびらかしに行ってるわよ」


「良かった……手紙も夢じゃなかった……って、え? 見せびらかしに行ってるって⁉……もう……何やってるのよ二人とも……」



 ラシディアが呆れた顔をしていると、「二人ともよっぽど嬉しいのよ」と言ってジュメイラが微笑んだ。

 

 その落ち着いたジュメイラとは対照的に、ラシディアは「はっ! そうだ! 私支度しなくちゃ!」と、ばたばたと慌ただしく階段を駆け上がって行く。



「って、ちょっとラシディア! あんた夕べ張り切って自分で支度してたじゃない、覚えてないの?……まったくもう……あら……?」



 ラシディアが騒々しく二階へ駆け上がって行った後、玄関の扉を叩く音に気付いたジュメイラが扉を開けた。



「あ! ジュメイラ姉ちゃん!」


「あらサトワじゃない、それにルナダにジャダフも、みんなどうしたの? そんなに慌てた顔して」



 サトワに加え、近所のルナダとジャダフも一緒にジュメイラを取り囲む。



「俺聞いたんだ! 先生もジュメイラ姉ちゃんも、大賢者と何処か遠くへ行っちゃうって!」

「ねえ! 本当なの⁉」


「え……あ、ああ、そ、そうね……」───もう……お義父さんたちが村のみんなに言いふらしたりするから……



 子供たちの質問攻めにジュメイラが困り果てていると、二階の窓からラシディアが顔を出した。



「ほらほらみんな、お姉ちゃんを困らせないの! 私もジュメイラも、直ぐに帰って来るから、みんな心配しなくていいのよ」


「本当に?」「すぐ帰って来る?」


「本当よ、だからみんなお利口にして待っているのよ」



 ラシディアがそう言って子供たちをなだめていると、急に陽が陰り、ラシディアを見上げていた子供たちの視線が、ゆっくりとそのさらに上へと向けられていく。



「……先生……あれ、なあに……?」


「え? あれって?」


「……ラ……ラシディア、な……何なのアレ⁉」



 ジュメイラまでもが驚愕の表情で子供たちと同じ方向を見上げている。


 ラシディアが窓から身を乗り出し、ジュメイラたちの視線の先、家の真上を見上げると、空を覆い尽くす程に巨大な白い物体が、鈍い光を放ちながら音も無くゆっくりとこちらへ向かって降りて来る。



「おい見ろ!」

「何なんだあれは⁉」



 近くにいた村人たちも全員空を見上げ、辺りが騒然となる中、ラシディアだけは満面の笑みで「セルシアス様だわ……」と呟いた。


 空中で静止した物体から、光の柱がラシディアの家の正面へと伸びて来て、その光の中を人影が降りて来る。


 ジュメイラが唖然とした表情で光の柱を見上げていると「ジュメイラ! セルシアス様が迎えにいらしたのよ!」と、ラシディアが玄関から飛び出してきた。


 家の前には村中から続々と人が集まってきて、騒めきながら光の柱を取り囲む。



「ラシディア、ジュメイラ、もう準備は出来たようだね」



 その声と共に光の柱からセルシアスが姿を現すと、周囲を取り囲んで騒ついていた村人たちが一斉に静まり返る。



「はい! セルシアス様! 準備は万端で御座いますです! はい!」


「あ、は、はい、セルシアス……さま?」



 ラシディアがおかしな言葉遣いながらも元気いっぱいに答えるその横で、ぎこちなく「さま」を付けて話すジュメイラに、セルシアスが「ジュメイラ、ラシディアも、私にその敬称は必要ないよ」と言うと、ジュメイラは「え? いいの? はあ、私はその方が気が楽だわ」と肩の力を抜いた。


 一方でラシディアは、「はい! でも私は『様』で行きます! いいえ! 是非そうさせてください!」と目を輝かせる。


 ラシディアたちがそんな話をしていると、周囲を取り囲む村人たちをかき分けて、デイラとカラマが帰って来た。



「ちょっと! ちょっと道を開けてくれ! あぁ! 大賢者様! この度はうちの娘たちがお世話に……!」



 余程遠いところから走って来たのか、二人とも息を切らせながらセルシアスに挨拶をする。



「この度はうちの……うちの、娘たちが……お……お世話に……ど、どうぞ中へ……」



 息も絶え絶えのデイラにそう促され、一同は家へと入って行った。



────────────────────



「私は、ダラジャトゥ・ハルラート・アーリエン・セルシアスと申します。御父様、御母様。事前にお送りした手紙にありますように、ご息女お二人のお力をお借りする事となり、お迎えに上がりました」



 セルシアスの「御父様、御母様」という言葉に、ラシディアがにやける。


「はあ! 大賢者様! 今日はこんなところまでわざわざ来て頂いてありがとうございます! 私はラシディアとジュメイラの父、デイラで、そんでこっちは……」

「母のカラマです! えへへ!」

「ああ! そうだ母さん! あの、一番上等なワイン! あれ! あれ持って来てくれ!」

「そうね! すぐ持ってくるわ!」



 完全に興奮状態のデイラとカラマがあたふたと支度をする。

 その様子を家の前に集まった村人たちが窓から覗き込む。



「どうぞ、お構いなく。それで、この契約についてですが、正式に締結されてはいるのですが、もしお二人が反対なのであれば……」


「反対だなんて! とんでもない! 娘たちがお役に立てて光栄ですよ! なあ母さん!」


「そうですとも! さあ大賢者様! お口に合うかどうか分かりませんが、この村で作っている中でも一番上等なワインです! どうぞ!」



 こうして和やかに時は過ぎ、出発の時が近づく。


 少し西へと傾いた太陽の穏やかな陽射しが窓から差し込み、ジュメイラの手に持つワイングラスがその陽光を受けてきらりと輝く。


 ワインを一口飲み、ジュメイラがテーブルへグラスを置こうとすると、ばたばたと騒々しく一人の青年が部屋へと飛び込んできた。

 


「師匠ー!」


「……なっ⁉ バルシャ⁉」



 飛び込んできた青年の姿を見て、グラスを置こうとしていたジュメイラの手が止まる。



「師匠! 大賢者と一緒にラス=ウル=ハイマへ行くって、ほ、本当なんですか⁉」


「え、ええ、そうよ……でも、そんな血相変えてどうしたってい……」



 ジュメイラが言葉を言い終える前に、その青年バルシャがセルシアスに詰め寄る。



「あ……あんたがその大賢者だな!……師匠を連れて行ってどうするつもりだー!」


「ちょ、ちょっとバルシャ止めなさいって!」



 セルシアスに詰め寄ろうとするバルシャを、ジュメイラがそう言いながら押さえていると、セルシアスが「彼は?」と尋ねる。



「この子は私の弟子で……って言うか、勝手にこの子がそう言ってるんだけどね、槍を教えてあげてたの」


「ほう、ジュメイラから槍を……」


「そうだ! 僕は師匠の一番弟子なんだ! 師匠を連れて行くなら僕も一緒についていくぞ!」


「あんたちょっと何言ってんのよ! ごめんなさいセルシアスさん、今黙らせるから……こらバルシャ! ちょっと大人しくしなさい!」



 とても華奢な体つきで、女の子の様な顔立ちのバルシャは、ジュメイラに叱られてようやく大人しくなる。その様子を穏やかな眼差しで見ていたセルシアスは、ふと思いついた様に口を開いた。



「ジュメイラ、君の弟子と言うのであれば、一緒に連れて行っても大丈夫だよ」


「えっ⁉」

「やったー!」



 セルシアスのその言葉に、ジュメイラは唖然としたが、バルシャは飛び上がって喜ぶ。



「え、良いんですか? あ、でも……」



 ジュメイラは、目を輝かせて見つめてくるバルシャの方へと視線を向け、はぁ、と大きくため息を漏らして目を閉じると、少し間をおいてから、目を閉じたままでこう言った。



「………40秒で支度しな!」



支度といえば40秒! これはもはや日本人の常識と言っても良いですよね!


バルシャついて来る事になっちゃいましたが、お家の人は大丈夫!?


そのあたり抜かりないのがセルシアス。ちゃんとこの後手紙を送っています! もっとも、その前にデイラとカラマが話に行ってますけどね!


勿論バルシャのご両親も大喜びですのでご安心ください!



面白い! 続きが楽しみ! と思って頂けたら

是非ブックマーク登録お願い致します!!

そして更に!!

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引き続き宜しくお願いします!



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[気になる点] 40秒ときたか 多分、日本と価値観同じなんだろうな……。
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