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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第二章 ワディシャーム狂想曲
35/196

愛、そして虹

「あ! ドゥルマ様待て! このやろー!」



 迫りくる大勢の騎士、戦う訳にもいかず、ドゥルマはとにかく逃げる。


 木々を飛び越え、川を越え、建物に飛び移って、湖に浮かぶ船に飛び乗る。


 しかしどれだけ逃げようと、激憤慷慨(げきふんこうがい)する騎士たちが辺り一面を埋め尽くし、前後からは騎士と兵士を満載した船が迫り来る。


 仕方なく湖の反対側へ飛び移るが、そこにも既に騎士たちが待ち構えていた。



「……参ったなこりゃあ………」



 もはやこれまでか、と思ったその時だった。


 大地を震わす地響きと共に、空から巨大な白い物体がドゥルマの目の前に降り立った。


 その物体は、まるで追い詰められたドゥルマを庇うかのように、騎士たちの前に立ちはだかる。

 正体不明の存在に行く手を阻まれた騎士たちは、瞬時に警戒態勢をとる。


 凍り付いたような沈黙の中、楽しげな音楽だけが響き渡り、一人の騎士が小さな声で呟いた。



「……グ……グラン・ベアー………?」


「ゴルォオオオオォオーーーー!」


「えぇーーー⁉」



 明らかに普通じゃないグラン・ベアーが凄まじい咆哮を上げながら騎士たち目がけて突進し、その愛くるしい姿にはおよそ似つかわしくない凶暴さで、屈強な騎士たちを容赦なくなぎ払っていく。


 しかもそのグラン・ベアーは人の倍ほどの大きさがあり、それが次から次へと無数に空から降りて来る。



「ひっ怯むな! 騎士の誇りを見せてやれー!」


「おぉーーーー!」



 次々と空から出現するグラン・ベアー【大きめ】の大群に、騎士たちも負けじと立ち向かうが、剣も槍もはじき返すその鋼鉄の様な毛皮に手も足も出ない。


 しかし騎士たちもワディシャームの誇る精鋭ぞろい。ある者は足にしがみつき、ある者は顔に飛びかかり、正規軍の兵士たちと力を合わせ、数に任せて押し倒していく。


 グラン・ベアー【大きめ】がいくら強いとはいえ、数で勝るワディシャーム軍は、逃げ惑うドゥルマをとうとう湖のほとりまで追い詰めた。



「はぁはぁ……さあ! ドゥルマ様! もう逃げられませんぞ!」


「わ! 分かった!……と、とにかく事情を……」



 正に背水の陣へと追いやられたドゥルマがそこまで言った時、今度は上空から背後の湖に何かが落下して大きな水しぶきが上がる。


 ドゥルマが湖の方を振り向くと、薄れゆく水しぶきの中に巨大な影がゆっくりと立ち上がって来るのが見えた。


 その姿に、騎士たちが後ずさる。


 水しぶきが晴れ、騎士たちの見上げるその視線の先には、大群で押し寄せるグラン・ベアー【大きめ】より更に巨大な、グラン・ベアー【大盛り】の姿があった。



「なななっ……何なんだ今度は……⁉」


「グロォロロロォオォォォーーー!」



 騎士たちが騒然とする中、グラン・ベアー【大盛り】は猛々しい雄たけびを上げたかと思うと、突然言葉を発した。



「ドゥルマ様には! 指一本触れさせねえどーーー!」


「……その声は……マゴベエさんか⁉」



 グラン・ベアー【大盛り※マゴベエ入り】が勢いよく騎士たちへと突進し、剛腕を振りかざしていとも容易く騎士たちをなぎ払う。そして、その巨体からは想像できない俊敏な動きで夕空へと舞い上がると、華麗に回転しながらドゥルマの目の前に降り立った。



「ドゥルマ様! あとはこの『グラン守護連合団』に任せて逃げてくれ!」


「マッ! マゴベエさん⁉ 一体こりゃどうなってん……」



 そこまで言いかけたドゥルマを、グラン・ベアー【大盛り※マゴベエ入り】が有無を言わさず両手で掴む。そしてそのままドゥルマを持ち上げると、グラン・ベアー【大盛り(以下略)】の両腕がぼんやりと光りはじめ、その周囲に魔法陣が浮かび上がった。



「……マッマゴ! ちょっ! ちょっと待て! 一体何をする……」


「グランベール最新絶叫アクティビティ! 夢の放物線【愛☆そして虹】!……発射!」



 ドゥルマの訴えも虚しく、ドゥルマはグラン・ベアー大盛りの両腕から、ボカーンという分かりやすい発射音と共に、グラン・キャッスル目がけて、空高く放たれる。



「うぁああああああーーーー!」



 絶叫するドゥルマは虹色に輝く光の帯を引き、凄まじい勢いで空高く上がって行く。


 その断末魔の如き叫び声が、更にテンポを上げたハイテンションな音楽に乗せて、光の魔法で彩られるグランベールランドの空にこだまする。





「……ドゥルマめ、突然飛び出しおって、どこへ行ったのじゃろうのう……ん?」



 最高潮に盛り上がるパレードの中、ドゥルマの絶叫に気が付いたエルミラがその声のする方に目を向けると、徐々に光を増す月をかすめ、美しい夢の放物線【愛☆そして虹】を描きながら飛んでいくドゥルマの姿が見えた。



「おぉ! リサイリよ、あれを見よ!」


「わぁ! きれいだねぇ!」



 ドゥルマの描き出す夢の放物線【愛☆そして虹】に、観客から大きな歓声と惜しみない拍手が送られる。そして、エルミラとリサイリの視線は夢の放物線を追ってグラン・キャッスルに向けられた。



「ドゥルマめ、楽しそうな事をしておるのう……リサイリよ、我らも向こうへ参ろうぞ!」



 その頃、夢の放物線の終着点、グラン・キャッスルでは、ドゥルマが網状の魔法陣に受け止められ、ぼよんぼよんと揺れていた。



「……し、死ぬかと思った………」


「おおっ! ドゥルマ様! さあ逃げるど!」



 魔法陣の上でぼよんぼよんとしているドゥルマに、慌てた様子のサジュウロウが駆け寄り、そう言いながら手を伸ばす。



「サ、サジュウロウさん⁉……こいつは一体何が起きてるってんだ?」



 いまだに全く状況を理解出来ないドゥルマがサジュウロウの手を取ってそう尋ねた。



「ドゥルマ様! おめえさま国家反逆罪で追われてんだよー!」


「国家反逆……俺がぁっ⁉」



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