受難
ワイ、慈雨たる御手、言いますねん。
色々あって今は、【憐れみの死神】なんちゅう、まったく気取り腐った名前で呼ばれとるわけなんやけども、そもそも憐れみの死神っちゅうのはこの機体の名前であって、もともとワイとは何の関係もありゃせんのですわ。
それを、どうやったんだか知らんけども、あのシンディガーのアホンダラがこのワイを引っこ抜きよって、憐れみの死神の機体に植え付けよったんですわ。
ほんま迷惑な話やで。
ほんでな、また色々あってな、今は山ん中で猫探してまんねん。白猫ですわ。尻尾が二本ある魈仙猫っちゅうアレやな。
このだだっ広い山ん中で猫一匹見つけるなんてな、普通に考えて無理でっせ。そうでっしゃろ!?
せやからワイ、ええ事考えましてん。
今日の今日まで閉じ込められとった【ダナディア】言う所があんねんけどな、あそこにぼさっとしたボンクラ共が無駄にわらわらおるんですわ。ほんでそいつらな、どうせ暇こいとるやろう思って、ついさっき、こっち来て手伝え言うて、呼び出しましてん。
ちっとばかし距離はあんねんけど、あいつらまあまあ高性能の乗り物持っとるし、そろそろ来るんちゃうかな思って待っとるんですわ。
ああ、酒も持って来い言っといたさかい、あいつら来たらまずは景気づけに一杯やろうと……ん?……電話や……誰やこんな時間に……ちょっとすんまへんな……あーもしもし? ワイやけど……
ダラジャトゥ軍の波状攻撃が、ザルーブ連邦共和国軍の艦隊を覆った。夜空は爆煙に煙り、乱れ飛ぶレーザーを映して激しく瞬く。指揮管制室にナジャハヴァルドの指示が響いた。
「全艦密集隊形で魔法障壁を外面に集中! 速射砲を撃ち続けろ! 敵を近付けてはならん! エル=ハナンが国境を越えるまで時間を稼ぐのだ!」
ナジャハヴァルドのいる艦隊は、あくまでも、撃墜された侵攻部隊を救助する為に派遣された隊であり、十分な戦力を持ってはいなかった。
搭載していた戦闘用魔導機兵はほぼ全て、大神奪還作戦のためにエル=ハナン率いる本隊にあった。艦隊に残された攻撃手段は、それぞれの戦艦が装備する三連装レーザービーム砲三基と、二十八連装重力弾噴進砲二基、九六式単装魔弾機銃二十五基だけだった。
この攻撃力でダラジャトゥ軍を撃退する事は不可能。艦隊が撃破されるのは時間の問題────。それは疑いようのない現実、確実に訪れる結末だった。
────だが、我らがここで退くわけにはいかぬ……!
なんとしても、エル=ハナンを本国へ帰還させ、大神を封印しなければならない。ナジャハヴァルドは覚悟の眼差しを激戦の空へと向けた。ダラジャトゥの魔導機兵が、レーザーを乱れ打ちながら縦横無尽に夜空を飛び交っていた。その中に突如として、それは姿を現した。
あれは……まさか……!────瞬時に、それが何であるかを、ナジャハヴァルドは理解した。それと同時に、サーリシュハラに手を引かれながら艦内を走るリサイリも、窓の外にその姿を捉えた。そして、心に声が届いた。
『リサイリ!』
「あ! 慈雨たる御手! 来てくれたんだね! 僕はここだよココ! ねえ見える!? こっこだよー!」
『見えとるわアホンダラ! お前なんちゅう所におんねん! そんな所におったらお前、ワイに乗れんやないかい!』
「仕方ないじゃないか! 今はここから出られないんだから! だからまずは慈雨たる御手の力で、戦ってるみんなを眠らせて!」
『出来るかいそんな事!』
「えー!? 出来ないの!?」
『お前らがおらんかったらワイは動く事しか出来へんのや! お前らの【慈愛の心】が無かったら、この憐れみの死神は何も出来やせ……あっかーん!』
「あああーーー!」
激戦の真っ只中に突如出現した、異常な魔力を放つ謎の魔導機、憐れみの死神────。それは明らかに、共和国軍の魔導機でもなければ、ダラジャトゥ軍のものでもない。
となれば当然、共和国軍にとっても、ダラジャトゥ軍にとっても、憐れみの死神は味方ではない。
双方の兵士たちに、混乱が染み広がっていく。
「なんだあの魔導機は!?」
「異常な魔力量です! あの魔導機は危険です!」
「共和国の新兵器か!?」
「ダラジャトゥの秘密兵器に違いない!」
「あの金環を背負った黒い魔導機に照準を定めろ!」
「「全軍、黒の魔導機を攻撃しろ!」」
全ての攻撃が、一点に向けられる。怒涛の全力攻撃が、正体不明の謎魔導機へと注がれる。憐れみの死神が戦乱の夜空を逃げ惑った。
『リサイリのアホーーー!』
「あわわわ……ごめんよぉ……慈雨たる御手……どどどどうしよう……!」
窓の外へ向かって、あたふた一人で話しているリサイリの手を引きながら、サーリシュハラは眉をひそめた。
「リサイリ!? ねえあなた、さっきから誰と話しているの!?」
「は! あ! これはその! あの!」
もう誤魔化しても仕方ないと、リサイリは思った。
今や生きるか死ぬかの瀬戸際。この窮地を乗り切るには、回りくどい嘘をついている余裕はない。
慈雨たる御手の言い方からすると、憐れみの死神は、自分かキシャルクティア、或いはその両方が搭乗していないと、力を発揮する事が出来ないようだった。
そうである以上、どうにかしてキシャルクティアと一緒に、憐れみの死神に乗り込むしかない。
マリーチとハッサを探すのはその後。まずはこの艦を守らない事には、二人を見つける前に撃墜されてしまう。
この瞬間も、憐れみの死神は猛攻に晒されながら無様に逃げ回っている。
リサイリたちが乗っている状態でないと、機動力も十分ではないようだった。
この状況を打開できる唯一の希望、究極の魔導機【憐れみの死神】を失えば全てが終わる。全ての攻撃が向けられるその一点を指差し、リサイリは叫んだ。
「サーリシュハラさん! あの! あれを見て下さい! あの金色の丸いの背負った黒い魔導機! ほらあの逃げ回ってるヤツ! 僕とキシャルがあれに乗れば、この戦闘を止められるんです!」
「あれに乗るって……あの魔導機に乗るっていうこと!?」
リサイリの言葉に困惑するサーリシュハラは、指し示された混乱の夜空に目を向けた。
そこに見えた魔導機の姿を、サーリシュハラは知っていた。
────あれは……あの魔導機は……!
対大神超大型魔導機兵【毘盧遮那沙羅樹】から送られた映像に映っていた光景。ザルーブ連邦共和国最強の魔導騎士、総大将ナジャハヴァルドを打ち倒した謎の存在────。
「光輪の……魔導機……!」
どうしてあの魔導機がここにいるのか? あの魔導機に乗って戦闘を止めるとは、どういう意味なのか? そもそも、あの魔導機は何なのか?────。立て続けに起こる予想外の事態と、今目の前にある理解し難い現実。繋がるはずのなかった謎が無造作に組み合わさり、サーリシュハラに直感させた。
雷神、幻霊、そして、あの光輪の魔導機が出現し、消えた場所。人などがいるはずのないその場所に現れた、発動者でなければ解けるはずのない魔法の眠りを解いたと言う、魈仙猫を探す少年と少女────。
「リサイリ……まさか……あなたが……」
サーリシュハラの瞳を見つめ返し、リサイリは力強く頷いた。その懸命な眼差しが、サーリシュハラの抱いていた微かな迷いを一瞬で消し去った。
直感が確信に変わり、一閃の光明となって決断へと導いた。サーリシュハラは手首に付けた通信の腕輪に指示を放った。
「参謀総長サーリシュハラより緊急命令! 総員! 至急少女サイーダトゥナを保護し、後部最上甲板へ連れて来なさい!」
慈雨たる御手は、リサイリに呼ばれれば瞬間移動で飛んで来れますが、自分の意思だけでは瞬間移動出来ません。慈愛の心を持つ人間が中にいない状態では、むしろ若干鈍臭いのです。はやくキシャルと一緒に慈雨たる御手に乗らないと、究極魔導機と言えど流石にヤバいです。それなのに、キシャルがやらかしますよ!
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