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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
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不安要素出動

 共和国軍の兵士と一緒に小型飛行船に乗り込み、上空に留まる飛行戦艦へ向かって上昇して行く。参謀総長という(いかめ)しい肩書きには似つかわしくない麗しい口調で、サーリシュハラはリサイリたちに言った。



「あなたたちの先生について、私たちは既に手掛かりを掴んでいるの。きっとすぐに見つかるわ。だから、安心してね」


「助かります! 本当に有難うございます! 良かったね! 我が弟リサイリよ!」


「そ……そうだね……」



 お姉さま気分で上機嫌のキシャルクティアに、頭を撫でられながらリサイリは、若干苛立ちつつ呆れつつ、そっぽを向いたままそう答えた。


 キシャルクティアは、自分は十四歳だと言っていた。しかしそれは、あくまでも自己申告でしかなかった。現時点で、本当に十四歳であるという証拠は何ひとつ無かった。

 キシャルクティアはおそらく、歳を偽っているのだと、リサイリは思っていた。


 自分は十五歳 (多分)で、成熟した大人としての落ち着きがある (はず)。一方キシャルクティアは、見た目こそエルゼクティアに良く似た美少女ではあるが、自分と一歳しか違わない十四歳にしては、明らかに中身が幼い。はっきり言って、やることなすこと子供っぽい。さらに、自分よりもちょっと背が低い。


 

 ────やっぱり、絶対、僕の方がお兄さんに決まってる!



 にんまり顔で「うっふっふ〜、お・と・う・と! ぷっふふ……!」とやっているキシャルを無感情に一瞥すると、リサイリは大きな溜め息とともに瞼を閉じて顔を背けた。

 吐き出した息をゆっくりと、心の奥へと吸い込こむ。不服に波立つ気持ちを落ち着かせ、冷静さを取り戻す。

 

 

 ────僕は十五歳。そう、大人だ。大人なんだから、子供キシャルを相手にして怒っているようではいけない。



 今はマリーチを見つけ出すのが最優先。ここまでは上手くいっているが、油断は出来ない。それに、途中どんな不測の事態が起こるか分からない。それらの対処も含め、考えておかなければならない事は山ほどある。


 そうする為にはまず、一番近くにある安定の不安要素、キシャルクティアを制御する必要がある。リサイリは、子供をあやす気持ちで、言葉を発した。



「サイーダトゥナお姉さま?」


「へ? サイーダ……? サイーダトゥナって……? あ! ああそうだった! なあに!? 我が弟リサイリ!? この偉大なる姉、サイーダトゥナお姉さまになんでも言ってごらんなさい!」



 危ないところだった。案の定キシャルクティアは、今自分がサイーダトゥナという名前になっていることを忘れていた。念の為確認しておいて本当に良かった。


 キシャルクティアに偽名を名乗らせたのには理由があった。王族の血統であり、財閥令嬢でもあるキシャルクティアは、戦時下において利用価値があると思われた。


 その名前が、諸外国でどれほど認知されているかは分からないが、警戒するに越したことはない。


 帝国軍に捕まった時、咄嗟に思い付いた名前【サイーダトゥナ】────。キシャルクティアを見つめ、サーリシュハラがその名を口にした。



「サイーダトゥナか……本当に、不思議な偶然ね」


「不思議な偶然?」



 感慨深くそう呟いたサーリシュハラに、キシャルクティアが首を傾げた。あどけないその姿に視線を留めるサーリシュハラは、穏やかな表情だった。彼女はサイーダトゥナという名前を知っているようだった。リサイリは、その名前が何かと繋がっているような気がした。



「サーリシュハラさん、共和国軍に誰か、()()()と同じ名前の人が居るのですか?」


「軍というわけではないのだけど……ええ、そうね……サイーダトゥナという名前のね……あ、着いたわ────」



 そう言って、サーリシュハラは立ち上がった。星空に覆われていた窓は、仄暗い鈍色の壁を映していた。飛行戦艦の内部に収容されたようだった。



「さあ二人とも、私に付いてきて」



 サーリシュハラの後ろに続き、小型飛行船を降りた。兵士たちに囲まれ、軍用らしい重々しい鉄の壁に覆われた通路を進んで行く。【サイーダトゥナ】の名前について、会話は続けられなかった。まあ、同じ名前の人が居ても、別にそれは不思議なことではないし、重要なことではないだろうと、リサイリは思い直した。


 途中、ハッサだけ別の所へ連れて行かれてしまった。乱暴に扱われているようではなかったので、バレたわけではなさそうだった。おそらく、精密検査か何かであろうと思われた。こうなる事は想定していた。


 ここへ来る前ハッサは、そうなったとしても自分でどうにかするから気にするなと言っていたが、そういうわけにはいかない。マリーチを見つけた後、ハッサも探し出さなければならない。


 飛行戦艦はかなり大きかった。兵士の数も多い。思っていたよりも難易度は高い。リサイリは、周囲の様子を注意深く観察しながら歩いて行く。脱出する時に備え、少しでも内部の構造を記憶しておかなければならない。

 通路は広く、複雑ではないが、両側にたくさんの扉が並んでいる。

 その内のひとつが、サーリシュハラの前で音も無く左右に開いた。



「さあ、こちらへどうぞ」



 扉の向こうは部屋になっていた。他の場所と同様、飾り気のない鉄壁に囲まれていたが、白で統一された可愛らしい机と椅子、棚などが置かれていた。正面は夜空を映す大きな窓が覆っていた。


 

「総大将とお話して来るから、ここで少し待っていてね」

 


 サーリシュハラはそれだけ言って、部屋を出て行ってしまった。キシャルクティアは大人しく椅子に座って、神妙な顔で閉ざされた扉を見つめている。

 妙に大人しくて逆に心配だったが、このまま大人しくしていてくれれば、それに越したことはない。頼むからじっとしていてくれと思っていると、「よぉし……」と言って、キシャルクティアが立ち上がった。


 ああ、やっぱり動き出した────。リサイリの不安の眼差しの先で、キシャルクティアがそろりそろりと、扉へと近づいていく。

 そして、扉の正面まで来ると、しばらく無言で扉を見上げ、呟いた。



「……開かない」



 どうやら扉は施錠されているようだった。子供とはいえ、今の自分たちは完全に正体不明の謎の人物。警戒されるのは当然だった。

 実質的に閉じ込められている状態ではあるが、それによってキシャルクティアの行動を阻止できた。鍵を閉めて行ったサーリシュハラに、リサイリは感謝した。

 

 ハッサの言うように、魔法の眠りを解除する事が特別な能力であるなら、多くの兵士を眠らされている共和国軍にとって、自分たちは重要な存在。一時的に拘束はされたとしても、危険は無いはず。

 

 サーリシュハラには、()()()()()()()()()()()、魔法の眠りを解くことが出来ると説明してある。


『あなたたちの先生の手掛かりを掴んでいる』とサーリシュハラは言っていたが、この軍隊にマリーチが居るのは間違いない。

 兵士を目覚めさせるためには、自分たちとマリーチを会わせる必要がある。そうである以上、複数ある飛行戦艦の何処にいようと、待っていれば必ずマリーチに会える。


 リサイリはポケットからシンディガーの護符を取り出した。

 まだ数枚残っている。改めて、一枚一枚確認する。眠りの護符も何枚かある。マリーチを見つけたら、この護符で共和国軍の兵士たちを眠らせて、その隙に脱出する。

 護符の効果範囲はそれほど広くはない。万が一に備え、キシャルクティアにも持たせておいた方が良い。



「キシャル? これ、眠りの護符なんだけどさ、キシャルも一応持っておいて。いざと言う時はこれで……あれ?……あぁっ!」



 マリーチを探して魔導機を調べる際、キシャルクティアに解錠の護符を持たせた。共和国軍の艦へ乗り込むにあたり、もし捕らえられても脱出できるように、その時渡しておいた解錠の護符を、そのまま持たせていた。


 回収しておくべきだった……!────。開け放たれた扉を見ながらリサイリは、心から後悔した。



 

 マリーチを心配するあまり、キシャルは1人で出て行っちゃいました……ああ……やっぱり油断も隙もあったものではありません……。当然このままにしておく訳にはいかないのですが、それどころではない非常事態が巻き起こりますよ!


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