表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
186/196

巧言を君に

「二人とも、いいかよく聞け、作戦はこうだ────」



 ハッサの提案は、自身の身を呈した危険な作戦だった。


 まず、共和国軍の魔導機を見つけ、その中にいる操縦士の制服と、ハッサの着ているダラジャトゥ軍の服を交換する。

 そして、共和国軍の兵士になりすましたハッサと一緒に、共和国軍の所まで行き、



「お主ら二人が、儂を起こしたと言うのだ」



 兵士たちは会話の中で『操縦士は魔法で眠らされていて、何をしても目を覚まさない』と言っていた。

 確かに、マリーチを探して共和国軍の魔導機を調べていた時、中にいた操縦士はぐっすり眠っていて、誰も目を覚まさなかった。



「儂を含め、共和国軍の兵士たちが何らかの魔法によって眠らされたのは、間違いあるまい。だとするならば、そうそう目を覚ますことはないはずだ。どうやったのかは知らぬが、お主らがこの儂を目覚めさせた事を言えば、向こうは関心を持つ」



 ────そうか……そうすれば、眠っている兵士を起こすために、船の中へ入れてもらえるかも知れない……だけど……



 もし見つかれば、ハッサは確実に捕まる。それに、共和国軍の戦艦に乗り込めたとしても、船は何隻もある。乗り込んだ船に、マリーチがいるとは限らない。


 ハッサが共和国軍兵士になりすましている事がばれる前に、最短かつ確実に、マリーチのところまで行くには、どうすれば良いのか?────。



「ほらリサイリ! 何ぼーっとしてるの!? さっさと作戦開始だぞ!」


「待ってキシャル!……良い事思いついたよ……!」



 僕、頭良いかも!────。湧き上がる自信に、リサイリは笑みを浮かべた。


 周囲を取り囲んでいた兵士たちを後ろへ下げさせると、サーリシュハラはリサイリたちの正面へと歩み出た。


 文明社会から隔絶されたこの森に、人が住んでいるとは思えなかった。しかし現実に、今こうして、いるはずのない少年と少女が目に前に立っている。


 俗世を捨てた賢者────。そのような存在をサーリシュハラは聞いた事がなかったが、この二人が、とても一般人の踏み入ることの出来ないこの場所にいる以上、その賢者の下で修行をする魔導師見習いと言われた方が、まだ信憑性があった。


 透き通る頬にかかる短めの髪を、しなやかな指先で耳に送る。少し前かがみになって、サーリシュハラは尋ねた。



「私たちの仲間を助けてくれて、ありがとう。でもあなたたち、どうやって彼を起こしたの?」



 やっぱりそうだ────。サーリシュハラの質問が、リサイリの予想を肯定した。

 ハッサの言った通り、眠らされた兵士たちは目を覚まさないでいるようだった。

 では、どうしてハッサだけ目覚めたのか? 考えるまでもなく、キシャルクティアに乱暴に揺すり倒され、強烈な勢いで床に叩きつけられたハッサの姿が思い出された。


 おそらく、眠っている兵士たちを目覚めさせるには、単純に、かなり強い衝撃を与える必要がある。リサイリは、その事に確信を得た。


 共和国軍は、眠っている兵士たちを負傷者のように慎重に扱っているはず。まさか、顔面から床に叩きつけなければ目を覚まさないなどとは、考えもしないだろう。

 しかし、本当の事を教えるわけにはいかない────。確実にマリーチのところへ行くための第一歩。リサイリがその秘策を口にしようとしたその時、キシャルクティアが得意げに話し始めた。



「えっへん! えっとですねー! まずはですねー────」


「ちょっと待ってサイー……お……()()()()……!」


「おお……お姉さま……!?」



 咄嗟に言葉を遮られたキシャルクティアだったが、リサイリのプライドを捨てた必殺の殺し文句『お姉さま』の一言に、震える程の感動を露わにして口を噤んだ。

 めちゃくちゃ嬉しそうな顔で、ふるふるしている。


 リサイリは分かっていた。あの時点で止めようとしても、最悪の場合『あたしがお姉さんなんだからね! それに、起こしたのあたしだし!』などと言い出して、また揉める可能性があるという事を。


 ここへ来た時に、キシャルクティアが『あたしがお姉さん』と主張した時点で、リサイリは警戒していた。絶対にマリーチを助け出すと言って張り切るキシャルクティアは、いきり立って強気になっている。


 物事を深く考えないやる気満々の天真爛漫。放っておけば、問題を起こすに違いない。


 作戦については説明してあるので、詳細は理解しているはずだったが、正直なところ、ちゃんと聞いていたかどうか怪しい。何を言い出すか分かったものではない。完全に不安しかない。リサイリは、余計な事を言わないように念を押さなかったことを反省した。


 七星麗鬼衆に捕まって、ウードメッサの戦艦に連れていかれた時のキシャルクティアは、受け答えをリサイリに任せて縮こまっていた。今回もきっとそうだろうと油断していた自分が甘かった。


 キシャルクティアは、他の誰かの事となると、自身を顧みない行動に出る。

 その正義感と、他を思いやる慈愛の心は尊敬に値するが、どうしても自己主張が強い。

 迅速に作戦を成し遂げるには、キシャルクティアを大人しくさせておく必要がある。

 


「お……お姉さま、ここは僕に任せて……!」


「……ふっ……うっふふふ……し……仕方ないわね……」



 想像以上に『お姉さま』が効いている。全く理解できない執着だが、ある意味わかりやすい。実際にひとつ年上の自分が弟に甘んじるのは悔しかったが、マリーチを助け出すために必要な我慢なのだと、リサイリは自分自身に言い聞かせた。



「では我が弟リサイリよ、説明して差し上げて!」



 まったくもう偉そうに!────。腕組などをしてにんまりしているキシャルクティアを一瞥してから、リサイリは告げた。



「兵士のみなさんは、かなり強力な魔法によって眠らされています。僕たちの力だけでは、起こす事は出来ません」



 その言葉に、サーリシュハラは首を傾げた。



「じゃあ、どうやって彼を起こしてくれたの? あなたたちの他に、誰か手伝ってくれたということ?」


「はい。この魔法の眠りから目覚めさせるには、僕たち二人と、()()の力が不可欠なのです」


「先生……?」


「魔導機が森に落ちてきて、僕たちと先生はすぐに救助へ向かいました。そしてこの人を見つけて、三人で力を合わせて、眠りの魔法を解いたのです」



 その言葉は、サーリシュハラの心の隅に残っていた僅かな疑念を拭い去った。


 先生────。それはおそらく、この森に住まうという賢者の事であると思われた。

 賢者とされる程の魔導師であれば、魔法を解くことも可能であろう。

 その力があれば、眠ったままでいる兵士たちを救うことが出来る。怪我をしていないとはいえ、ずっと眠ったままでは、いずれ命を落とすことにもなりかねない。



「その先生は、今どちらにいらっしゃるの?」



 その言葉を、リサイリは待っていた。想定通りに話が進んでいる。このまま相手を納得させれば、マリーチの所へ行ける。



「この人を起こしたあと、先生は魔導具を取りに家へ戻りました。より多くの人を救うためです。でも、そのまま帰って来なくて……」


「はぐれてしまったのね?」


「はい、僕たちも探したんですけど見つからなくて……実は、先生は病気を患っているので、心配で……」



 眠りの魔法を解くことの出来る賢者と、その弟子たち────。その力は、今の共和国軍に必要だった。そして、師とはぐれて心配しているこの二人を放っておくことは出来ない。どうするべきかは、明らかだった。



「大丈夫よ! 心配しないで! 私たちが見つけ出してあげましょう! あなたたちの先生はどんな格好をしているの? 特徴を教えてくれる?」


「あ……ありがとうございます! 助かります! 僕たちの先生の名前は賢者マリーチ! たぶん今は白猫の姿をしているはずです! 先生は魈仙猫なのです!」



 リサイリ上手いこと考えましたね! 七星麗鬼衆に捕まった時もそうでしたが、なかなかの切れ者です! それにひきかえキシャルったら、ちょっとアホの子みたいですね……アホなのかな……? そんなアホのキシャルが、事態をややこしくしますよ!


 面白い! 続きが楽しみ! と思って頂けたら

ブックマーク登録をお願い致します!!

そして更に!!

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして下さいますと、張り切って続きが書けます!


どうぞ宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ