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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
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災厄の行方

 痺れるほどの悪寒が、全身を駆け巡った。

 突き刺さる深紅の視線を、決死の眼差しで睨み返す。



「大丈夫……あたしが守ってあげるからね……!」



 遠い空、光を飲み込む暗黒────。遥か彼方から向けられる狂気の瞳を睨み、膝の上で小刻みに震えるシャーリアにエルゼクティアは、囁くようにそう言った。


 シャーリアを連れ、不殺破邪に搭乗してサラバナヴァバンを出撃したエルゼクティアは、ユールベルタから離れた北西の空に居た。

 

 龍はブラシカ山脈のほぼ真南に位置するユールベルタへと向かっていた。

 その進路から外れたこの地点で待ち構えていたのには、理由があった。


 シャーリアを連れてユールベルタを離れた後、エルゼクティアはレーダーで龍の進路を確認した。

 龍の目的がシャーリアであるならば、龍はその時点でエルゼクティアの方へと進路を変えるはずだった。しかし、龍はそのまま南下を続けていた。



 ────龍の目的はシャーリアではないのかもしれない。



 ユールベルタとは違う方角で待ち構え、龍がこちらへと向かって来たのであれば、それは確実に、シャーリアを追っている事になる。

 もし、そうでないのであれば、龍の目的は別にあり、シャーリアに危険が及ぶことは無い。


 エルゼクティアは後者である事に僅かな望みを抱いていた。しかし龍は────。


 

 ────確実に、こちらを捉えている……!



 清廉の空、夕紅を背にする不殺破邪の真正面────。一直線に南へと進んでいた龍は急に動きを止め、確実に、エルゼクティアの方を見ている。


 これまで対峙した事の無い未知の脅威、伝説上の存在────。眠らるる樹海で目にした白銀の龍には無かったおぞましい魔力、明確な邪悪が、そこにはあった。


 悪夢を見ているような、現実離れした光景を前に、エルゼクティアは異変に気付いた。


 黒雲を纏う龍の身体に僅かな光が点滅し、それに反応するように、シャーリアが激しく震え始めた。



「シャーリア!? どうしたんだい!? シャーリア!?」



 シャーリアの返事はない。遠くに居る龍を見たまま金縛りのように身体を強ばらせ、小刻みに痙攣している。明らかに、恐怖で震えているのとは違う。


 龍の身体で瞬く光、シャーリアの異変────。それは、龍とシャーリアが反応し合っているとしか思えなかった。



 ────龍はたぶん、ここにシャーリアが居ることを知っている。やっぱり、龍の目的は……!



 シャーリアと龍は、何らかの形で繋がっているのは間違いない。エルゼクティアは激戦の覚悟を固める。

 同時に、龍が予想通り、シャーリアを追っていた事に微かな安堵を覚えた。


 エルゼクティアは、龍がシャーリアに気付かず何処か遠くへと去って行く事を望んでいたが、それ以上に、その脅威が他の人々へ及ぶ事を恐れていた。


 この場所は、サラバナヴァバンよりも更に北に位置していた。ざらついた岩山しかないこの土地に人は住んでいない。どれだけ激しい戦闘になったとしても、何処にも、誰にも被害が及ぶことは無い。



 ────必ず、ここでかたをつける……!



 今の自分には、求めていた至高の力、最後の魔導機【不殺破邪】がある。相手が何であろうと、負けるはずはない。負けるわけにはいかない────。心の深奥に、烈火の如き闘志が漲る。



「黒い龍……観念してもらうよ……!」



 水晶を思わせる不殺破邪の機体に静かに、蒼の雷電が迸る。その手に湧き上がるように、長大な光の刀が現れる。


 戦闘態勢に入ったエルゼクティアの瞳に映る漆黒の龍が、動いた。


 

 暗い空で戸愚呂を巻いていた龍が鎌首を(もた)げ、咆哮を上げた。


 大気の張り裂ける轟音と、落雷のような衝撃が、陽光と黒雲の混ざり合う混沌の空を走り抜けた。


 来るか!?────。龍がどのような攻撃をしてくるかなど分からない。エルゼクティアは透き通る光の大剣を構える。魔法障壁を発動し、柔らかな光のヴェールが不殺破邪の機体を覆う。


 極限の緊張の中、エルゼクティアの心に困惑と、恐怖にも似た焦燥が湧き上がった。


 シャーリアはここに居る。龍の目的は、シャーリアだったはず────。しかし龍は猛烈な勢いで、南へ向かって走り出した。

 戸惑いが言葉となって、こぼれる。



「そんな……どうして……!?」

 


 龍の目指すその方角、そこにはユールベルタがある。龍は初めからユールベルタを目指していたのか? だとしたらその理由はなんなのか?

 シャーリアに降りかかると思われた災いが遠ざかって行く。予想外の展開、そして、間近で感じた禍々しい魔力が、最悪を予感させる。


 

 ────龍は、街を襲うつもりなのかも知れない……!



 破壊される街、逃げ惑う人々────。一瞬、恐怖の光景がエルゼクティアの脳裏を過ったが、万が一に備え、ユールベルタの人々はムスタファが避難させているはず。たとえ街が襲われても、人命は守れる。

 それにまだ、龍がユールベルタへ向かっていると決まった訳ではない。


 エルゼクティアはレーダーへ目を向ける。龍の進む正確な方角を割り出し、目的地を予測する。


 龍は真南へ向かっているように思えたが、進路はやや西にそれている。そこはユールベルタ市街地から外れていて、幸い、住民を避難させた地域とも離れている。


 龍は、どこかを目指している訳ではない────。マサフィ湾へと向かって飛び去って行く龍の姿が、エルゼクティアの精神を締め付けていた緊張の鎖を緩める。

 しかしその鎖は、進路の延長線に目を向けた瞬間、よりきつく心に絡み付いた。



「この方角は……まさか……!?」


「白くて……背の高い建物の方に向かってる……」



 微かに震えながら、シャーリアはそう言った。



「シャーリア!? 白くて背の高い建物って……!?」



 龍が離れて行った事で、シャーリアの震えは治まってきていた。

 唐突に放たれたその言葉と、龍の進むその先にあるものが、エルゼクティアに災厄の行方を知らせた。


 龍の向かう先、マサフィ湾を越えたその場所にある『白く、背の高い建物』それは────。



「シャムアルジールの城……!」



 龍は一直線に、王都シャムアルジールを目指していたのだった。



「ああ……なんて事……!」



 この地域でもっとも大きな都市、王都シャムアルジールには数千万人の人々が暮らしている。

 そして何より、エルゼクティアは今そこに、キシャルクティアとリサイリが居ると思っている。


 作戦が順調に成功していたのなら、今頃無事に、憐れみの死神を奪取して王都を離れているはず。でももし、まだ王都に残っているとしたら────。


 おぞましい魔力を放つあの漆黒の龍が、王都に辿り着いて何もしないとは思えない。龍は必ず、災いをもたらす────。確信にも似た直感に、エルゼクティアを決心する。



 ────シャーリアを連れ出した事であの龍は解き放たれた。あの龍は、あたしが止めなければならない……!



「シャーリア、少しの間、辛抱しておくれ……」



 不殺破邪の機体を蒼の雷電が激しく迸る。


 漆黒の災厄、蘇ったイェシェダワの龍へ向けて、エルゼクティアは空を貫いた。



 

 龍は王都を目指していたのです! イェシェダワの龍は古の神々の怒りの化身。その目的は恐らく人間の築き上げた文明の滅亡。シャムアルジールに危機が迫ります! 決死の覚悟で龍に戦いを挑んだエルゼでしたが……!


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