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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
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終わらない混迷

 ナジャハヴァルド率いる三千におよぶ突撃部隊が、突如として消失した────。理解を超えた異常事態が、ザルーブ連邦共和国軍主力戦闘艦エル=ハナンに混乱をもたらした。


 

 ────雷神と思われた零式二型は確かに撃破した。だけどこれは……これは何なの!?



 ナジャハヴァルドの見ていた光景。毘盧遮那沙羅樹から送信されていた映像を目にし、ザルーブ連邦共和国軍副将、ルザファルナガルは困惑した。


 レーダーには映し出されない一機の黒い魔導機────。状況から考えて、ナジャハヴァルドを含めた突撃部隊は、幻霊とこの黒い魔導機によって全滅させられたとしか思えない。


 ルザファルナガルは瞳を閉じる。ゆっくりと息を吐き、波立つ心を鎮める。

 その側で、参謀総長であるサーリシュハラが気遣わしげに語り掛けた。



「ルザ……大丈夫?」


「ええ……私は大丈夫、大丈夫よ」



 その言葉が平静を装ったものである事は、容易に窺い知れた。

 ルザファルナガルは幼い頃から、ナジャハヴァルドを実の兄のように慕っていた。

 その事をよく知るサーリシュハラは、毅然に振る舞うルザファルナガルの横顔に、隠しきれない深憂を見た。



「救援部隊を送りましょう。サーリシュハラより即応機動連隊および高射特化連隊へ、至急本隊を離脱し────」



 サーリシュハラが通信機に向かってそこまで言ったところで、ルザファルナガルが言葉を遮った。



「いえ、その必要はないわ」


「え……で……でも……」



 レーダーの精度は確かなものだった。そのレーダーから機影が消えたという事は、確実に撃墜された事を意味していた。


 幻霊に加え、明らかに異常な存在感を放つ謎の魔導機────。その二機によって、最新鋭魔導機【F76甲ヴァーメス】三千機と、ナジャハヴァルドの操縦するあの毘盧遮那沙羅樹でさえ撃破された。それが事実である以上、十分な兵力を投入しなければならないと考えていたサーリシュハラは、ルザファルナガルの言葉に戸惑った。



「これ以上こちらの戦力を削る訳にはいかない。送るのは最小限の救助隊だけでいいわ。ナジャハヴァルド様はきっとご無事よ。それに、私たちにはもう時間が無いの……」



 ルザファルナガルの視線が窓の外へと向けられる。決死の眼差しが、僅かに朱に滲み始めた南の空を刺す。



「ハッキングが解除されるのは時間の問題……その前に何としても、私たちは金剛仁王を撃破し、大神を奪取するのよ……!」


 



 深い緑が、地上を覆っている。

 黄檗色(きはだいろ)の陽光に揺れる木々の合間に、苔むした無数の魔導機が見える。


 まるで数百年もの間そこに放置されたような魔導機たちを見下ろし、リサイリは尋ねた。



「ねえ慈雨たる御手……あそこにいっぱいある魔導機って……あれってさっきまで飛んでたやつ……?」


「せやで」


「うそ!? ホント!? え!? なんで!? なんであんなんなってんの!? 機体(からだ)から木生えてんじゃん!」



 先程まで縦横無尽に空を駆け巡っていたとはとても思えない、変わり果てた姿となって地上に散らばる魔導機を見渡し、キシャルクティアが困惑した様子でそう言った。



「これはアレや。ワイの力やのうて、この【憐れみの死神】の力やな。人間を眠らせたり魔導機を行動不能にしたんわワイやけど、この憐れみの死神ちゅうやつは────」


「どうでもいいよそんな事! いいから早くマリーチ探してよ!」


「嬢ちゃんが訊いたんちゃうんかい!」



 毘盧遮那沙羅樹を倒したリサイリたちは、森の上を低空で飛びながら、マリーチを探していた。

 視界に浮び上がるレーダーには何の反応も無く、地上に目を凝らしても、木々の間に見える僅かな隙間は、朽ち果てた魔導機が埋め尽くしている。



「死神さん! 究極なんでしょ!? あのね、マリーチはね、白いねこちゃんなの。しっぽが二本あるの。はい! さっさと見つけて!」


「そんな無茶言わんといてや! この山ん中で猫一匹見つけるなんて無理やがな」


「究極なのにそんな事も出来ないの!? ポンコツなの!?」


「ポ……ポンコツって嬢ちゃんなぁ……迷い猫見つける機能なんてあるかいな! ワイを何やと思うとんねん!」


「ポンコツ!」


「なんやとー!?」



 キシャルクティアと慈雨たる御手が不毛な争いを始める。

 ギャーギャー喚くひとりと一機をよそに、リサイリは注意深く、地上に視線を注いでいた。



 ────一体どうやって見つけたら良いんだ……



 慈雨たる御手の力でマリーチを見つける事はできない。レーダーにもなんの反応もなく、目視で探そうにも、マリーチの乗っていた魔導機の姿は一瞬見ただけでほとんど覚えていないし、たとえあったとしても、こうも苔と草に覆われていては、とても判別など出来ない。


 リサイリは気付いた。



「そうだ! ねえ慈雨たる御手! さっき上から見た時、魔導機の中のマリーチの姿が見えたんだ! あれどうやってやるの!?」


 宇宙空間からマリーチを見つけた時、リサイリもキシャルクティアも、確かにネコミミ状態のマリーチの姿を見ていた。


 その能力が使えれば、ここからでも見つけられるはず────。湧き上がる期待の問いかけに、慈雨たる御手は残念そうに答えた。



「ああ、あれなぁ……あれは魔導機が起動してる状態でなけりゃ見えへんのや。操縦席のモニターの映像やさかいな……」


「なんだ……そうなんだ……」



 儚く消えた期待に、リサイリは肩を落とした。

 そうである以上、ここからどれだけ眺めていても、マリーチを見つける事は出来はしない。  


 残された手段は、ひとつしかない────。



「キシャル、下に降りて探そう。そうするしかないよ」


「うん! そうだね! じーさんも手伝ってね!」


「じーさんってお前……そりゃまあ手伝え言われたら手伝うけどもやな、なんやお前ら、アレ一個一個蓋開けてその猫探す気かいな?」


「そうよ! なに!? イヤなの!? って言うかマリーチの事ネコとか言わないでよね!」


「嬢ちゃん自分で猫や言うとったやないかい!」


「うるさいなポンコツ! そもそもね! じーさんが何も考えないで全部やっちゃったからこんな事になってんでしょ!? まったくもう!」


「ま……まあそれはそうかもしれんけどもやな……仕方ないやないかあの状況で……ワイかて────」


「いいからほら! さっさと探して!」



 何故か、キシャルクティアの方が強い。

 すっかり言い負かされ、言い訳を遮られた慈雨たる御手が「わ……分かったがな……」と、たじたじと答えた。


 

「あーほれリサイリ、とりあえずあの辺に下りてやな……」



 キシャルクティアにガツンと言われ、しぶしぶ着陸地点を探していた慈雨たる御手が、それだけ言って黙った。



「慈雨たる御手、どうしたの?」



 不自然な沈黙にリサイリがそう尋ねると、慈雨たる御手は少し間を置いてから、僅かな緊張を帯びた声で告げた。



「二人とも、アレ、見てみい」



 無意識に、慈雨たる御手の示す方角を理解する。視界は遥か彼方の光景を捉え、聞こえるはずのないその場所の音が届く。


 リサイリとキシャルクティアの瞳が、激戦を捉えた。


 

 大神が動かなくなったのは、共和国軍の仕業だったのですね! 慈雨たる御手の示す方角で戦いを見たリサイリたちでしたが、更に、想定外の事態を目撃します! マリーチを探しに行きたいリサイリは、決断を下しますよ!


 面白い! 続きが楽しみ! と思って頂けたら

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