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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
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究極の力

 切り刻まれ、原型を失った零式二型が炎に包まれる。


 分断された機体が爆発を起こし、飛び散る無数の火球となって地上へ落ちる。

 ナジャハヴァルドは静かに高揚した。



 ────雷神に勝利した。世の頂点を、この儂が屠ったのだ……。



 最強の残骸が森に消える。激戦の過ぎ去った静寂が、次代の最強となった実感を呼び起こす。


 人類史上最強と謳われたあの蒼き雷神を倒した────。その自信が、もう一つの脅威に対する畏怖を拭い去る。



 あとは、幻霊のみ────。



 もはや恐れるものなど何も無かった。証明された己の実力と、毘盧遮那沙羅樹に対する信頼が、沸き立つ興奮を抑え心に冷静を齎す。


 倒すべきもう一つの最強を求め、空に視線を走らせる。そして、幻霊へと向けたはずの眼差しが異常を捉えた。


 陽に輝く氷雪を思わせる無数の煌めきが、鈴の音に似た清浄な音と共に空を駆け抜ける。その直後、空間が歪んだ。


 霊妙な笙の音が響き始める。音が次第に大きく、重なるにつれ、遠くを飛び交う大軍団の姿が次第に薄れる。

 そして、音が止むと同時に、全ての魔導機が蒼天に溶け込むように、跡形もなく消え去った。



「な……何が起きたと言うのだ……!?」



 先程までの騒乱の空が嘘のように静まり返り、清廉に澄み渡っている。

 困惑がそのまま、言葉となってナジャハヴァルドの口からこぼれた。


 これも……幻霊の仕業だというのか!?────。現実とは思えない現象に、ナジャハヴァルドは己の目を疑ったが、その最悪はたった今目の前で起きた紛れもない現実。


 幻霊の奮った超常の力────。それ以外に考えられない。


 ────この広遠の空の何処かに、幻霊が居る。残された道は一騎打ちのみ……!


 ただ一人残されたナジャハヴァルドには、もはやそれ以外の選択はなかった。

 既に雷神を倒したナジャハヴァルドに、恐怖心は微塵もない。むしろ、負けるはずなどないという揺るぎない自信が不安をかき消し、頂点を極めた力の執行を渇望する。

 

 幻霊……何処におる────。闘いを求めるナジャハヴァルドの瞳が、清涼の青空にただ一つ浮かぶ黒点に注がれた。


 全身に黄金の古代文字の刻まれた黒橡の機体。その背後でゆっくりと回転する荘厳な三重の光輪────。それは、幻霊ではなかった。



「なんだ……あの魔導機は……!?」



 毘盧遮那沙羅樹の前に、究極の魔導機、憐れみの死神が、降臨した。



「いいい……今何が起きたの!?……ねえリサイリ! 何これ今コレどうなってんの!?」


「僕にも分からないよ! ねえ死神じゃないや慈雨たる御手! 何をしたの!?」



 瞬間移動とも思える速さでザルーブ連邦共和国軍の真っ只中に突入したリサイリたちは、状況を把握出来ずにいた。


 一瞬前は確かにいた圧倒の大軍団が、瞬きをするうちに一機残らず姿を消していた。



「心配すんなや! 誰も殺しとらへんわ! 今頃みんなこの下の森の中でぐーすか寝とるわ!」



 リサイリは憐れみの死神を操る事が出来ず、宇宙空間をぐるぐるしていたが『慈愛の心によって動かす』という意味を理解した瞬間、操縦を会得していた。


 マリーチを救いたい一心で戦場へ飛び込んだが、その時には既に、マリーチの姿はなかった。


 

「マリーチは!? マリーチも無事なの!?」


「さあな、この辺にいたやつ全部まとめてやってもうたから、他の奴らと一緒に森で寝とるかもな、知らんけど。そんな事よりホレ、なんやでかいのがガンつけとるで」


「ななな何アレ!? でっか……!」



 地上を見渡してマリーチを探していたキシャルクティアが、少し離れた所に見える毘盧遮那沙羅樹の姿に驚き言葉を詰まらせた。

 無数の腕に剣を構え、真っ直ぐにこちらへと向かって来る。



「リリリリサイリ……なんかアイツこっち向かって来てるよ!?……あれで味方ってことは無いよね……」



 どう考えても敵であることに間違いはない。

 マリーチはきっと、この森のどこかに居る。マリーチを探す為には、その赤い魔導機を放っておくわけにはいかない。



「慈雨たる御手、あの赤い魔導機も眠らせる。僕はどうしたらいい?」



 たとえ敵であっても、あの魔導機に人が乗っている以上、キシャルは絶対に攻撃をしない────。リサイリはそれを理解していたし、そうであるべきだと思った。

 命を奪わず、誰も傷付けない方法で、自分が立ち向かえば良い。

 究極の力、憐れみの死神────。この力をもってすれば、それは決して不可能ではない。



「あ? 別に何もせんでええがな。ワイと対峙した時点でアレはもう終わりや。でもそうやな、直接触ったら、もっと面白い事になるで」


「触るだけで良いの?」


「触るっつうかアレやな、あの中に【入る】んや」


「入る?」


「まあええから、アレに体当たりしてみい!」


「そんな無茶な……」


「なんだ! そんな事で良いの!? 簡単じゃん! リサイリ! アイツにはとっとと寝てもらって、早くマリーチ探しに行くよ! はい! 突撃ー!……ほら早く!」


「よ……よぉし……!」



 キシャルクティアに急かされ、リサイリは毘盧遮那沙羅樹に狙いを定める。

 普通に考えれば、あの巨大な魔導機に体当たりするなど自殺行為でしかない。

 しかし、憐れみの死神は、シンディガーをして大神をも凌駕すると言わしめる、究極最強の魔導機。

 ほんの一瞬で宇宙空間からこの場へと移動する機動力、数千に及ぶ大軍団を一撃で無力化してしまう圧倒の攻撃力────。憐れみの死神が、人智を超越した力を秘めているという事は、もはや疑いようが無い事実。


 体当たりするだけで良い────。全力を込めるリサイリの眼差しの先、毘盧遮那沙羅樹の操縦席で、ナジャハヴァルドは魔力を集中した。

 無数の腕に握られた光の剣が分裂し、毘盧遮那沙羅樹の背後で渦を巻き始める。


 何者かは知らぬが……この儂の前に立ったことを悔やめ────。異常事態の中で突如出現した謎の魔導機に、ナジャハヴァルドは攻撃を迷わなかった。


 この状況で出現したその魔導機が、味方であるはずがない。

 その異形、その異質な存在感が、明らかな脅威であることを感じさせたが、今のナジャハヴァルドには、如何なる存在も打ち伏せる絶対の確信があった。


 渦巻いていた幾千にもなる光の剣が動きを止め、憐れみの死神の方へゆっくりと、向きを揃える。



「雷神をも討ち滅ぼした我が剣……受けてみよ……!」



 ナジャハヴァルドの渾身の剣が、一斉に走った。剣の軌跡を示す赤い閃光が空を埋め尽くし、蒼天を裁断する。



「ぎぃやぁあああーーーー……あ……あれ……!?」



 リサイリにしがみつき、迫り来る剣の豪雨に絶叫していたキシャルクティアが、我に返った。



「大丈夫だよ、キシャル」



 無意識に、リサイリは憐れみの死神の持つ力を理解していた。

 その力は何が出来るのか、どうすれば良いのか、全てが当然のように、心の中に存在していた。


 眼前まで迫っていた光の剣たちがその場で止まり、湯気のように揺らめき消えていく。

 消滅していく剣の中を、憐れみの死神が悠然と、毘盧遮那沙羅樹へと向かって進んで行く。


 その光景は、突如出現したその魔導機が、あらゆる力を超越した存在であるという事を、ナジャハヴァルドに理解させた。


 もはや、この世のものではない。人の立ち向かえる領域を逸脱している。────だが、儂は退かぬ。


 倒す事など、決して出来ない。それは、本能が察知していた。

 だからといって、敵に背を向ける事を、ナジャハヴァルドの武人としての精神が拒絶した。


 この空に散った仲間たちのため、せめて一矢報いて弔いとさせてもらおうか!────。毘盧遮那沙羅樹の光の剣が赤く輝き宙を舞う。

 暴虐の光が空を渦巻き、憐れみの死神へと襲いかかりそして、覆い尽くす。

 あらゆる物を切り刻む壮絶の嵐。持ち得る全てを込めて放った、最後の一撃。

 ナジャハヴァルドの意識が霞む。


 これで倒せなければ、もはやそれまで────。朦朧とする視界を見つめるナジャハヴァルドに、絶望が示された。



「まさか……無傷だというのか……!?」



 全力攻撃をものともせず、何事も無かったかのように眼前に現れた異形の魔導機に、ナジャハヴァルドは問い掛けた。

 物言わぬ憐れみの死神がそのまますうっと、毘盧遮那沙羅樹の機体を、そしてナジャハヴァルドの身体を、通り抜けた。


 なんだ……今のは……!?────。理解する間も無く、ナジャハヴァルドを泥のような睡魔が襲った。

 身体が重く沈んでいく。暗い海の底へ引きずり込まれるように、神経がまどろむ。


 毘盧遮那沙羅樹の機体がはらはらと、真紅の花びらとなって風に舞い、蒼の空へと散っていく。


 最強を夢見たその赤の魔導機は、美しき花吹雪となって、消え去った。

 憐れみの死神の圧倒的な力で、ナジャハヴァルドを倒しましたよ! やったね! マリーチが撃墜された事を知らないリサイリたちは、地上へ降りてマリーチを探そうとしますが、その前に、驚愕も光景を目にします。


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