表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
166/196

大切なもの

 慈雨たる御手────。リサイリの掠れた記憶の底に沈んでいた魔導機であり、同時に、倒すべき無敵の巨人【不動明羅刹天大御神】────。


 シンディガーの作りあげた究極の魔導機【憐れみの死神】の本当の名前は【慈雨たる御手】、そしてその望みはシンディガーの望みでもあり、自分たちが大神を倒す事によって成される────。リサイリは直感した。


 慈雨たる御手とは大神と関係する何かであり、憐れみの死神の望みは、大神を止める、或いは、取り戻す事────。


 想像と事実が次第に組み合わさり、形を成していく。

 しかしひとつだけ、どうしてもそこには噛み合わない事実があった。


 大神に救われた時、白の世界で聞いた声、今でこそ記憶の狭間に見失ってしまった母のあの声は、あれは一体何だったのか?


 繋がりかけていた点は、ぶつかり合うビー玉のように弾け飛び、再び心の中でバラバラに散らばってしまった。いくら考えたところで、答えには辿り着かない気がした。

 確信を形作るはずだった想像を、リサイリは手放した。

 

 それに今は、それを考えるよりも先に、やらなければならない事がある────。話は後で聞けば良い。考えるのは、それからで良い。


 リサイリがその思いを口にする前に、キシャルクティアの声がしんと、空気を裂いた。



「慈雨たる御手……」



 透き通った氷を思わせる、清潭で、麗美な声────。リサイリは気付いた。


 この声は────。キシャルクティアへと視線を向けたリサイリを、冷たい何かが通り抜けた。

 可愛らしいはずの瞳は、鋭く研ぎ澄まされた刃のように、冷徹な美しさを湛えている。

 あどけなさは消え去り、その表情にいつもの柔らかな穏やかさは無い。



 ────()()、キシャルだ……



 キシャルではないキシャルクティアが、慈雨たる御手を見つめている。

 煌々と部屋を照らしていた光が、冷たく沈んだように感じる。

 

 

「今、私たちの大切な友達、大好きなマリーチが戦ってる。助けたいの。誰も死なせたくないの。慈雨たる御手、貴方なら出来るでしょ?」


「……嬢ちゃん……?」



 その変化は、慈雨たる御手にも伝わっていた。

 静黙に過ぎていく時間が、見えない何かを積み上げているようだった。

 焼きそばパンを抱えて帰って来た魔導士が、困惑した表情で立ち止まった。



「友達か……」

 


 それだけ言うと、慈雨たる御手はその赤く光る双眸を遠くへと向けて漂わせた。



「あれの事やな」



 何かを見上げるようにして、慈雨たる御手はその視線を宙に留めた。


 慈雨たる御手には、遠くで繰り広げられている戦闘が見えている────。それは、何処かを眺めるようなその様子から、窺い知ることが出来た。

 究極の魔導機であれば、それくらいの事が出来ても不思議ではない。

 


「見えるでしょ? 敵が多過ぎる。いくらマリーチが【雷神の力】を分け与えられたとはいえ、このままでは危ないの」


「雷神の力……?」



 その言葉は一瞬だけ戸惑いを運んだが、すぐにリサイリの抱いていた疑問と想像を結び付けた。


 マリーチだけでは不安だったエルゼクティアは、マリーチを強化するため自分の魔力を分け与えた。そしてそれと引き換えに、自分が同行する事に協力させた────。魔力を分け与えるなどという事ができるのであれば、エルゼクティアがそうするという事は、容易に想像できた。しかし、キシャルクティアはいつそれを知ったのだろう?


 はじめから知っていて、知らないふりをしていたのか? それとも、後から聞かされたのか?……いや、違う────。再び湧き上がった疑問は、そのどちらでもない、確証の無い確信に辿り着いた。



 ────このキシャルはたぶん、全部知っているんだ。



 もはや、そうであるとしか思えなかった。そして、そうでなければ、説明がつかなかった。


 七星麗鬼衆との戦闘で危機に瀕していたエルゼクティアの事、ダラジャトゥの猛攻に晒されていた咲きにける雷の事────。キシャルクティアはどうして、それらの事を知っていたのか? リサイリは真実を知りたいと思った。


 しかしその探究心は、湧き上がる疑問を追いかけるように生じた感情によって、心の奥へと押し戻された。



 ────キシャルが話さないのなら、僕は何も知らなくて構わない。



 無邪気に繋がれた手、ころころと心に響く明るい声、そして、気を失っていた自分に寄り添っていてくれた、優しい寝顔────。キシャルクティアを大切にしたいという想いが力強い清流となって、リサイリの心に澱んでいた雑念を押し流した。

 

 今いちばん大切な事は、真実を知る事なんかじゃない。今ある大切な物を守る事なんだ────。リサイリはキシャルクティアの手を取り、決意を示した。



「マリーチを助けに行く。そして、この街を守る。慈雨たる御手! 力を貸して!」

『あのキシャル』の存在に疑問を抱きつつも、マリーチを助けに行く事を決意するリサイリ。考えたところで分からないし、今はそれについて尋ねている場合ではないですからね! そして実は、リサイリは真実を知る事を恐れてもいるのです!


 次回、場面は激戦に身を投じたマリーチと、困惑する共和国軍へと移っていきますよ!


 面白い! 続きが楽しみ! と思って頂けたら

ブックマーク登録をお願い致します!!

そして更に!!

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして下さいますと、張り切って続きが書けます!


どうぞ宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ