駆け抜けた先で
一瞬の出来事だった。
光と共に、渦巻いていた怒号は消え去った。
怒りにかられ、二人に詰め寄っていた群衆は静まり返り、そして、その場に倒れた。
「………………へ!?」
突然の出来事に、キシャルクティアとディブルガルが唖然とする。
倒れた人々が、ぐうぐう寝息をたている。
「リ……リサイリが……やったの……これ……?」
「……う……うん……凄い威力……」────目を覚ましてって言ったのに……寝ちゃった……
シンディガーの護符によって再び窮地を脱したリサイリはディブルガルの手をとった。
「と……とにかく早くダナディアに行こう!」
キシャルクティアも「おじさん早く!」と言ってディブルガルの背中を押す。
「お主らは……一体……!?」
困惑するディブルガルの手を引き、リサイリとキシャルクティアが走りだす。
ディブルガルも、二人の勢いに押されて走るが、その姿を見つけた暴徒たちが、一人またひとりと、追いかけて来る。
「ダラジャトゥの奴がいるぞ!」
「とっ捕まえろ!」
このままでは、この二人に危険が及んでしまう……!────。ディブルガルは訴えた。
「二人とも! 儂の事は良い! お主ら二人で行け!」
「ダメだよそんなの!」
「おじさん諦めないで!」
ダナディアを目指して走るリサイリたちに、暴徒が迫る。
右からも、左からも、ディブルガルの姿を見つけた人々が、怒りに駆られて襲い来る。
「儂を置いて行け! これではお主らまで────」
「おじさん黙って走る! あたしたちが絶対に助ける!」
キシャルクティアのその言葉を、ディブルガルは押し返す事が出来なかった。
力強く握るリサイリの手を、振り解く事が出来なかった。
たとえここで足を止めても、この二人は決して離れない────。二人の必死さにディブルガルは、絶対に助けるのだという揺るぎない意志を感じた。
そうである以上、止まるわけにはいかない。
ディブルガルは走った。
「ああ! こっちはダメだ!」
「あっちからも来てるよ!」
シンディガーから渡されたシャムアルジールの地図を記憶していたリサイリは、その場所からダナディアへの行き方も分かっていた。しかし主要な通りは暴動に乱れていて進むことが出来ない。
脇道へと逃げ込み、高い建物に囲まれる細い路地を必死に走る。
ダナディアの建物はもはや見えなくなっていたが、方角は間違ってはいない。少なからず近づいているはずだった。
大通りを避けてしばらく走り、感覚を頼りに角を曲がった所で脚が止まった。
正面に現れた錫色の楕円形をした巨大建造物────。国立魔導研究機関ダナディアの周囲を、怒りに哮る群衆が埋め尽くしている。
「な……あんなに……!」
「ああ! ねえどうしよう! 後ろからも来てるよ! どうしようリサイリ!」
逃げ場はもうない。
すぐそこにあるダナディアまでの道は暴徒が塞いでいて近付くことすら出来ず、戻ることも出来ない。
怒りに震える人々の視線がディブルガルを捉える。後ろから聞こえる怒りの叫びが近づいて来る。
こうなったら……これ全部!────。護符を選んでいる時間など無い。一か八か、リサイリが残りの護符に手をかけた瞬間、大気を引き裂く雷鳴と共に、群衆に稲妻が降り注いだ。
一瞬の後、静寂が辺りを包む。
遠くに聞こえる騒乱の響きが、微かに聞こえている。
リサイリは、目の前の光景に言葉をなくした。
稲妻を受けた群衆が一人残らず、その場に倒れた。
「す……すご……また……リサイリがやったの……!?」
「う……ううん……僕じゃない……」
手にしていた護符は、一枚として破れてはいない。間違いなく、護符の魔法によるものではない。
理解不能の事態に立ち尽くすリサイリは、黙ったまま辺りを見回す。
「どういうこと……⁉」
心の声がそのまま、口から零れた。
「間一髪! 迎えに出て来て正解だったわねん!」
「……え!?」
頭上から聞こえたその声に、リサイリたちは空を見上げた。
胸元の大きく開いた艶やかな黒い服。その上に羽織る薄く透けた丈の長い黒い衣────。
エルゼクティアと同じような格好をした短い黒髪の女が、銀色に輝く巨大な銃を両手で抱え、背後に光る二つの魔法陣を回転させながら、ゆっくりと降りて来る。
呆然とするリサイリの隣で、キシャルクティアが歓喜の声をあげた。
「フタバちゃん!」
「お嬢〜! ここでは【シャハニーヤ】って事になってるんだから、その名前は言っちゃダメよん♡」
エルゼクティアの隠密、くノ一【フタバ】であり、シンディガーの優秀な助手【シャハニーヤ】はそう言うと「さあ! 急ぐわよん!」と、エルゼクティア仕込みのお色気ウインクをかました。
絶体絶命のピンチにシャハニーヤが駆けつけました! 危なかったー! これでようやくダナディアへ行けますね! あとは憐れみの死神に乗りさえすれば良いのですが、シャハニーヤが気になる一言をこぼしますよ!
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