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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第二部 伝説の起源
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然は然りとて

「ね……ねぇ?……飴……食べる……?」



 大粒の涙をこぼしながらさめざめと泣く男の子を見かねて、キシャルクティアは恐る恐る近付いて飴を一粒、差し出した。



「な……なあに?……これ……」



 泣顔のまま、差し出された飴を見つめる男の子は、静かにむせびながらゆっくりと、キシャルクティアを見上げた。



「あ……飴だよ、飴! 甘くて美味しいのよ!」


「あめ……?」



 男の子はそれだけ言うと、不思議そうに飴をつまんで躊躇いがちに口へと運び、すぐさまガリリと噛み砕いた。



「ああ! 違うの違うの! 噛まないでゆっくり舐めるのよ!……こ……こう!……分かる!?」



 キシャルクティアは飴を口に含むと、ガリガリ飴を噛んでいる男の子に顔を近づけ、口の中の飴をころころと、音を立てて転がして見せた。


 キシャルクティアの優しさが伝わったのか、男の子は黙ったまま、小さく笑顔を見せた。


 その様子を、唖然としながら見つめる熊神形部頼久 (※エルゼクティア)は、男の子に視線をとどめたまま、ねこ状態に戻ったマリーチに尋ねた。



「ねえ……マリーチ? なんなんだい……アレ……?」


「おそらくは……伝説の【イェシェダワの龍】かと……」



 マリーチは、龍が出現した時こそ危険を感じ、咄嗟に臨戦態勢をとったが、エルゼクティアの先制攻撃の際、龍の悲鳴の中に助けを求める男の子の声を聞き、慌てて止めに入ったのだった。


 人ならざる者の声を聞けるマリーチだからこそ、それに気付くことが出来たのだった。



「わたくしも、この目で見るのは初めてで……まさか伝説の龍の正体があの様な子供だったとは……」



 イェシェダワの龍が実在し、強い魔力に呼び覚まされるという事は、マリーチも知っていた。


 しかし、現実に龍が出現したとされるのはもうはるか昔の事だったので、マリーチも他の人々と同じように考えていた。


 龍はもう、居ないのかもしれない。たとえ強大な魔力を持つ者がいたとしても、数百年もの間姿を見せていない龍が出現する事など、あるはずがない、と。


 だからこそマリーチは、エルゼクティアが一緒に行きたいと交渉を持ちかけてきた時、()()()()に同意したのだった。



「だ……だけど、エルゼクティアさん、一緒に来ちゃって大丈夫なんですか……?」



 予想外の展開に動揺するリサイリがそう尋ねると、キシャルクティアが「あたしもビックリしちゃったよ! 教えてくれたら良かったのにー」と、すっかり泣き止んだ男の子の頭を撫でながら笑顔で付け加えた。



「何事もなければ、ずっと隠れてるつもりだったんだけど、早々にこんな事が起きちまったもんだからさ────」



 エルゼクティアはそう言うと、熊神形部頼久の中から「ふぅっ」と顔を出して「まあでも……大丈夫さね!」と、さっきまで鬼神の如き勢いで暴れ回っていた凶暴クマとはとても思えない女神な微笑みで、明らかに深く考えていない無根拠な答えを返した。



「ところで、お姉さま?……この子、どうしましょう……?」


「どうするも何も……よいしょっと……もともと、ここの子なんだ、どうもしなくて良いだろう?」



 熊神形部頼久 (※着ぐるみ)を脱ぎながら、事も無げにエルゼクティアがそう答えると、その言葉を聞いたキシャルクティアが、驚いたように声を上げた。



「え!? この子、ここにおいてっちゃうの!?」



 それは当然の判断だった。


 見た目こそ五〜六歳の子供だが、その男の子は紛れもなくイェシェダワの龍。


 保護する理由がないどころか、むしろ連れ出すべきではない存在。


 エルゼクティアは、拾った動物を連れ帰りたいとせがむ子供のような眼差しのキシャルクティアに歩み寄ると「この子はね、ここに居ないといけない子なんだ、分かるだろ?」と、優しく言い聞かせた。



「でも……」



 キシャルクティアはそう言って口ごもり、男の子へと視線を向ける。


 龍の姿を見るような、つややかな白銀の衣を纏う男の子が、小さく口を開けたまま、きょとんとした表情でキシャルクティアを見上げている。


 白い肌と、ハルラート人に稀に現れる白百合色の髪────。涙の気配を残す瑠璃色の瞳に見つめられ、キシャルクティアは何も言わずに、同じ瞳をエルゼクティアへと向けた。



「う〜ん……困ったねぇ……」



 キシャルクティアの無言の訴えに、エルゼクティアが頭を抱える。


 どちらかと言うと親バカに分類されるエルゼクティアは、差程迷わずマリーチに訊いた。



「マリーチ……この子、連れてっても大丈夫かねぇ?」


「いやいや! ダメでしょうそれは!」



 エルゼクティアより遥かに常識人 (猫)のマリーチがそう即答するが、エルゼクティアはとりあえず聞いてみたというだけで、そもそも意見を求めてはいない。


 正論とも言えるマリーチの返答など右から左へと聞き流し、「さっきは可哀想なことしちまって悪かったね」と言いながら男の子の前に屈むと、穏やかな笑顔で問いかけた。



「お前さんも一緒に来るかい?」


「え!? あの……お姉さま!?……ちょっとお待ちくださ────」



 戸惑うマリーチの言葉に、嬉々とする男の子の大きな返事が、重なった。



「行くーーーー!」

 この男の子……一体なんなんでしょうか……!? 多分……龍ですよね……。でも、そんなことはお構いなし! キシャルに甘めで母性半端ないエルゼに迷いはありません。当然のように連れて行っちゃいますよ! で……でも……大丈夫なのかなぁ……!? 当然、大丈夫じゃないです!!!


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