告白
言葉が、出なかった。
ただ黙って、目の前の光景を見つめる事しかできなかった。
波立つ心を鎮め少しずつ、距離を詰めていく。
微かに抱いた安堵が影を、帯び始める。
声を潜め静かに、シンディガーは問いかけた。
「お……おいプラハ……ど……どうしたのだ……⁉」
【お団子の唄】を歌い終え、今の今まで【おにぎりセレナーデ】を歌いながら楽しそうに踊っていたラファリファ(※中身はプラハ)が、ピタリと動きを止め、一人うつむいてぶつぶつ何か言っている。
何を言っているのかと、シンディガーが耳をかたむけると、ラファリファプラハがいきなり大声を上げた。
「だーーー! 待って待ってちょっと待って! だから違うんだって! ホントにシンディガー様じゃないんだって!」
「……⁉」
突然飛び跳ねるようにして騒ぎ出したラファリファプラハに驚いて、シンディガーは思わず後ずさる。
まったく意味が分からない。
この女子はいったい一人で何を騒いでおるのか?────。「プ……プラハどうした!? 何を言って────」
ダラジャトゥの兵士たちに注目されながら、ひそひそ声でシンディガーがそこまで言いかけたところで、ラファリファプラハがわたわたと慌てはじめた。
「こっちはこっちで今大変なの! これからピクニック行かなきゃ……だから違うって! 遊びに行くんじゃないもん!……え⁉ だから女よ女! シンディガー様こっちいるもん!……ホントだって! あーーー! 待って待って引っ張んないで! 今戻ったらまずいんだって! 信じてよお頭ー!」
「……お頭……?」
はじめは、ラファリファが一人で騒いでいるのかと思ったが、その様子からすると、明らかに誰かと会話をしている。
そしてその相手をプラハは『お頭』と呼んだ。
シンディガーは気付いた。
────間違いない……プラハは今、ヴァシシュタと会話をしている……!
言葉の内容から察するに、プラハはシンディガーではなく、女、つまりラファリファに憑依してしまったと言っているのだが、ヴァシシュタはそれを信じていない。そしてどうやら、ヴァシシュタはプラハを引っ張っている。
「あーーー! 危ないアブナイあぶない! 待って待って引っ張んないでーーー!」
プラハのこの反応からして、ヴァシシュタはプラハがシンディガーに乗り移ったと思っていて、そのプラハを引き戻そうとしているとしか思えない。
────これは……まずい……!
まだダラジャトゥの軍から逃げきれていない状況で、ラファリファが元に戻ってしまったら厄介な事になる。
今プラハを連れ戻されるわけにはいかない。
「おいプラハ! ヴァシシュタと話す事は出来るか⁉ 拙者が話せば納得しよう! ヴァシシュタ! 聞こえておるか⁉ 拙者だ! シンディガーだ!」
声が届くのかわからないが、シンディガーはプラハの話しているであろうヴァシシュタにそう語り掛けてみるが、会話になるどころかプラハがますます慌てはじめる。
「ぎゃーーーー!!!! お頭待って待って! ホントなんだってマジヤバいんだって! あわわわわーーーー! 引っ張んないで引っ張んないで引っ張んな────」
ラファリファプラハはそこまで言って、急に静かになった。
動きも止まった。
お団子部隊をはじめ、ラファリファプラハによって増設された、おにぎり部隊、たまご焼き部隊、たこさんウインナー部隊も、動きを止めて言葉なくラファリファに注目する。
沈黙の中、そこに居る全員に見守られながらラファリファプラハは、その場にぶっ倒れた。
────連れ戻されてしまったか!
状況から考えて、その可能性が高い。
ラファリファに憑依していたプラハを、ヴァシシュタが何らかの方法で引き戻したとしか思えない。
このままでは、正気のラファリファが目を覚ましてしまう!────。シンディガーは、ラファリファが気を失っているうちに【粛然の幽牢】で閉じ込めてしまおうと思ったが、もしここでそんな事をしてしまえば、ダラジャトゥの兵士たちが黙ってはいない。
たとえシンディガーであっても、すでに魔力を消耗している今の状態では、全てのダラジャトゥの兵士を退くことは難しい。
そうである以上、この場で【粛然の幽牢】を発動するわけにはいかない。
「ラファリファ様! どうなさいました⁉」
「だだ……大丈夫ですかラファリファ様⁉」
お団子部隊は丸めていたお団子を投げ出し、おにぎり部隊は米粒のついた手をわなわなさせながら、倒れているラファリファとその側にいるシンディガーのまわりに集まりはじめる。
たこさんウインナー部隊は、たこさんウインナーを持ったまま固まってしまっている。
たまご焼きの焦げる臭いが漂う。
────こうなっては、致し方ない……!
シンディガーはラファリファをお姫様だっこで抱きかかえ、兵士たちに告げた。
「ラファリファは魔力欠乏を起こしてしまったようだ! 医務室へ連れて行きすぐに治療を施すゆえ、心配するでない! 皆の者はラファリファの指示通り、ピクニックの準備を進めてくれ!」
今の状況を維持するには、ラファリファを誰もいない所まで連れて行って、そこで拘束するしかない。
それまで目を覚ましてくれるなよ!────。心配そうにしている兵士たちの間を進みながら、祈るような気持ちでラファリファの顔に視線を向けた瞬間、ぱちりと、ラファリファが目を開けた。
────お……起きてしまった……!
一瞬シンディガーは、このままここで【粛然の幽牢】を発動してしまおうかとも思ったが、どうやらまだ、ラファリファは意識がはっきりとしていないらしく、ぼんやりとした眼差しで宙を見つめている。
今のうちに、ラファリファが正気を取り戻す前に、この場から離れるしかない。シンディガーは足を速める。
しかし、一つの淡い希望が胸をよぎった。
────プラハが戻って来た……という可能性はないだろうか……?
それも、完全に無いとは言い切れない。そして、もしそうであったなら、それに越したことはない。この際、ヴァシシュタでもいい。
歩を進めながらシンディガーは、再びラファリファに視線を向ける。
黙ったままじーっと、ラファリファがシンディガーを見つめ返す。
プラハか? ラファリファか? それともヴァシシュタなのか⁉────。ラファリファの艶やかな唇がゆっくりと開き、不思議そうに言葉を発した。
「なぜシンディガー様が……わたくしを抱かえていらっしゃるのですか……?」
────やっぱりラファリファだったーーー!
透き通る声、気品ある口調、そして『わたくし』という言葉────。それは紛れもなく魔導将軍、あのラファリファであるに違いない。
まだ周りには大勢のダラジャトゥの兵士たちがいる。ここでラファリファを拘束してしまえば、彼らを敵に回すことになるわけだが、ラファリファが正気に戻れば同じこと。であれば、最も強力なラファリファだけでも封じてしまった方がまだましだった。
シンディガーは魔力を集中する。【粛然の幽牢】を形作る三角形の光の壁が、一枚、また一枚と宙に浮かび上がる。
ラファリファを抱えたまま【粛然の幽牢】で閉じ込められても、発動者であるシンディガー自身は脱出することが出来る。
ラファリファを取り逃がさないようにシンディガーは、腕に抱えるラファリファをぎゅっと強く抱きしめる。
強く、ぎゅっと、抱きしめる。
ぎゅーっとぎゅーっと、強く強く、抱きしめ続ける。
ラファリファが胸の前で両手を組み、「シンディガー……さま……」と、静かに呟く。
そして唐突に、告げた。
「あ……あ……愛しています!!!」
ラファリファが戻ってしまったと思ったら、まさかの愛の告白!? もしかしてこれって、プラハの惚れ団子の効果!? プラハこわ! でもこれなら大丈夫そう! ラファリファがシンディガーを好きになってくれればきっと助けてくれるはず!……あ……でもちょっと待って……ラファリファって変態ドS女王様だった……その変態がシンディガーを好きになったって事は……逆にヤバい……!?
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