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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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忘られぬ声

 豪壮な光の濁流が、紫の稲妻を伴って暗黒の空間を轢断する。


 大神もろとも【四諦滅道紋】に飲み込まれた五十一式の翼が、腕が、塵となって光に溶けていく。


 激震と閃光の中、リサイリの意識は純白に染まっていった。

 シャムアルジールの総司令部────。慌ただしく計器を操作する兵士たちへ向けて、ミルディフが声を上げた。



「どうだ!? やったか!?」


「あまりにも衝撃が強く、計器が停止して────」


「第二弾をセットしろ!」



 兵士の言葉を遮りミルディフはそう言うと、立ち上がってモニターへと目を向ける。

【四諦滅道紋】の衝撃によって乱れる映像が、途切れ途切れに映し出されている。


 確実に【四諦滅道紋】は幻霊を捉えた。これで倒せないわけはない────。しかし、幻霊が消滅した事実をその目で確認するまでは、信じることが出来なかった。

 揺るぎなかったはずの確信は、確証を求めてミルディフの心に疑懼(ぎく)を齎す。

 

 この戦いの終焉、幻霊という脅威の寂滅(じゃくめつ)を待ち侘びるミルディフの瞳が、徐々に正常を取り戻すモニターを見つめた。



✩.*˚────✩.*˚────✩.*˚────



 声を出すことも、出来なかった。

 心にひびが入り、崩れていく気がした。

 感覚も感情も冷たく固まり、石となって砕けていく心から、エルゼクティアの声が、零れ落ちた。



「キシャル……」



 目の前で現実となった悪夢。もっとも恐れていた結末。【四諦滅道紋】は放たれ、五十一式はその中に消えた。


 きっとあの子たちは逃げている、だから大丈夫、大丈夫────。エルゼクティアは必死に自分にそう言い聞かせ、現実に目覚めて震え始めた心を鎮める。



「絶対に大丈夫……大……丈夫……うぅ……」



 祈りの言葉は嗚咽に乱され、表情が壊れる。

 疲労と絶望によって朧気になっていく意識の中、滲んだ視界に五十一式の姿を探す。


 咲きにける雷は撤退を始めていた。

 破壊され、動くことの出来ない零式が二機のF76に引かれ、戦場を離れて行く。


 エルゼクティアの瞳に、大神の後姿だけが映る。



「デンシチ……あの子たちがまだあそこに……大神と戦ってるんだ……行かなきゃ……助けに行かなきゃ……」


「あんだって!? あの子たちって……まさかお嬢とリサイリの小僧は、あそこに居たのか!?」



 譫言(うわごと)のようにエルゼクティアがそう繰り返す。即座にデンシチがレーダーを睨む。

 大神を示す反応以外、機影は見当たらない。



 ────もしあの【四諦滅道紋】がお嬢の五十一式へ向けて放たれたのだとしたら……助かるはずがない……



 現に、レーダーには大神以外の反応はない。キシャルクティアもリサイリも、消滅してしまった────。疑いようの無い現実が胸を抉り、絶望がじわじわと心に滲む。デンシチは込み上げる悲壮を堪え、エルゼクティアに答えた。



「あ……あぁ分かったよ姐さん! 俺がすぐに行ってくる! だから姐さんは叢雲へ戻ってくれ!」


「デンシチ……頼んだよ……頼んだよ……」



 弱々しくそれだけ言うと、エルゼクティアは意識を失った。

 デンシチは旋回して、遠くに見える大神へと向き直る。

 戦っている様子はない。

 大神がただ一機、微動だにせずそこに在る。



 ────跡形もなく、消え去ってしまったのか……?



【四諦滅道紋】を受けてしまったら、きっと残骸すら残らない────。否定することの出来ない悲惨な事実から目を背けるように、デンシチが視線を逸らすと、ダラジャトゥの戦艦が目に入った。


 手前に集結する艦隊が再び、【四諦滅道紋】を発動する巨大な魔法陣を暗闇に描き始めている。



 ────あれをもう一発ぶっぱなすつもりか……!?



【四諦滅道紋】が五十一式を倒すために放たれたものだったとしたら、目的は果たされたはず。それなのにどうして、第二弾を準備しているのか?


 まさか……お嬢たちはまだ無事なのか?────。そうでなければ、もう一度【四諦滅道紋】を放つ理由など他に考えられない。


 デンシチは、ここへ来る前のシンディガーとの会話を思い出した────。



『エルゼクティアはキシャルクティアたちを援護するためダラジャトゥの戦艦を攻撃しているはずだ、すぐに加勢に行ってくれ』


『お嬢を援護って……旦那! お嬢が戦ってるって事ですかい!?』


『お主も見たであろう、キシャルクティアとリサイリが拙者の五十一式を駆ける姿を、あの二人は特別な存在、大神を倒し得る希望なのだ』────。



 エルゼクティアは『あの子たちが大神と戦っている』と言った。

 そして、あの大賢者シンディガーをして、特別な存在と言わしめる二人であれば、何らかの力によって生き延びている事も考えられる。


 希望が微かに、瞬いた気がした。

 デンシチは全速力で、大神へと向かって走った。



✩.*˚────✩.*˚────✩.*˚────



 柔らかな光に包まれた白い景色が、視界に広がっている。

 心を掻き乱していた死者の嘆きは消え去り、安らかな静寂の中に、リサイリはいた。

 何も無く、誰もいない光だけの世界────。咄嗟に我に返った。



 ────僕はキシャルと一緒に黒い魔導機と戦っていたはず……一体どうなってしまったんだ……?



 形の合わないパズルのピースのような曖昧な記憶が、心の中に散らばる。

 散乱する欠片を掻き集め、繋ぎ合わせて目を凝らす。

 深い水底から浮かび上がるように記憶が蘇る。

 


 ────そうだ……遠くに見えていた光の渦が輝きを放った瞬間、その光に飲み込まれたんだ!



 直前に見た光景を思い出し、リサイリは動揺した。


 キシャルは!? ここは何処なんだ!? 何が起こったっていうんだ!?────。五十一式の操縦席ではない、現実とは思えない白の世界を、リサイリは見渡す。


 まるで夢の中にでもいるような、縹緲(ひょうびょう)とした感覚が全身を覆う。

 状況を把握出来ないまま、リサイリが白の世界を歩き出すと、誰かの声が聞こえてきた。


 

『目覚めなさい……そして早く、ここから離れるのです……』


 

 温かいその声が、記憶を呼び覚ます。

 リサイリはその声を知っていた。決して忘れる事など有り得ない、優しく、懐かしいその声を。


 リサイリは問い掛けた。



「お母さん……!?」



 

 一体どんな状況!? リサイリたちを乗せた五十一式の姿はなく、レーダーからも消えてしまっているのに……じゃあリサイリは何処にいるっていうの!?……ももももしかしてあの世!? でも、そこで聞こえてきた声……お母さんって、まさかサイーダトゥナ!? え!? どういう事!? その謎はもう少し後になってから明かされますよ! 


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