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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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絶望の光

 シャムアルジール城の総司令部に届けられた報告が、ミルディフを苛立たせた。


 突如姿を現した雷神によって、駆逐艦、装甲帯重巡洋艦、合わせて三十二隻が行動不能に陥り、捨て身に転じた雷神は金剛仁王を攻撃して【四諦滅道紋】の発動を妨害していた。


 しかし、如何に雷神の攻撃が強力であるとはいえ、防御力の高い金剛仁王を単独で止める事は不可能に近い。

 多少時間が掛かったとしても【四諦滅道紋】が発動すれば、幻霊は倒せるはず、そして、今なら雷神も倒す事が出来る。


 想定外の事態に作戦の進行は滞っているものの、決して不利な状況に陥っている訳ではない。

 揺るぎない優勢がミルディフの苛立ちを拭い去っていく。



「これはまたとない好機だ。一刻も早く【四諦滅道紋】を以て幻霊を消し去り、雷神を打ち倒せ」



 既に反政府軍の艦は制圧した。このまま幻霊と雷神を排除してしまえば、今まで手を焼いていた【咲きにける雷】を完全に壊滅させることが出来る。


 あとは、神姫と光輪を取り戻し【清廉至浄】を発動すれば、すべてが終わる────。待ち望んだ終焉、すぐそこまで手繰り寄せた平和に、ミルディフの気持ちが逸る。



「神姫はまだ見つからぬのか? シンディガーは? ラファリファは何をしておる!?」



 咲きにける雷の移動要塞【揺蕩いし叢雲】に居るラファリファに通信が送られ、総司令部中央にある巨大なメインモニターが開かれる。


 そこに映し出された光景に、ミルディフをはじめ、総司令部の全員が言葉を無くし、困惑の表情を浮かべた。


 ダラジャトゥの兵士たちが、和気あいあいとお団子を丸めている。

 賑やかな談笑に交じって、歌声が聞こえてきた。



 ────だんだんおだんご

    お月見団子

   月とおぼゆる白妙の

  らうたし和膚(にきはだ)

 ふくさなり────

 


 決して上手とは言えない歌と共に、その歌声を披露するラファリファの姿が、モニターに踊り込んだ。



 ────逍遥(せうえう)せうか

    観月(みつき)も良いか

   まずはおひとつお召しませ────「あ……あれ?……何だコレ?」



 歌いながら踊っていたラファリファはそう言って動きを止めると、口を尖らせ不審そうな顔でモニターを覗き込む。

 あの気品に満ちたラファリファとは思えない、明らかに幼い表情と仕草に誰もが唖然とする中、はっと我に返ったミルディフが言葉を発しようとした瞬間、ラファリファが声を上げた。



「ねえ! 誰か! これ起動した!? なんか点いてるよ!? 消すからね!」


「な⁉ ま……待てラファリファ! そなた一体何を────」



 ミルディフが言葉を発すると同時にモニターが閉じられ、静けさの訪れと共に、総司令部に混乱が染み渡って行く。

 側に控えていたグワダールが無言でミルディフの方を見る。


 どう考えても、ラファリファの様子が普通ではない。ましてや、兵士たちがお団子を作っている時点でどうかしている。

 ミルディフは困惑と怒りを滲ませる声で指示を出した。



「滅道紋起動陣の外にいる全ての艦を、反乱軍の艦へ向かわせろ!」

 金剛仁王は想像以上に頑強だった。


 幾度となく放たれる【贖罪と祈り】を受けても尚、行動不能には至らなかった。


 異質の魔力を放つ光の渦の周りには無数の魔法陣が浮かび上がり、いつ【四諦滅道紋】が発動されてもおかしくない状態だった。



 ────どうしよう……どうしよう……このままじゃあの子たちが……!



 焦りは冷たい絶望へと姿を変えて心に食い込み、精神を締め付ける。

 手が、脚が、目の前で現実となりつつある絶対的な脅威に震える。


 エルゼクティアにはもう、これ以上どうする事も出来なかった。

 捨て身の全力攻撃を以てしても金剛仁王を止める事は出来ず、魔力も底をつきかけていた。


 止めどなく浴びせられる無命魔導機兵の猛攻に、零式を覆う魔導シールド【朧朧(ろうろう)たる靄盾(あいじゅん)】が消え始める。

 零式の美しい機体が無惨に破壊されていく。


 激しく揺れる操縦席の中、エルゼクティアは贖罪と祈りを繰り返す。

 嗚咽と、涙に濡れた言葉を繰り返す。



「うぅ……これでもか!……これでもか!……あぁ……どうして……」



 キシャルクティアとリサイリを、戦いに巻き込むはずではなかった。

 自分が戦って、二人を守るはずだった。


 エルゼクティアは、二人を助ける事の出来ない己の力無さを呪う。

 キシャルクティアたちの背負った、戦いの宿命を呪う。


 最後の力を振り絞って放った【贖罪と祈り】は既にその威力を失い、弱々しく光る蒼い稲妻は、儚く闇に消え去った。

 動く事も出来ない程に、エルゼクティアは魔力を使い果たしてしまっていた。


 痺れるほどの疲労が血を濁らせ、身体を重く、沈めていく。

 意識は暗い海の底へ飲み込まれるように、闇に包まれていく。


 永遠の別れと死が、もうすぐそこまで来ていた。

 もうダメか────。目を開ける力をも失い、エルゼクティアが瞼を閉じて死を覚悟した、その時だった。


 零式を襲う猛攻の激震が止まった。


 鳴り止まない警告音と、赤く点滅する警告灯の中、顔を上げることも出来ず、項垂れたまま微かに開いたエルゼクティアの瞳に、視界を埋め尽くす爆炎が映った。

 周りを包囲していたダラジャトゥの無命魔導機兵が次々と爆発を起こす。

 状況を理解する前に、エルゼクティアの耳にその声は届いた。



「姐さん!」


「デン……シチ……⁉」



 デンシチ率いる咲きにける雷の大軍がシャムシールレーザーを放ち、漆黒の空間を橙色に染め上げる。

 背後からの強襲に成す術もなく、ダラジャトゥの無命魔導機兵が炎の中に消えていく。

 エルゼクティアは声を絞り出した。



「デンシチ……こいつを……ゴリアテを……ぶっ潰せ……!」


「がってんだい!」



 ロクタロウとハチベエのF76が、金剛仁王の艦橋の上で動けなくなっていた零式を運び出す。 

 咲きにける雷の猛攻が開始され、金剛仁王の艦体を爆炎が包み込む。しかしその炎を切り裂いて、金剛仁王の反撃が咲きにける雷に襲い掛かかり、紫色のレーザーに貫かれた魔導機が爆炎に飲まれる。



「は……はやく……はやくあいつを……ぶっ潰すんだよ……はやく……あいつを……!」



 破壊し尽くされた零式の中、朦朧とする意識で譫言(うわごと)のようにそう繰り返すエルゼクティアに、デンシチは必死の声で「分かってるよ!」と答えると、金剛仁王へ向けてシャムシールレーザーを乱れ打つ。


 咲きにける雷の集中攻撃を受けながらも、金剛仁王の正面に渦巻く【四諦滅道紋】の光の渦は止まらない。


 光の渦を取り囲むようにして浮び上がる無数の魔法陣が、渦の周りを回転し始める。


 金剛仁王は沈まない。

 回り始めた魔法陣に紫の稲妻が迸り、光の渦へと注がれていく。


 眩い光が、エルゼクティアを、咲きにける雷を、そこにある全てを照らす。


 遥か遠く、大神と激戦を繰り広げる五十一式へ向けて【四諦滅道紋】が、放たれた。

 

 えぇー!? エルゼの必死の妨害も虚しく四諦滅道紋が放たれてしまいました! 大神は無敵だから大丈夫だろうけど、リサイリたちを乗せる五十一式は確実に消し飛んじゃいます! あわわわ…誰でも良いから助けてー! そしてプラハ! なにやってんのあの子!? ミルディフに見つかっちゃったじゃん! 敵来ちゃうじゃん! 再びピンチに陥る叢雲に衝撃が走ります!


 面白い! 続きが楽しみ! と思って頂けたら

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よろしくお願いします!

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