無謀な挑戦
陣形を成す無数の戦艦によって、暗闇の中に極大な魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣の中央にある金剛仁王へ向かって、白い光が渦巻きながら集まっていく。
険しい表情でその光を睨むエルゼクティアは、知った。
────間違いない……あれは【四諦滅道紋】……!
魔力の根源たる四大魔元素【火】【水】【風】【土】を凝縮し、魔元素分裂反応によるエネルギーを放射する超次元破壊砲【四諦滅道紋】────。そのあまりの威力と、使用に伴って発生する魔素汚染の為、魔素拡散防止条約によってその使用は禁じられていた。
いくらなんでも……あんなもんぶっぱなされたんじゃ────。絶望にも似た感情が、エルゼクティアの身体を揺さぶる。
今から金剛仁王に突撃したとしても【四諦滅道紋】の発動を止めることは不可能に近い。
かと言って、リサイリたちを退避させようにも、激烈な戦闘を繰り広げる五十一式と大神には、近づく事すら出来ない。
「キシャル! リサイリ! 聞こえる!? ねえ!? キシャル!」
エルゼクティアは必死に通信を試みるが、ノイズだけが虚しく連なる。
────どうして繋がらないの!?……こうなったら一か八か、金剛仁王に突撃するしかない!
稲妻を纏う零式の機体が光を放ち、闇に溶け込むようにしてすうっと、その場から姿を消した。
限界を感じていた。
身体は鉄を流し込まれたように重く、脚は深い泥に取られたように、思い通りに動かす事が出来ない。
「キシャル……あいつまだ倒せないの……⁉」
尚も心に流れ込む死者の嘆きに耐えながら、リサイリが声を振り絞ってそう尋ねると、キシャルクティアは即答で「倒せないの! あれは絶対に倒せないのよ!」と返した。
「え……えぇー!?……た……倒せないって……じゃ……じゃあどうするの⁉」
「今の私たちに出来るのは、こいつらを引き付ける事だけ! 出来るだけ時間を稼いで、私たちも逃げるのよ!」
「出来るだけって……どれだけ⁉」
「だから出来るだけ!」
幸い、戦艦からの砲撃が止んだことで状況はましになっていた。
このままであれば、まだしばらくは戦闘を継続出来そうだったが、戦艦からの攻撃が止まったことに違和感を覚えたリサイリは、周囲に目を向ける。
辺り一帯を包囲していた戦艦の姿は消えていて、その代わりに、遠くの方で紫色に輝く巨大な魔法陣と、その中央で渦巻く白い光が見えた。
────ななな……何あれ……なんか……絶対ヤバイ気がする……!「キシャルあれ見てアレ! なんか変な光がぐるぐるして……!」
どう考えても危機でしかないその光景に、リサイリが慌ててそう声を上げるが、キシャルクティアは「ちょっ! ちょっと待って! 今忙しいんだから!」とリサイリの言葉を遮る。
「そりゃそうだろうけど! あれ絶対ヤバいんだって! あれあれ! ねえ! ちょっと見てよ!」
「分かったから! で!? どっち⁉ どこ⁉ なんの事言ってるの⁉」
「あれあれ! あれだって! 違う違う! そっちじゃないよ! こっちこっち!」
「あっちこっちじゃ分かんないよ! だからどっち⁉」
二人が揉めている間にも、光の渦は見る見る大きくなっていく。
魔法陣を覆い隠す程に巨大化した光の渦の中心に、蒼い稲妻が迸った。
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「くっ……なんて頑丈なんだ……!」
【霧と消ゆ】によって瞬間移動したエルゼクティアは、金剛仁王の上で焦燥に駆られた。
他の戦艦の数倍はあろうかという程に巨大な上に、強力な魔導防御術の施された金剛仁王は、【贖罪と祈り】を以てしても僅かなダメージしか与えられず、とても行動不能にする事は出来なかった。
エルゼクティアの攻撃によって一瞬だけ滞った光の渦が、再び回転し始める。それと同時に、陣形を組む戦艦から無命魔導機兵の大軍が放たれ、零式に向けて一斉に攻撃を開始した。
乱れ飛ぶシャムシールレーザーが、零式に降り注ぐ。
「あーもう! うっとおしいね!」
エルゼクティアは攻撃を躱しながら反撃する。
乙女の法悦から放たれる蒼のレーザーは正確に敵を打ち抜いていくが、敵が多過ぎる。
どれだけ倒しても、一向に数は減らない。
────こんな事していたんじゃ、いつまで経っても埒が明かない!
早く金剛仁王を止めなければ【四諦滅道紋】が発動してしまう。自分一機だけでこの巨大戦艦を止める事など不可能に近かったが、リサイリたちを救うには、それに賭けるしか無かった。
こうなったら、金剛仁王に張り付いて【贖罪と祈り】を連発するしかない!────。エルゼクティアは攻撃を掻い潜り、金剛仁王の艦橋に降り立つと即座に【贖罪と祈り】を発動した。
蒼い稲妻が駆け巡り、金剛仁王を走り抜ける。
艦橋と左舷の一部で小規模な爆発が起きたが、やはり行動不能には至らない。
「もう一回!」
再び【贖罪と祈り】を発動しようとするエルゼクティアを、激しい衝撃が襲う。
無命魔導機兵の大軍が、金剛仁王の艦橋に立つ零式へ向けて集中攻撃を放ち、零式を覆う魔導シールド【朧朧たる靄盾】が少しずつ、光りの塵となって弾け飛ぶ。
しかしエルゼクティアはその場を動かず、光の豪雨と化した砲撃を受けながら【贖罪と祈り】を放ち続ける。
操縦席に鳴り響く警告音に、爆音と激震が重なる。赤く点滅する警告灯に照らされ、エルゼクティアは静かに呟いた。
「どっちが先にくたばるか……根競べと行こうじゃないか……!」
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その一言が齎した沈黙は一瞬の後、歓声に変わった。
頭を抱えていたシンディガーは「ん……な……なんだ? どういうことだ……?」と困惑する。
喜びに沸くダラジャトゥの兵士たちの中から数人がラファリファの前へと駆け寄り、整列して敬礼をする。
「ラファリファ様! ピクニックと言う事であれば、万事我々【ダラジャトゥピクニック推進委員会】にお任せ下さい!」
「うむ! 心強いぞ! じゃあ早速、美味しいお団子を作るんだ!」
「捕虜は如何されますか⁉」
「うむ! 仲直りするぞ! もうケンカしちゃダメだぞ!」
バタバタと慌ただしくダラジャトゥの兵士たちが動き出す。
咲きにける雷の兵士たちの拘束が解かれ、デンシチがよろめきながらシンディガーに歩み寄る。
「だ……旦那……こいつは一体……⁉」
想定外の展開に、流石のシンディガーも混乱していたが、とりあえず窮地は切り抜けた。
後は一刻も早く叢雲を逃がし、ダラジャトゥの軍隊から隠れなければならない。
「く……詳しい話は後だ……デンシチよ、至急状況を確認して────」
と、そこまで言った時、ラファリファプラハがシンディガーとデンシチに駆け寄って会話を遮る。
「ねえねえお坊さん! あなたココの人でしょ?」
「うおぉ!?……お……お坊さん………?」
突然話しかけて来たラファリファにデンシチは身構えたが、先ほど自分に拷問をして喜んでいた人物とは思えない、ラファリファの可愛らしい無邪気な笑顔に、戸惑いの表情で首を傾げる。
「お坊さんじゃないの? 頭つるつるなのに? まあいいや、あのさ、米粉ある?」
「こ……米粉?……米粉なら……台所行きゃあるけど……」
「お団子部隊!」
デンシチの返答を聞くや否や、ラファリファプラハが声を上げる。
お団子部隊が集合する。
「米粉はお台所にある! この非常時において美味しいお団子を作り上げ、最高のピクニックを敢行する! この無謀ともいえる挑戦を、我々は何としても成し遂げるのだ! ゆけ!」
「イエス! マム!」
お団子部隊が走り去っていく。
シンディガーもデンシチも、呆然とするしかなかった。
敵を引き付ける為に決して倒せない大神に挑み続けるリサイリたち。そのリサイリたちに向けて放たれようとする四諦滅道紋を命懸けで阻止しようとするエルゼ! そしてこの激戦の最中、叢雲ではラファリファ (※プラハ)がピクニックを敢行!? それぞれの無謀な挑戦は、予想外の結果へと繋がっていきます!
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