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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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強敵

 烈烈たる白炎と銀に煌めく雨の嵐が大神を覆い隠す。

 激しく飛び交う【宿命の滅び】同士がぶつかり合い、闇に弾けて赤く散り咲く。


 ダラジャトゥの戦艦による一斉攻撃に晒されながらも、常軌を逸した機動力でその全てを回避し、リサイリたちの五十一式が猛然と大神を攻撃する。



「あの子たち……どうしてあんな事が……」



 理解を超えた機動性、美しくも壮絶な未知の魔導攻撃、そして、大神にしか放てないはずの赤い光線【宿命の滅び】────。五十一式によって繰り広げられる現実とは思えないその光景に、エルゼクティアはそう呟いた。


 この力と【憐れみの死神】を以てすれば、本当に、大神を倒してしまうのかもしれない────。疑問と驚愕、そして、キシャルクティアたちの背負う戦いの宿命に憂いを抱くエルゼクティアの心に、僅かな希望が芽生える。


 自分の力では、あの壮絶な戦闘に加わりキシャルクティアたちの手助けをする事など出来ない。

 今自分に出来るのは、五十一式を包囲して攻撃を浴びせるダラジャトゥの艦隊を排除する事だけ。


 一隻でも多くの戦艦を止め、あの子たちの負担を減らす────。エルゼクティアの決意の眼差しが、砲撃を続ける戦艦の群れに向けられる。


【贖罪と祈り】によって、既に数十隻の戦艦を行動不能にした。

 しかしまだ、百隻以上の戦艦が広範囲に渡って展開し、五十一式を取り囲んでいる。



 ────考えている暇なんて無い、あの子たちの邪魔をさせるもんか!



 たとえ【贖罪と祈り】が強力な広範囲攻撃であっても、相手が巨大な戦艦とあっては、一隻ずつしか倒せない。

 次の標的を定め、エルゼクティアが【霧と消ゆ】を発動しようとした瞬間、零式に向けて橙色の光線が降り注いだ。


 瞬時に、発動しかけていた【霧と消ゆ】を防御魔法【朧朧たる靄盾】に切り替え、レーザー攻撃を防ぐ。


 蒼炎を吐き出し、高速移動によって即座にその場を離脱するが、橙色の光線、無数の【シャムシールレーザー】が、零式を目掛けて襲いかかる。



 ────なんて正確な攻撃……相当の手練だね……!



 不規則に舞い散る花びらのように、華麗に攻撃を躱すエルゼクティアの眼差しが、シャムシールレーザーを放つ魔導機の姿を捉えた。


 斑模様に覆われ、黒の空に紛れる黒檀の機体、昆虫を思わせる丸みを帯びた翅と四肢から突き出た幾本もの棘────。エルゼクティアはその魔導機を知っていた。



 ────ダラジャトゥの豪傑、ワーレイク・アフワンか……!



 ダラジャトゥ魔導機兵隊の頂点にして最強、かつて【鉄壁の守り人】と謳われた伝説の魔導騎士、既に前線を退いたと思われていたワーレイク・アフワンの駆ける魔導機【無骸一天】に、エルゼクティアは苛立ちを覚える。

 

 面倒なのが出てきたね────。一隻でも多くの戦艦を止めなければならないこの時、他の魔導機と戦っている時間など無い。

 


「お呼びじゃあないんだよ!」



 エルゼクティアの怒りを込めた蒼のレーザーが無骸一天を目掛けて放たれる。

 しかし、的確に機体に命中したはずのレーザーは弾け、儚く消え去った。



「やっぱりダメか!」



 零式の装備するレーザーキャノン、エルゼクティア好みにキラキラにデコられた【乙女の法悦】は、魔力の消費を抑えるという理由と、出来るだけ人の命を奪わない様にする為、魔導機を行動不能に出来る最低限の威力に抑えられていた。

 ただでさえ破壊力の低い【乙女の法悦】が、最強の防御力を誇る鉄壁の守り人【無骸一天】に通用するはずがなかった。



 ────この忙しい時に……!



 零式の手に持つ【乙女の法悦】が光を放ち、碧天に輝く半透明の光の刀に姿を変える。

 

 刀を振りかざし、シャムシールレーザーを切り裂きながら突進して来る零式を睨み、ワーレイクは言った。



「雷神……一騎打ちだ……!」


 

 ダラジャトゥによって制圧された揺蕩いし叢雲────。


 一人で乗り込み孤軍奮闘するシンディガーを取り囲み、ダラジャトゥの兵士たちが銃型の魔導具を向けて光を放つ。

 光は半透明の壁となり、回転しながら四角錐を形成してシンディガーを閉じ込めた。


 

「や……やったか……!?」


「確保……確保しました!」


「よし! ラファリファ様に報告しろ!」



 シンディガーが完全に閉じ込められている事を確認すると、兵士たちは歓声を上げながら半透明の四角錐に集まって来る。



「隊長! 遂に捕らえましたね!」


「うむ! 如何に大賢者と言えど、この【粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)】から逃れる事は出来まい!」



 絶対に脱出不可能とされる封印の魔法、シンディガーを閉じ込めてゆっくりと回転する【粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)】を見上げ、隊長は自信に満ちた表情でそう答えた。


 シンディガーの放つ魔法によって吹き飛ばされたり、眠らされたりして、苦戦を強いられていたダラジャトゥの兵士たちは、ようやくシンディガーを捕え、安堵と喜びに湧く。


 その兵士たちに向かって、粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)に閉じ込められるシンディガーが、大きな身振り手振りをしながら、何かを訴え始めた。


 光の壁に遮断され、声は全く聞こえないが、その様子に気付いた一人の兵士が、銃を構えシンディガーに視線を留めたまま、報告をする。



「隊長! シンディガーがなにやら不審な動きをしています!」



 兵士の報告を聞いた隊長がシンディガーへ目を向けると、シンディガーが両手を上げて前後に振りながら、何か言っている。



「……何をしておるのだ……?」


「……『離れろ』と……言っているのでしょうか……?」



 その仕草は『離れろ』『向こうへ行け』と言っている様に見える。

 そして、口の動きを見てもどうやら『離れろ』と言っている。



「うむ……離れろと……言っているな……」


 

 しかし、どうして離れろと言っているのか?────。兵士たちはお互い顔を見合わせると、離れること無く不思議そうに首を傾げてシンディガーの方を見る。


 その様子に痺れを切らしたシンディガーは、呆れたように大きく溜息を吐き出すと、一呼吸おいてから、さっきよりも更に大きな身振り手振りで何かを訴える。


 兵士たちは、離れろと言われている事など気にもせずに、飛び跳ねるようにして必死に何かを伝えようとするシンディガーに注目して、むしろ近付く。



「隊長……これはなんですかね……『一』と『十』と……『八』……でしょうか……何か数字を伝えようとしているみたいですね……」

 

「うむ……一と十と八……『百八』か……?」



 シンディガーは両掌を広げたり、指で『一』や『八』を表したりしている。

 そして今度は、人差し指で自分自身を指差したり、粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)の三角の辺に沿って指を動かしたり、自分と外を指す動作を繰り返している。



「隊長、これは単に『ここから出せ』と訴えて居るのでしょうか……?」


「……そうであろうな……流石の大賢者であっても、自分で作り出した究極の封印魔法は解けぬという事か」



 隊長の放ったその言葉が、一瞬の沈黙を呼んだ。

 兵士が尋ねる。



「た……隊長……この銃発射式粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)って、大賢者シンディガーが作ったのですか……!?」


「如何にも。通常であれば習得するだけで数年はかかる高等魔法、粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)を、誰にでも放てる銃型の魔導具として作り上げたのが、他でもないここに居る……」



 隊長はそこで言葉に詰まり、表情が沈む。

 他の兵士たちも黙ったまま、不安に染まった視線をシンディガーへと向ける。



 兵士たちが何かを悟ったのを感じ取ったシンディガーは、大きく頷くと、今度は両掌を広げてゆっくりと、指折り数え始めた。



『十……九……八……七……』



 隊長は叫んだ。



「総員退避! 退避しろ! ここから離れるのだ!」



 状況を理解出来ず、戸惑う兵士たちがようやく退避しようと動き出したその時、シンディガーの小指が折りたたまれる。

 

 爆音────。


 凄まじい衝撃と共に、粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)を形作っていた光の壁が砕け散り、周囲を取り囲んでいた兵士たちが一人残らず吹き飛ばされた。

 一瞬の後、静寂が辺りを覆う。


 シンディガーによって作られた銃器型粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)は、シンディガー自身は拘束出来ないように、百八数えると自動的に解除される様に作られていたのだった。



「だから離れろと言ったのだ……」



 粉々になって舞い落ちる光の塵の中、シンディガーはそう呟いた。

 

 ダラジャトゥの軍はシンディガーに対し、殺傷力のある攻撃は行わず、この粛然(しゅくぜん)幽牢(ゆうろう)のように、常に捕縛を試みていた。

 そしてそれは、予想していた事でもあった。

 

 ミルディフは神姫ともう一つ、清廉至浄(せいれんしじょう)の実現に絶対不可欠な神器【光輪彩重(こうりんあやがさね)】の行方を追っていた。

 シンディガーが神姫と共に光輪彩重を持ち去ったと考えていたミルディフは、何としてもシンディガーを捕える必要があった。

 


 ────咲きにける雷の皆を救うには、それを交換条件に交渉する他に無い……



 状況から考えて、叢雲は完全にダラジャトゥの手に落ちている。

 そして恐らく、デンシチたち咲きにける雷の兵士は人質として拘束されている。

 如何にシンディガーが強力な魔導士であっても、単独でダラジャトゥの軍を叢雲から撃退するのは不可能。そもそも、人質を取られている以上、強行する訳にも行かない。


 咲きにける雷の兵士たちを解放するには、光輪彩重を材料として交渉に持ち込むしかなかった。


 

 ────しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……



 当然、光輪を渡す訳にはいかない。最悪、光輪がミルディフの手に渡ったとしても、ミナセヤヒを奪われさえしなければ清廉至浄の発動は阻止できるが、今はどうしても、光輪彩重を奪われる訳にはいかない理由があった。

 人質を解放し、光輪も守るにはどうすれば良いか?────。策略を巡らせるシンディガーを嘲笑うかのように、周囲一帯に声が響いた。



『流石で御座いますわねシンディガー様……』


「その声は……ラファリファか……」



 ここではない別の場所から届けられる、(みだ)りがわしい笑みを纏うラファリファの声に、シンディガーは表情を曇らせた。


 魔導将軍アルムルージュ・ラファリファ────。銀髪が大多数を占める中、ごく稀に出現する白百合髪のハルラート人。透き通る美貌と卓越した魔力、そしてその稀有な存在から【婉麗(えんれい)の軍神】と謳われていた。


 しかし、その気品溢れる麗しい姿に反して、拷問を好む彼女の残虐な性格を知るシンディガーは、ラファリファを危険な人物だと認識していた。



 ────よりによって、ラファリファが来ておったとは……厄介だな……



 ダラジャトゥの軍において最も優秀であり、且つ危険な人物ラファリファが相手では、交渉は難しい。眉間に皺を寄せるシンディガーに、嬉々とした声でラファリファが語り掛ける。



『もうお気づきとは思いますが、この艦は完全に占拠致しました。そして、貴方様の新しいお仲間も全員、ここで拘束されていますのよ』


「そうであろうな、では早速、全員解放して貰おうか」


『あら、随分と強気ですこと……要求の出来るお立場だと……?』


「彼らを解放しなければ光輪は戻らぬぞ」


『それは困りますわね……』



 一瞬の重い沈黙の後、ラファリファが『うふふ……』と、笑みを零すと、大勢のダラジャトゥの兵士が現れ、再びシンディガーを取り囲んだ。



『抵抗されるのであればどうぞご自由に。わたくしも、これで貴方様を捕えられるとは思っておりませんわ……ですので……』



 確かに、その包囲を突破する事などシンディガーにとっては雑作も無い事だった。

 しかし、ラファリファの放った一言が、シンディガーの動きを封じた。



『シンディガー様が大人しく投降して下さるまで、ここに居る人質を一人ずつ、痛ぶりながら殺していく事に致します』



 卑劣な真似を……!────。それが脅しでは無いという事は明らかだった。

 ラファリファは人を殺す事を躊躇わない、むしろ、嬉々として殺していく。

 握り締められたシンディガーの拳が怒りに震える。

 


『光輪とこの者たちの命、慈悲深いシンディガー様なら、迷う事も御座いませんでしょう?……』



 ラファリファはそう言うと、シンディガーを取り囲む兵士たちに指示を下した。



『皆の者、大賢者シンディガー様を、こちらへご案内して差し上げなさい』



エルゼとシンディガー、それぞれの前に強敵が現れましたよ! 一騎打ちになってしまったエルゼは、絶望的な光景を目にすることになります! そしてラファリファと対峙するシンディガーには、想定外の異常事態が……!


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