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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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巨影

 シャムアルジール城の総司令部を、どよめきと静かな戦慄が覆った。


 あの勇猛果敢な魔導機兵隊目付頭、ワーレイクからの信じ難い報告に、そこに居る兵士だけでなく、ダラジャトゥ・ミルディフですら、その得体の知れない存在に畏怖の念を抱いた。


 尋常ならざる魔力、最新魔導機兵を遥かに上回る性能、そして【非情なる粛清】を放つ純白の五十一式、幻霊────。全てが、理解の範疇を超えていた。もはや人の為せる業ではなかった。

 


「幻霊は……この世の者では無い……というのか……」



 ワーレイクの言葉を思い出し、ミルディフはそう呟いた。


 幻霊の能力の、その片鱗を知る事は出来たが、それ以外は全て謎に包まれたまま。

 しかし、その僅かに知り得た事実は、幻霊にどう対処するべきであるかを、ミルディフに分からせた。



 ────幻霊が『非常なる粛清』を発動出来る以上、どれだけ魔導機兵を送ったところで太刀打ち出来まい……



 神姫を奪還し、咲きにける雷を殲滅する事の出来るこの機会を逃すわけにはいかない。そして、最大の脅威と成り得る幻霊は、ここで倒しておかなければならない。

 ミルディフは今取るべき最善の策、最大の手段を講じる。



「全ての駆逐艦と装甲帯重巡洋艦を向かわせ遠隔射撃で牽制しつつ幻霊を包囲、大神を以て幻霊を討て!」


「大神を⁉……そ……その上、艦隊まで動かしてしまわれては、神姫奪還が……」



 強襲艇を送り込んでいるとはいえ、今咲きにける雷を包囲している艦隊を幻霊に差し向け、その上、大神までその包囲から外してしまっては、反政府軍を見逃す様なもの。グワダールが戸惑いながら異議を口にしようとすると、ミルディフがそれを遮る。



「幻霊を野放しには出来ぬ。今ここで倒しておく必要がある」


「しかし、強襲艇は未だ反政府軍の艦に突入出来てはおりませぬ……ここで手を緩めてしまっては……」


「反政府軍の艦へは【金剛仁王】を突撃させて乗り移れ。多少の損害は構わぬ、強硬手段を以て一刻も早く神姫を奪還するのだ。ラファリファにそう伝えよ!」

「間もなく敵艦隊に接触する、エルゼよ、拙者が注意を引いている間に先に行け」


「え!?……で……でもお前さん……」



 レーダーを見る限り、リサイリたちの出現によって戦況は大きく変化していた。

 少数の艦隊が手前にあり、叢雲を包囲していた敵艦と大神と思しき機影が、リサイリたちを迎え撃つ形で移動していた。


 リサイリたちの援護へ向かうためには、まず一番手前の艦隊を突破しなければならない。


 大回りをして回避するという方法もあったが、それでは時間が掛かり過ぎる。可能な限り最短距離を行く必要があった。

 しかし、万が一見つかって戦闘になってしまった場合、如何にエルゼクティアと言えど時間の浪費は避けられない。

 一刻も早くリサイリたちの下へ向かう為には、自分が敵の注意を引きつけ、エルゼクティアを先に行かせる方が確実だった。



「そなたが強いのは良く分かっておる。そして【霧と消ゆ】で瞬間移動が出来る事もな」


「だったら、あたしが注意を引きつけてお前さんを先に……」



 エルゼクティアにとって、今前方に配置されている艦隊を突破する事など【霧と消ゆ】を使えば難しい事ではなかった。

 はじめからそのつもりでいたエルゼクティアは、シンディガーにそう言われてどうするべきか戸惑ったが、返された言葉で気付かされた。

 


「【霧と消ゆ】を発動すれば多くの魔力を消費する。そなたとて魔力には限りがある。今は出来るだけ力を温存するのだ」



 これから迎える戦いは今までとは違う。

 勝ち目など無いような、圧倒的大軍勢を相手にした決戦。

 何としても一日、大神が撤退するまで戦い抜き、皆を守らなければならない。

 逃げる事の許されない壮絶な戦いが目前に迫っている────。シンディガーの言葉にエルゼクティアは、覚悟を改める。



「拙者では当然、手前に居る七隻の艦隊を撃破する事は叶わぬが、切り抜けるだけなら一人でも出来よう。こちらの事は気にせず先に行け」


「分かったよお前さん……気を付けておくれよ……」



 ハルラート人最高と謳われる大賢者であっても、魔導騎士ではないシンディガーにとって魔導機戦は、決して優位な戦いではない。

 エルゼクティアは、シンディガーを危険に晒してしまう事を心苦しく思ったが、現状ではこの方法が最も賢明な選択だった。


 寄り添うように空を駆けていた二機の魔導機が離れる。

 高速で遠ざかっていく零式を見送り、決死の眼差しで正面を見据える。

 シンディガーは、九俱瓔珞(くぐようらく)に、照準を合わせた。




✩.*˚────✩.*˚────✩.*˚────




「おいロク! そっちはどうなってる!?」

「前から来た奴らは一旦退いて、こっちの様子を伺ってるみたいでやんす! 上はどうでやんすか!?」

「こっちも同じだ、休憩でもしてんのか!? デンシチ! お前は無事か!?」

「ああ大丈夫だ! なんか様子がおかしいな! 大神もあっちの方行っちまったみてえだ……おいゴロウマル! 状況を教えろ!」



 全ての魔導機で叢雲の周囲を固め、F66に乗って守備に徹していたデンシチ、ハチベエ、ロクタロウは、とめどなく押し寄せていた強襲艇の勢いが弱まった事を不審に感じていた。

 大神をはじめ、四方八方を埋めつくしていた敵艦が徐々に離れていき、突入を試みていた強襲艇は正面に集まり、叢雲の前方を塞ぐ形で止まっている。

 叢雲の中央管制室に残るゴロウマルが、レーダーを睨みながら口を開く。



「ああ……それがな、よく分かんねえ事になっててな……やっこさんが包囲を解き始めていやがる」


「確かにそういう風に見えるがまさか……諦めた訳じゃあるめえ……」



 ここまで追い詰めて、撤退する事などあり得ない。しかし逃げるなら、攻撃の手が緩んだ今しかない────。全員がそう考えたが、この展開は不自然過ぎた。

 下手に動けば敵の罠に落ちる。迂闊に行動を起こす訳には行かない。

 ロクタロウはまん丸眼鏡を拭くと、ゆっくりとかけ直して口を開いた。

 

 

「何かを……待ってるとしか思えないでやんす……」


「待ってる?……」



 デンシチがそう言った、その直後だった。



「避けろ!」



 ハチベエの叫びで、全員が瞬時に回避行動をとる。

 夥しい数のレーザーがハチベエたちのF66をかすめ、叢雲を包む防御魔法【朧朧(ろうろう)たる靄盾(あいじゅん)】の半透明の光の幕に直撃し、紫色の爆炎を巻き起こす。

 これまで直接攻撃をしてこなかった強襲艇が一斉に、叢雲に対して真正面から砲撃を開始した。



「ううう撃ってきやがった!」


「何だってんだ一体⁉ こっちにゃミナセヤヒが乗ってんだぞ!」



 数十隻にも及ぶ強襲艇からの激しい攻撃を受け、叢雲の船体が揺れる。

 デンシチたちが叢雲の正面に集まり応戦するが、強襲艇は反撃する魔導機兵部隊を無視し、叢雲を攻撃し続ける。



「駄目だ! こんな集中砲火じゃ【朧朧たる靄盾(シールド)】がもたねえ! 叢雲! 退け! 後ろだ後ろ!」


 

 前方を塞がれ、猛攻に押される叢雲が後退しながら声を上げた。



「おいお前ら! 早く前の奴らを何とかしろ! 後ろは駄目だ! ゴリアテが突っ込んで来やがった!」


「ゴリアテだと⁉」



 叢雲の言葉に、全員がレーダーに目を向ける。

 正面からの攻撃に気を取られているうちに、撤退したかと思われた敵艦隊の一隻が、猛烈な速度で突っ込んで来る。



「お……大きい……!」

「あああ、あいつら……ふ……艦ごとぶつけて乗り移る気だ!」

「叢雲! 前行け前!」

「無茶言うな! この集中砲火に頭から突っ込めってのか⁉」

「じゃあ下行け!」「右! 右でやんすよ!」「上に逃げろってんだこのうすのろが!」

「うすのろって言うんじゃねえ!」



 ゴリアテ────。ダラジャトゥ主力戦闘艦【金剛仁王】の巨大な影が、叢雲を覆った。

ミルディフが強硬手段に打って出ました! たたた大変だぁ……! これでは突入されてしまうのはもう時間の問題! そしてミルディフが指示を出したラファリファって一体どんな人物なのでしょうか……!?


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