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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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漆黒を目指して

 憂いと苦悩を纏うジュベラーリの言葉を、エルゼクティアは思い出していた。

『あの子らに戦わせたくはない』────。抗う事の出来ない運命を思わせるその言葉が、リサイリとキシャルクティアを自分の下から連れ去って行くような気がした。

 五十一式の消えて行った空を見つめ、エルゼクティアは言った。



「あの子たちやっぱり……」



 現実となる望まない未来に悄然とするエルゼクティアに、シンディガーは何も言う事が出来なかった。


 しかしその言葉から、エルゼクティアは真実を悟ったのだという事が、伝わってきた。


 運命が、激流となって押し寄せる。もはや、突き進む以外に選択肢はない。シンディガーは告げる。



「エルゼよ、あの二人は大神に匹敵する力を持っている。そしてその力で、キシャルクティアとリサイリ、あの二人が大神を倒す」


「大神!?……そんな!?……まさか……あの大神を倒すなんて……」



 決して倒す事の出来ない無敵の巨人、あの大神と戦って、倒す────。想像すらしなかった宿命、不可能としか思えない未来に、エルゼクティアは震撼する。

 そしてこれこそが、ジュベラーリが本当に伝えたかった事なのだと、理解した。


 キシャルクティアとリサイリは戦いに身を投じる定めにある───。二人が自分を助けに来てくれたと知った時から、エルゼクティアは薄々と、その事を予感していた。

 しかし、その運命の行き着く先が、大神との戦いであるという事に、エルゼクティアの心が不安と恐怖に染まっていく。

 言葉を無くすエルゼクティアに、シンディガーが知らせる。



「ジュベラーリは拙者に言ったのだ、あの二人が【憐れみの死神】を操り大神を倒すと、つまりそれは、五十一式に乗っている今ではない」


「……じゃ……じゃあ……⁉」



 知らされた事実が、エルゼクティアの抱いていた不安を掻き立てる。二人を失ってしまうかもしれないという恐怖が、冷たく全身を覆う。



「そうだ、あの二人であっても、今この時、大神を倒す事は叶わぬ」


「そ……そんな……あたし……行かなきゃ!……早く行かなきゃ!」



 現実味を帯びた危機に怯え、取り乱しそうになるエルゼクティアを、シンディガーは「待て、聞くのだエルゼ」と諌め、冷静な声で伝える。



「あの二人は強い。たとえ五十一式であっても、大神と互角に渡り合えるほどに」


「で……でも……!」


「よいか、我らが助太刀しようにも、あの二人と大神の闘いの中においては、むしろ足を引っ張ってしまう」



 当然、エルゼクティアは大神の常軌を逸した強さを十分に理解していた。

 全ての攻撃をはじき返す漆黒の機体、そして、そこから繰り出される圧倒的な破壊力を持つ凶悪な攻撃─────。それは、ダメージを負わせられないだけでなく、エルゼクティアでさえ、攻撃を回避するのが精一杯だった。



「だからって……あの子たちだけじゃ……」



 確かに、自分の力では大神との戦いで二人を守る事など出来ない。

 戦いに身を投じる二人の力になれない己の不甲斐なさが、悔しさとなってエルゼクティアの瞳に滲む。



「大神を抑えられるのはあの二人だけだ、我らはダラジャトゥの戦艦と魔導機兵隊を二人に近付けぬ様に全力を尽くす。それが、あの二人を守る事になる。エルゼよ、二人を信じるのだ!」


「お前さん……」



 シンディガーの言葉が、エルゼクティアの心に強さを与える。潤んだ瞳に決意が漲る。



「行くぞ! エルゼ!」


「……キシャル、リサイリ……今行くからね……!」


 

 極大な弧を描く水平線に、青さを忘れた空が広がり始める。

 明るく照らされる闇の中を、F76と零式が漆黒の天空を目指し、駆け昇って行った。



 ダラジャトゥ魔導機兵隊目付頭、ワーレイク・アフワンは、モニターに映し出される映像に驚きと、疑念の眼差しを向けた。

 ミルディフの命令を受け、艦隊を率いて幻霊の迎撃に向かった第九遊撃連隊装甲帯重巡洋艦【九俱瓔珞(くぐようらく)】の指揮管制室が、騒然とした空気に包まれる。



「これが……【幻霊】……だと言うのか……⁉」



 白い光を放ち、常識を超えた速度で接近してくる旧式の魔導機、純白の五十一式の姿に、そこに居る全ての兵士たちが目を疑った。



「ま……間違いありません……あの五十一式から測定不能の強い魔力反応が検出されています……」


「有り得ん……何故あの機体で成層圏を突破出来たのだ……」



 五十一式の飛行範囲は限られていて、成層圏どころか、対流圏上限までしか上昇出来ないはずだった。

 それにも拘らず、既に中間圏に達し、常軌を逸した速度で更に上昇してくる純白の五十一式に、ワーレイクは驚異と同時に、恐怖にも似た違和感を覚える。



「幻霊が中間圏を突破! 間もなく無命魔導機兵隊と接触します!」



 これは異常だ────。



 たとえ自軍が一万を数える大軍であっても、未知の存在である幻霊を撃退出来る保証など無い。

 ワーレイクは直感と本能に従い、指示を下す。



「全艦に告ぐ、全ての三連装レーザー砲の照準を幻霊に合わせ、幻霊が無命魔導機兵隊を突破した瞬間一斉射撃を行う」


「まさか……あの大軍を突破出来る者など……」



 幻霊が如何に強大な魔力を放つ魔導体と言えど、所詮はたった一機の旧式の魔導機。一万にも及ぶ最新の無命魔導機兵隊が突破されるはずはない────。常識的に考えてそう言葉にした兵士にワーレイクは「確かに、人には成し得まい……」と、深い思慮に沈む声で答えた。


 魔導機兵とは、その基本性能の限界こそあるものの、その能力はそれを操る者の魔力や身体能力、精神によって大きく左右される。


 もし、魔導機兵を操る者が、その機体の性能限界を補って余りある魔力を有し、常人離れした身体機能、神経系統を持っているのだとしたら、この幻霊の様に、基本性能を遥かに上回る性能を発揮する事も、理論的には不可能ではなかった。


 しかしそれは、あくまでも理論上での事。


 常人の神経や精神力、持ち得る魔力量では、絶対に不可能な事だった。


 では、今現実に存在している幻霊は、何だというのか────。ワーレイクは確信にも似た、ひとつの仮説に辿り着く。



「幻霊……あれを操る者は、もはや人では……」



 ワーレイクがそこまで口にした、その時だった。


 重い轟音と激震────。

 

 誰も経験した事の無い程の衝撃が【九俱瓔珞(くぐようらく)】を襲った。

 ワーレイク、兵士たちは床に倒れ込み、指揮管制室を暗闇が包む。

 けたたましい警報の中、薄赤い非常灯が点灯し、震駭(しんがい)する兵士たちを映し出す。



「何だ⁉ 今の衝撃は⁉」

「わ……分かりません! 全ての魔計器が停止しました!」

「メイン魔力炉がダウン! 予備魔力源に移行!」

「復旧を急げ! 状況を確認しろ!」



 混乱する指揮管制室に光が戻る。動揺の収まらないまま、兵士たちが計器に目を走らせる。

 一体何が起きたのか? 状況はどうなっているのか? 復旧した九俱瓔珞(くぐようらく)の解析システムによって、現実が明らかとなっていく。


 そしてそれは、告げられた。



「……『非情なる粛清』が……放たれました……!」


「非情なる……粛清……だと……⁉」



 失われた古代の魔導兵器、現代においては、封印の解かれた大神にしか発動できないはずの、最凶の魔導攻撃。


 何故……非情なる粛清が────。その答えを求めるより先に、その絶大な破壊力を知るワーレイクは、戦慄する視線をレーダーへと向ける。

 前方を埋め尽くしていたはずの無命魔導機兵隊の機影は全て消え去り、ただひとつ、幻霊の機影だけが真っ直ぐ、自軍を目指して突き進んで来る。

 ワーレイクは叫んだ。



「全艦! 攻撃開始!」




───────────────────



「あああっ! びっくりした! びびびびっくりした! なになに!? 何したの今⁉」


「全部やっつけた! ここからがリサイリの出番よ!」


「え⁉ 出番⁉ 出番って⁉ 僕な……何したらいいの⁉」


「今の無命魔導機兵たちは人工知能で動いてるから人は乗ってない、だからやっつけてもいいけど、ほら、あそこに居る戦艦には人が沢山乗ってるから、あたしには攻撃出来ない」


「攻撃出来ないの⁉ じゃ……じゃあどうするの⁉」


「でもあっちは攻撃してくるの」


「そそそそうだよねそうだよね!? どうすんのじゃあ⁉ ど……どど……どうすんの!?」


「落ち着け!」


「落ち!? 落ち着! 落ち着く! 落ち着く!……ふぅ……ふぅ〜……」


「いいリサイリ? あたしたちはこいつらに構ってる暇は無いの、でも、大回りしてる時間は無い。だから、避けて飛び越えて、あっち側に居る一番でっかくて黒い奴を目指して!」


「さ!? 避けて飛び越えて!? 一番でっかい黒い奴って何!? ちょっと意味分かんないんだけど!?」


「あ! 撃ってくるよ! 避けて!」


「えぇっ!? うう撃ってくる!?……よよ避けるたってどうやっ……おぉおおわぁあああーーー!」



無命魔導機兵ってAIだったんですね! 命が無いから無命、それならみんなやっつけても大丈夫。でも、今度は艦隊が一斉に攻撃してきました! あわわ…どどどどうしよう…。そしてついに、リサイリが覚醒してしまいます!


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