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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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汝よ、知れ

 蒼い稲妻を迸る零式改更改が、七星麗鬼衆の前へゆっくりと降り立つ。


 全身を痺れさせる凄まじい魔力が、ヴァシシュタたちを圧倒する。



 ────これが……完全な状態の雷神……!



 燦爛する太陽によって影に包まれていた機体が、徐々にその姿を現す。

 それは、昨夜の雷神ではなかった。


 蒼炎を吐き出す巨大な翼、ゆらゆらと変幻しながら深い虹色に輝く美しい紋様、そして、それを映し出す鏡のように艶やかな純銀の機体。


 鋼鉄の宝石、凝縮された美の結晶────。エルゼクティア渾身の力作、零式改更改最終形態。その名も【汝よ、知れ。愛とは求める物に在らず、それは惜しみなく与える物〜幻想の果てに見た極限の慈愛】(エルゼクティア命名)が、乱れ散る花吹雪のホログラムと共にその全貌を明らかにする。



 ────ふふふ……よく見るが良い……これが本当のあたし……本当の零式……零式改更改最終形態【汝よ、知れ。愛とは求める物に在らず、それは惜しみなく与える物〜幻想の果てに見た極限の慈愛】の姿よ……!



 意識を取り戻し、デンシチたちから事情を聞いたエルゼクティアは、キシャルクティアとリサイリ、そしてシンディガーを連れ戻す為、直ぐに零式の修理に取り掛かった。

 その時、エルゼクティアは言った。



『いいかいお前たち! やっこさん千里眼持っていやがるから、こそこそ隠れたってみっともないだけなんだよ! いいからあたしの言う通りにしな!』


『いやでもね姐さん! それでも限度ってもんが……』


『お前たちだってさっき言ってたじゃないか! あたしには美しい零式が似合うって! 言っただろ!? ねえ!? そう言っただろ!?』



 デンシチたちは、どういう訳かめちゃくちゃ元気になったエルゼクティアの今までにない圧に押され、命令されるがまま全員総出で、第一回零式大改造大作戦(※エルゼクティア企画)に駆り出されたのだった。


 金縛りにあったように動きを止める七星麗鬼衆を見渡し、エルゼクティアは笑みを浮かべる。



 ────あたしが一番キレイ……勝った……!



 シンディガーたちの事が心配で、居ても立っても居られず飛び出して来たエルゼクティアだったが、遂に完成した理想の零式【汝よ、知れ。愛とは求める物に在らず〜※以下略】に驚愕する七星麗鬼衆を目にして調子に乗り、ついつい口が滑る。



「ウチの子たちと、『ウチの人』を、返してもらうよ……」


「……ウチの……人……!?」



 七星麗鬼衆、特に、シンディガー大ファンのプラハとヴァシシュタ、そして何故かシンディガーに懐いたマリーチは、震撼した。



 立っている事すら、ままならなかった。

 唐突に放たれ、胸に突き刺さった言葉が、毒となって心の中に溶けだし、全身に染み渡っていく。


 絶望が、心と身体を蝕む。

 気力も、体力も、身体を動かすはずの全ての力が、色褪せるようにして消え失せていく。


 プラハの瑠璃天音、マリーチの百蓮、そしてヴァシシュタの華雅が、糸の切れた操り人形の様に、その場に崩れ落ちた。



「お……おいお頭! プラハ!……マリーチも! 一体どうしたってんだ!?」


「何が!?……何が起こったっち!?」



 突然の出来事に困惑しながら、満天の星空を思わせるプラスティヤの夜藍と、漆黒の機体に黄金の花弁の散りばめられたアンギラスの黒蘭が、甲板に倒れる三機の魔導機に駆け寄る。


 理解を超えた異常事態に、先日のエルゼクティアによる奇襲攻撃【贖罪と祈り】の圧倒的な威力をその身をもって経験していたリトゥとアトリは、直感した。



「こ……これはまさか……!?」

「間違いない! 雷神に攻撃されたんだ! みんな気を付けて!」



 薄紫の機体を埋め尽くす紫檀の菫の描かれたリトゥの紫檀菫(したんすみれ)、真紅に咲き乱れる椿を全身に纏うアトリの紅椿(べにつばき)が、倒れたままのヴァシシュタたちを守るようにして、煌めきを放つエルゼクティアの零式最新バージョン【汝よ、知れ。愛とは求める物に在らず※以下略】の前に立ちはだかる。



「ここはあたしたちが抑える!」

「プラスティヤ! アンギラス! 三人を安全な所へ!」

「お頭! 動けるか!? お頭!」────まさか、ウチらの中で断トツに強いお頭が一瞬で……



 ────何をされたのか……全然分からなかったっち……これが雷神の力……!



 雷神による未知の攻撃によって七星麗鬼衆が混乱に陥る。

 恐怖が精神に絡み付き、僅かに保っていた戦意を、戦慄が塗り潰す。


 張り詰めた空気の中、弱り切ったヴァシシュタの声が聞こえた。



「……もうなんもやる気しない」


「……は?」



 その一言に、プラスティヤは耳を疑った。

 更に、プラハが続く。



「……あの時……お団子食べさせてさえいれば……」

 

「……何を……言ってるっちか……?」



 アトリの話では、雷神による昨夜の奇襲攻撃の際、魔導機が制御不能になると同時に、意識を失いそうになったと言う事だった。

 それを考慮すると、昨日と同じ様な攻撃によって魔導機が制御を失い、ヴァシシュタたちの精神が異常をきたしたのかと思われたが、それとは何かが違う気がした。


 その予想を、マリーチの一言が証明する。



「だから……わたくしの捕らえてきた蝉にも、わたくしのお腹をご覧に入れても、ご興味を示さなかったのですね……仕方の無い事です……お二人共! 潔く諦めましょう!」



 プラスティヤ、アンギラス、そしてリトゥとアトリは驚愕した。そしてようやく、事態を理解した。


 ヴァシシュタをはじめとするシンディガー大好き二人と一匹は、エルゼクティアの放った一言『ウチの人』と言う言葉を聞いて、シンディガーと雷神が()()()()()()である事を知り、絶望していたのだった。


 ヴァシシュタが恨めしそうに小言を吐く。



「プラハ……貴女が変なお団子さえ持って来なければ上手くいったのよ……」


「なっ!? それはこっちのセリフだよ! お頭がバラさなければお団子食べて貰えたのに!」


「お二人共、蝉でダメなんです。何をしても無駄ですわよ」


「いや……そりゃ蝉はダメだろうけどよ……」



 プラスティヤは呆れて、そう呟いた。

 それと同時に、シースーハリの声が七星麗鬼衆のもとに届く。



「皆の者、戦う必要は無い。ヴァシシュタよ、雷神をお迎えせよ。帝が直々にお会いになるそうじゃ」


「…………はーい……」


「……どうしたのじゃ?」


「ああ! なんでもないっち! なんでもないっちな!」



 全くやる気なく、ふてくされた返事をするヴァシシュタを、アンギラスが慌てて誤魔化す。シースーハリは「ふむ……そうか……?」とだけ言うと、エルゼクティアに告げた。



「雷神よ、争うつもりは無い。大賢者を交え、帝が話をしたいと仰せじゃ。その者たちが案内をしよう」


「えー……やだ……」


「こらお頭! 何言ってんだ全くもう! 子供じゃねえんだから! ほら!」



 エルゼクティアは七星麗鬼衆によって、不還一来へと迎えられた。



────────────────────



「お前さん!」


「エルゼ! 無事であったか!……うおっ!」



 夜御殿(よるのおとど)に放ったらかしにされていたシンディガーは、七星麗鬼衆に伴われて現れたエルゼクティアに思いっきり抱き着かれ、あたふた戸惑う。

 その様子を、ヴァシシュタとプラハがジト目で見守り、マリーチは猫手で少し強めに蝉を弾じく。蝉がジジジッと鳴く。



「お前さんも無事かい!? 良かった……本当に……」


「ああ、拙者も、そなたの子らも無事だ……無事ではあるが……」


「……どうしたんだい……?」



 シンディガーがその問いに答える前に、シースーハリがエルゼクティアに語り掛けた。



「雷神がかような美女であったとはな……間も無く帝が参られる、そなたの娘キシャルクティアと、リサイリを連れてな」


「ウチの子たちが迷惑をかけちまったみたいだけど、丁重に扱ってくれたみたいで、感謝するよ」



 ここへ来るまでの間、口を尖らせて一切話をしようとしないヴァシシュタに代わり、プラスティヤとアンギラスがこれ迄の経緯について、エルゼクティアに説明をしていた。


 リサイリとキシャルクティアが五十一式を操り、失われた古代の魔導攻撃【宿命の滅び】によって、帝国軍の無命魔導機兵隊を殲滅した事、そして、常軌を逸した速度で七星麗鬼衆を圧倒した事────。しかし当然、エルゼクティアにとってそれは、とても信じられる話では無かった。


 そんなはずない、そんな事絶対に有り得ない────。そう思いつつも、それを否定する材料は何一つ無かった。

 それどころか、キシャルクティアとリサイリが驚異の能力を発揮したという事実だけが、次々と証明されていく。

 エルゼクティアは、デンシチたちに見せられた映像を思い返す。


 あれは確かに、あたしのキシャルとリサイリだった……どうしてあの二人にそんな力が?────「ねえ……お前さん……?」


 エルゼクティアがシンディガーに尋ねようとした、その時だった。



「お母さん!」


「ああ! キシャル!」



 風呂上がりでほかほかのキシャルクティアが、エルゼクティアへ駆け寄る。その後ろにリサイリが続く。

 勢い良く飛び付いてきたキシャルクティアを抱き留め、透き通る青い瞳に涙を溢れさせて、エルゼクティアが声を震わせる。



「二人とも、みんなから聞いたよ……あたしたちを助けてくれたんだね……ありがとよ……」


「エルゼクティアさん……」



 感涙に言葉を詰まらせ、無言でキシャルクティアを抱きしめるエルゼクティアに、リサイリが申し訳なさそうに語り掛ける。



「心配をかけてしまってごめんなさい……」



 反省した面持ちで俯くリサイリを、エルゼクティアは強引に抱き寄せると「……ありがとう……リサイリ……」と、涙声で囁いた。



「良かった……良かったっちな……ううぅ……!」



 その光景に感極まったアンギラスが突然泣き出し、それに驚いたプラスティヤが「なっ!? アンギラスお前なに泣いてん……あ! お前飲んでんな!?」と、空になった【どぶろくシックス】の瓶を手に取って「全くいつの間に飲んでんだ……」と呆れる。


 その後ろではマリーチが壁で爪をガリガリ研いでいて、アトリとリトゥが「こらマリーチ!」「そこで爪といだら帝に怒られるよ!」と騒いでいる。


 プラハは自分で作った惚れ薬入り団子をやけ食いしていて、その横ではヴァシシュタが相変わらずのジト目でシンディガーを見つめている。


 シースーハリが、知らせる。



「雷神、そして大賢者よ、帝がおみえになった」



 その言葉と共に空気がすうっと、冷たくなる。

 御帳台の中に柔らかい光が集まり、徐々に形を成す。紫の帳がゆっくりと開いていく。


 空中を揺らめく半透明の羽衣と青藍の長い髪、金と銀、あらゆる原色によって彩られた荘厳な着物────。肘掛に身体を預け、ジュベラーリが姿を現す。



「……これが……女帝ジュベラーリ……」



 現実とは思えない神秘の存在、異次元の美に、エルゼクティアは息を飲んだ。

 ゆっくりと開かれた瞳が、憂いを湛える。ジュベラーリの艶美な唇が、言葉を紡ぐ。



「雷神よ……そなたに、知らせなければならぬ事がある……」



 

戦いにならなくて良かった! でもジュベラーリがエルゼに伝えたい事ってなんでしょう? もしかして、リサイリとキシャルクティアを返さないって言うつもりなのかな!? 実際この時点では、ジュベラーリはそう考えています。でも、エルゼの言葉を聞き、気持ちに変化が現れるのです……!



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