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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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最強の魔導騎士

「それはないそれはない! ぜったい絶対ゼッタイなーい!」



 キシャルクティアに全力で否定され、リサイリも負けじと反論する。



「本当だよ! 僕は絶対十五歳! なんか分かんないけど、これだけはすっごく譲れない気がする! 僕! 十五歳!」



 自分が十五歳であるという事を確信してはいるものの、それに対して異常に執着している自分を不思議に思い、十五歳だと主張しつつも若干微妙な表情で、ついつい首を傾げてしまっているリサイリの顔を覗き込み、キシャルクティアが目を細める。



「リサイリくん?……君はねぇ、どう見ても子供、十二か、十三歳くらいよ? 間違いなくあたしの方がお姉さんなんだから、あたしの事は『お姉さま』って呼んで!」


「やだよ! 何それお姉さまって⁉ 君は僕より一つ下なんだから、君が僕の事を『リサイリ兄さん』って呼んでよ!」


「断る!」


「はぁ⁉」


「ま……まあまあ二人とも、歳の一つや二つ、大した問題じゃあねえんだ……そう目くじら立てねえで仲良く……」



 二人の不毛な争いに痺れを切らし、呆れた様子でそこまで口を挟んだ叢雲だったが、次の瞬間、叢雲が思いもよらない言葉を発する。



「空⁉ 何だってまた……」


「……むーちゃん……どうしたの……?」



 突然発せられた叢雲のその言葉に、ただならぬ雰囲気を感じ取ったキシャルクティアがそう尋ねる。

 空気が瞬時に重くなる。



「ああ……そういう事か、こうしちゃあいられねえな……」



 誰かと話をしているのか独り言なのか、叢雲はそう呟くと「お嬢、それにリサイリ、その辺に掴まりな、ちょいと揺れるぜ……」と、付け加えた。


 その直後、激しい振動が二人を揺さぶり、窓の外に広がっていた暗い海底の景色が徐々に光を取り戻していく。

 群青から青、青から橙へと明るさを増しそして光は、揺らめくのを止めて真っすぐと、茜色の陽光となってリサイリたちを強く照らした。



「う……動いてる! ここはもう海の上⁉ でもどうして……⁉」



 眩く照り付ける夕陽、その輝きを幾重にも重なる波に煌めかせる海が眼下に広がる。

 広大な弧を描く水平線が、今まさに太陽を飲み込もうとしている。


 何か緊急事態が起きたんだ────。そう思いつつもリサイリは、目の前に広がる景色の美しさに目を盗られていた。



「リサイリ……」


「……え!?」



 さっきまで話していたキシャルクティアの声とは少し違う、しかし、明らかに聞き覚えのあるその声に、リサイリは振り向いた。

 その声を発したキシャルクティアが、リサイリを見つめている。


 目が、表情が、別人のように違う。


 あの明るい雰囲気は微塵も感じられず、その視線に何故か、リサイリは寒気を覚えた。



「キシャルクティア……だよね……?」



 見違える程に豹変したキシャルクティアに、リサイリはそう言った。



「そうよ、良いからこちらへ来て、リサイリ……」



 再び発せられたその声が、リサイリの体表を漣となって走り抜ける。



 ─────この声を、僕は知っている……でも、さっきまでのキシャルクティアじゃない……!



 恐怖にも似た違和感。知っていて、そして知らない何か。

 戸惑いが重い鎖となって、リサイリの心に絡みつく。



「さあ、早く」



 朧げな記憶に滲む不安に躊躇うその手を優しく掴み、キシャルクティアはリサイリと、走り出した。



 朱に染まる空へと浮かび上がる鋭角な三角形の物体から、夕陽を受けて黄金色に輝く海水が滝となって流れ落ちる。


 きらきらと輝く水のヴェールをなびかせ、『咲きにける雷』の要塞艦【揺蕩いし叢雲】が、波打つ海を後にして天空を目指す。


 白く艷やかな叢雲の表層がゆっくりと両開きに開かれると、水平線の向こうへ沈みかけていた夕陽が、鮮烈な朱色の光を、エルゼクティアを乗せる零式改更改に届けた。


 零式の翼が開き、蒼い炎を噴き出す。

 エルゼクティアが小さく、叫ぶ。



「発進」



 静かな轟音を響かせ、流星となった蒼炎が赤い空を切り裂く。

 零式が唯一機、大空を駆ける。



「発艦した。デンシチ、お前たちはそのままカーマンラインを目指して上昇。オーロラに隠れな」


「ああ分かった! 姐さん! 無理しねえでおくんなさいよ!」



 エルゼクティアが単機で出撃したのには訳があった。


 もし仮に、軍を出撃させて対抗すれば、或いは撃退出来たかも知れない。


 しかし、たとえそれで撃退出来たとしても、大規模な戦闘になれば、ダラジャトゥの軍に発見されてしまうのは目に見えていた。


 かと言って、揺蕩いし叢雲の速度で高速の魔導機から逃げ遂す事は不可能。


 咲きにける雷を、ミナセヤヒを守る為には、なんとしてもこの脅威を払いのけなければならない。


 方法は、あった。


 零式改更改に搭載されている超強力魔導兵器【贖罪と祈り】────


 一定範囲内にある全ての魔導機兵と人間を行動不能にするこの兵器は、同じく零式に搭載されている魔導兵器【嫣然たる裁き】とは比較にならない絶大な威力を持っていた。


 しかしそれは【嫣然たる裁き】の様に、味方以外を正確に判別して攻撃出来る訳では無い。


 範囲内にいる全ての魔導機と人間に作用する為、射程内に味方がいる状態では発動出来ない。


 この難局を乗り越えるには【贖罪と祈り】による殲滅、それに賭けるしかない────。そう考え、エルゼクティアは単機で出撃したのだった。


 ゴーグルモニターに映るレーダーチャートを、点滅しながら接近してくる無数の敵影が埋め尽くして行く。


 ウードメッサ帝国軍は、もう目前に迫っていた。



───────────────────



 千の無命魔導機兵が等間隔を保ちながら、一糸乱れぬ編隊飛行で(くれない)に焼ける大空を駆ける。


 その先頭を行く美しき七機の魔導機兵、ウードメッサ帝国軍の誇る最強の精鋭部隊【七星麗鬼衆(しちせいれいきしゅう)】は速度を落とした。



「ヴァシシュタより全機へ、目標方面から魔導体がひとつ、高速で接近中。フェニックスフォーメーションを組んで迎撃体勢を整えるわよ」



 涼やかに澄んだ女の声───七星麗鬼衆立衆頭(たちしゅうがしら)ヴァシシュタが、ゆっくりと瞼を開きながらそう言うと、同じく七星麗鬼衆のプラスティヤが笑う。



「あっはははっ! 何どうしたんだよお頭ぁ! レーダーには何も映ってないけど? それに、来てるって言っても、相手はたったの一機だろ? このまま行っちゃえば良いんじゃない!?」


「お姉ちゃんダメよ! お頭の言う事はちゃんと聞かなきゃ!」



 軽率なプラスティヤに彼女の妹プラハがそう言うと、もう一組の姉妹、リトゥとアトリが「そうだよプラスティヤ!」「お頭が何か来てるって言うんだから何か来てるのよ! 早く並んで!」と付け加えた。



「でもお頭? お相手の方は単機なのでしょう? そんなに警戒する必要があるのかしら……?」



 上品な口振りでマリーチがそう尋ねると「お頭がそう言ってるっち、何かあるっちな」と、アンギラスが口を挟む。



「確かに、レーダーには何も映っていない、それに私もまだ()()()()()()()()()()()()()、だけど、強い魔力を感じるの……今までに感じたことが無いくらい、壮絶なほどに強力な魔力を……」



『畏れ』が、ヴァシシュタのその言葉から伝わる。

 沈黙がその畏れを、肯定する。


 七星麗鬼衆の誰もが口を閉ざす中、また別の女の声が凛と、響いた。



「ヴァシシュタよ、神姫の元より何者かがそちらへ向かっておる、気付いておるか?」


「これはシースーハリ様! はい! レーダーには映っておりませんが、とても強い魔導体がひとつ、物凄い速さで向かって来ています!」


「やはりそうか……わたくしにもまだ()()()()……この尋常ならざる魔力、とても人の操る魔導機兵とは思えぬ……」



 シースーハリのその言葉に「まさか、大神じゃねえだろうな……」と、プラスティヤが不安げに呟くと、「そんなはずないよ、大神だったらレーダーに映るはずだもん」「流石にそこまで強くないでしょ?」と、リトゥとアトリが返した。



「何にせよ、得体の知れぬ相手じゃ、皆の者、心してかかれよ……」


「「了解」」

「「了解です」」

「「了解しました」」

「わかったっち」



 シースーハリとの通信が終わると太陽はもうすっかり姿を消していて、燃え立つ程に赤赤としていた夕空は光を忘れ夜へと向かう。


 海は漆黒を纏い、闇夜を目指す深藍の空に星がひとつ、輝きを始める。


 静寂の海と空。

 夕闇を滑る千の無命魔導機兵隊と、美しき七星麗鬼衆。


 ヴァシシュタが、絶叫した。



「六芒陣形! アストラルシールド最大出力! 急げ!」



 その声は、恐怖に震えていた。


 ただならぬヴァシシュタの様子に、七星麗鬼衆はかつて無い危機が迫っている事を悟る。


 極限の緊張が言葉を封じ、無言のまま行動を起こす。


 エシュロン隊形で飛行していた七機の魔導機は、ヴァシシュタの操縦する魔導機を中心に密集して円陣を組み、対魔導最高防御術式【退魔六芒星の陣】を発動。


 七星麗鬼衆の魔導機がすっと、透ける。


 その直後、ヴァシシュタの瞳に光が、映った。


 蒼い稲妻の迸る流星が真正面から、密集する七星麗鬼衆をかすめる。


 爆鳴────。


 一瞬全てが、蒼の光に飲み込まれすぐに、暗闇と静寂が戻される。


 そして、七星麗鬼衆の後方を飛行していた無命魔導機兵隊は一斉に、暗い海へと堕ちた。



「何が起きた!?」「みんな大丈夫!?」

「だめ! 制御不能!」「こっちも! 動けないよ!」

「落ち着け! 陣形を崩すな!」

「わっちに掴まるっち!」



 息が、鼓動が、平常を失い激しく乱れる。

 混乱に言葉を失いつつ、ヴァシシュタは必死に心を落ち着かせる。


 たった今目にした光景が鮮明に蘇り、寒気を伴うおぞましい恐怖が、心の底から湧き上がる。



 ─────なんなんだ……今のは……!?



 見えてこそいなかったものの、ヴァシシュタの千里眼は『それ』を捉えていた。


 しかしそれは遥か彼方にあり、接触にはまだ時間がかかるはずだった。



 ─────一瞬だけ出現して、そしてすぐに消えた……まるで霧が消えるみたいに……



 レーダーには今尚、何も映っていない。今この瞬間も、その姿は何処にも見えない。 


 ヴァシシュタは知った。



「お頭! 大丈夫かお頭!」

「リトゥとアトリの魔導機が機能停止しましたわ!」

「二人は今わっちが抱えてるっち! 今のは一体何だっち!?」



 騒然とする七星麗鬼衆にヴァシシュタが告げる。



「……雷神……人類史上最強の魔導騎士と謳われる、あれが……あれが【蒼き雷神】よ……!」



帝国軍に突如として襲いかかり、七星麗鬼衆を圧倒した蒼い稲妻を迸る流星って一体何者!? そう!『咲きにける雷』の守護神、最強の魔導騎士【蒼き雷神】として、エルゼはその名を知られていたのです!

たった一瞬で帝国軍に大ダメージを与えた渾身の一撃、あれこそがエルゼの切り札、超強力魔導兵器【贖罪と祈り】だったのですが、どうやらヴァシシュタをはじめとする七星麗鬼衆はその一撃を耐えたようです! 万全の状態ではないエルゼ、大丈夫でしょうか!?

そして、突然豹変したキシャル。でもリサイリは、その『声』に、何か感じたみたい! 再びリサイリの手を引いて走り出したキシャルですが、二人は一体何処へ向かったのでしょう!?



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