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賢者が恋した賢者の恋  作者: 北条ユキカゲ
第四章 バスタキヤ奇想曲 第一部 太古の空
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賭してさえ

 複雑に絡み合う枯木の枝で作られた台座に、ぼんやりと赤い光を放つ水晶玉が置かれている。


 次第に強さを増す光に顔を照らされながら、水晶玉の前に座る麗しき巫女、シースーハリはゆっくりと目を開いた。



「神姫が見え申した。このまま真っ直ぐ、真っ直ぐで御座いまする」



 仄かに灯る篝火に映し出される黒い部屋。その奥に設えられた荘厳な御帳台の帳の奥から、優美な威厳を漂わせる女の声がしんと、響く。



「この海のどこかに、神姫が居ると申すか。誰ぞ、匿っておるのであろうな」


「強い使命感と、深い愛に護られておりまする……」



 水晶玉を見つめてシースーハリはそう言うと、穏やかな笑みを浮かべながら僅かばかり顔を傾け「無闇に手を出されては、火傷をなさいますぞ?」と、背後の御帳台へ向けて静かに忠告する。



「さりとて、かような機会もそうはあるまい。大神が居らぬだけましというもの、虎穴に入らずんば何とやらじゃ……」



 御帳台の奥から声は和やかにそう言うと、ほんのひととき間をおいて凛と、声色を下げて続ける。

 


「千の無命機兵隊と、七星麗鬼衆を向かわせよ、神姫を妾の下へ連れて参るのじゃ」

 

「メインモニターにレーダーチャートを出しな!」



 エルゼクティアがそう言うと、部屋の正面を覆う巨大な窓の中央に、詳細なレーダー画像が映し出される。

 無数の光が点滅しながら、徐々に接近してくるのが分かる。

 

 

「なんてえ数だ……」



 モニターを見上げながら、デンシチが小さくそう呟く。他の兵士たちから湧き上がる響めきと重なる。

 ゴロウマルが計器を操作しながら、モニターに表示される文字を読み上げた。



「北北西距離七十六里、五町級戦艦十三隻に装甲巡洋艦八十二隻、それに潜水艦……とんでもねえ大軍だぁ……」


「姐さん、この大艦隊……間違ぇねえ、こりゃあれですな……」



 厳しい表情でそう言うデンシチにエルゼクティアは、感情を伴わない笑みに、僅かな恐れを滲ませて答えた。



「ああそうだねぇ……ウードメッサ帝国軍だ……!」



 アーリエン王国の北、国境となるブラシカ山脈によって隔てられた大国、ウードメッサ帝国。


 古の超常的な力を今尚受け継ぎ、独自の魔導によって発展するこの国は、長らくアーリエン王国とは国交の断たれた状態にあった。


 そんな中、もう一つのハルラート人国家、アーリエン王国の西に位置するザルーブ連邦共和国との緊張状態が続いていていたウードメッサ帝国は、クーデターによる混乱をきっかけに、アーリエン王国の覇権を取り合う形で、ザルーブ連邦共和国との対立を深めていた。



「ダラジャトゥだけでも手を焼いてるってぇのに、こいつはまた、面倒なのが出て来やしたねぇ……」


()()()()すっかり折り合いが悪くなっちまったからねぇ……あたしらが何を言ったところで、じゃあ仲直りってな訳には、行かないだろうねぇ……」



 エルゼクティアはそう言うと、鋭い視線で宙を刺す。



 ────それにしても、ウードメッサ帝国が一体ウチに何の用だってんだ……?



 この混乱した状況、帝国と連邦共和国が対立している今、その間で不安定な状態に陥っている王国を、国交の途絶えていた帝国が都合良く助けてくれるとはとても思えない。


 そしてもうひとつ、レーダーや通常の魔導探知では発見出来ないはずの揺蕩いし叢雲を、帝国は一体どうやって発見出来たのか? その事をエルゼクティアは不思議に思っていた。



 ────シンさんがここへ来て直ぐに大艦隊が押し寄せてきた、かと言って、シンさん程の御人が引き込み役なんてするはずがないし、そもそも国交の無いウードメッサ帝国とは接点などない、と言う事は……



 エルゼクティアは、ふと、その腕に抱くミナセヤヒに視線を向ける。


 無垢な笑顔を浮かべるミナセヤヒが、エルゼクティアを見つめ返している。



「神姫ミナセヤヒを求める者たちが居る」



 唐突に、シンディガーはそう言った。



「まさかこれ程早く発見されるとは、拙者も思っておらなんだ、ウードメッサ帝国の目的はまず間違いなく、ミナセヤヒであろう」


「なるほどね、そういう事か……」



 古の魔導を操るウードメッサ帝国であれば、強力な魔力を発する神槍【醒めたるは紅し雷】をその身に宿すミナセヤヒを探知出来ても、なんら不思議ではない。


 そしてそれ以外に、この場所を知り得る方法は考えられなかった。


 シンディガーの一言が、エルゼクティアの心に絡みついていた疑問を解いてゆく。


 クーデターに屈したとは言え、ルディヤナの娘であり、ミルディフの姪にあたるミナセヤヒにとっては、王都シャムアルジールに居る方が安全だったはず。


 それなのに何故国王であるサファディは、シンディガーに神姫ミナセヤヒを託し、シャムアルジールから遠退けたのか?


 エルゼクティアはひとつの確信に至り、シンディガーに問い掛けた。



「シンさん、叔父は、サファディ国王は、ミナセヤヒを軍事に利用されるのを恐れた……って事なのかい?」


「左様……」



 シンディガーは静かにそう答えると、エルゼクティアの腕からミナセヤヒを抱きかかえ、言葉を続ける。



「神槍【醒めたるは紅し雷】をその身に宿したミナセヤヒは、絶大な魔力を秘めている。ミルディフはその力を以て周辺諸国までをも制圧しようとしていた。ウードメッサ帝国も、何らかの術を以てそれを知り得たのであろう」


「それ程の力が、この子に……!?」



 生まれてすぐ、その波乱の運命に翻弄されるミナセヤヒを、憐れむような眼差しで見つめるエルゼクティアの後ろから、デンシチが訊ねた。



「だがよシンディガーの旦那、この赤ん坊を、一体どうやって軍事利用するって言うんですかい?」


「この子はな、言うなればそう……『鍵』なのだ」


「鍵……?」


「【醒めたるは紅し雷】は、それ自体に恐ろしい力を秘めておる、しかしミルディフは、この子を使って、より強大な力を……」



 シンディガーがそこまで言ったその時、レーダーチャートを睨んでいたハチベエが声を上げた。



「おいおいおいおい……なんじゃありゃあ……!?」


「どうしたって言うんだい!?」



 驚愕するハチベエの声で、全員がレーダーチャートを見上げる。

 ウードメッサ帝国軍の大艦隊から無数の敵影が放たれ、猛烈な速さで迫って来ている。



「……やべえでやんすよこりゃあ……!」



 ロクタロウはそう言いながら、震える人差し指で眼鏡を直す。

 緊急事態を告げるサイレンが響き渡り、赤い警告灯が点滅すると同時にエルゼクティアは声を上げた。



「叢雲! 緊急発進だ! 空を目指せ! デンシチ! あたし一人で出る! 危ないから誰も来させるんじゃないよ!」


「ひ……一人!?……姐さんちょっちょっちょちょっと待ってくれ! 零式はまだ完全じゃねえ! 今出すわけにはいかねえ!」



 デンシチはそう言って、部屋の出口へ向かうエルゼクティアを追いかける。


 零式改更改は無傷ではあるものの、大神との激しい戦いと、バスタキヤ遺跡でリサイリ保護した時に発動した瞬間転移魔法【霧と消ゆ】によって、その魔力を大きく消耗していた。


 エルゼクティアも当然それを理解していたが、引き止めようとするデンシチに「魔力はあたし自身で補う、そんな事より、お前もついて来るんじゃないよ!」と言って足を速める。



「エルゼ! 待て! 危険過ぎる! 拙者がこの子を連れて外へ出る! さすればあの者共は拙者を追ってこよう! その内に再び海底に身を潜めるのだ!」



 出口まで来ていたエルゼクティアは、シンディガーのその言葉に立ち止まると「ありがとうシンさん……」と振り返り、優しい眼差しで言葉を続ける。



「でもねシンさん、いくらシンさんでも、五十一式(ゴイチ)で逃げ切るのは無理……無茶させやしないよ……」



 エルゼクティアは分かっていた。


 旧型の魔導機五十一式(ゴイチ)で、ここ迄迫って来ている大軍から逃げ遂すのは不可能。


 実際、シンディガー自身もそれを理解していて、エルゼクティアたちを逃がす為に一か八か、ウードメッサ帝国軍に交渉を持ち掛ける覚悟でいたのだった。


 真意を見抜かれ言葉を無くすシンディガーに、エルゼクティアが告げる。



「あたしがあいつらを追っ払って来るから、貴方はここでこの子を、守っていておくれ……」


「エルゼ! 待て! 待つのだエルゼ!」



 エルゼクティアは振り返らない。


 窓の外に揺らめいていた光の筋は姿を消し、美しく煌めいていた蒼い海は闇に、沈んでいった。



古の魔導力を持つというウードメッサ帝国。その国の巫女シースーハリの能力が、エルゼの腕の中に居るミナセヤヒを発見したのです!そして、その国の高い地位にあると思われる何者かが、ミナセヤヒを狙っているようです!「あたしが追っ払う」と言って行ってしまうエルゼでしたが、たった一人で帝国の大軍勢にどうやって立ち向かうつもりなのでしょうか!?


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