先生って怖いですか?
運命の人がいるらしい。
とある占い師が言っていた。
相変わらず、世界全てが灰色に見えていた。とある夕暮れ。自分にとって朝日も夕日も、月も太陽も全てが、灰色で、何もかもに色を感じられなかった。
自分の人生に絶望していた。自分の人生を見限っていた。自分の人生を———諦めていた。
自分の人生はどこまで行っても袋小路。迷宮でもなんでもない。ただの出口のない一本道。逸れ様もない。迷いようもない。ただ行き止まりに向かって進み続けるだけの人生。
そんな自分に運命の人がいる?理解ができない。その人が男性なのか、女性なのか、はたまた人間ですらないのか。詳細はわからない。
———だけど、生きる理由になった。
その人が自分の人生を変えてくれるかもしれない。自分の人生を壊してくれるかもしれない。自分を救ってくれるかもしれない。
僅かな希望。儚い願い。
そんなの不可能なことは自分が一番理解している。
理解しているけど、期待してしまう。
———あぁ、どうか、何もかもを壊して欲しい。
これまでの自分の人生を、経験を、過去を、未来を、何もかも。
この日から僅かだけど、世界が色付き始めた。空、森、川、少しずつだけど自然に色が灯り始めた。
そして———あの日、世界に色が灯った。
———————————————————————–-—
「——スク、アスク、聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる。流石に任務の報告でボーッとはしねーよ」
「そうかしら?貴方、これまでもよく会議中に居眠りしてたわよね」
「よし!報告を進めてくれイリス!」
早朝。
学園のとある広場の一角で、イリスから今回の任務の調査報告を受けていた。
魔王ゼオンから内密に受けた人大陸への潜入任務。それは王都政府の動向を探ること。この任務は大陸間停戦協定の維持のためにも、迅速かつ正確に情報を掴む必要がある。
「入学試験の時、忙しそうにしてると思ってたら、こんなこと調べていたのか」
「そうよ。戦闘力じゃ貴方に敵わない分、情報収集で貢献しないといけないもの」
感心感心と頷きながら、イリスから手渡された資料に目を通す。
「王都で暗躍している組織か…」
「えぇ…王都中央政府の動向を探ろうとするたび、そいつらが出てくるようね。組織の名前も、誰が指揮しているのかも不明。分かっていることは———」
「全員の戦闘能力がズバ抜けて高いこと」
イリスは頷き、資料のとあるページを指差した。そのページには報告された組織の構成員が使用する代表的な魔法を記述されている。
「こりゃまた、ダーティーな魔法を使うんだな…幻影魔法に、死霊魔法、その上、起源魔法と刻印魔法と来たか」
一般的な魔法とされる炎や水の五大元素に加え、元素外魔法として、幻影や死霊魔法が存在する。その他にも特殊な条件や血筋で成立する魔法が存在している。
「誰がどの魔法を使うのかは特定されていないけど、以前潜入を試みた魔族達が、この魔法で退けられたのは間違いないわ」
「なるほどね」
魔法は基本的に法則が同じであるが、起源魔法や刻印魔法はその法則を度外視して行使される。これらの使い手が相手にいることを把握できることは、アスク達にとっても大きな強みとなる。
「んで、王都中央政府の動きはどうなんだ?」
イリスに指示され、次のページをめくる。そこには、王都政府の組織図と歴史の概略が記されている。
「現状、そこまで情報は入手できていないわ。分かっていることだけ説明するわね」
イリスの言葉に頷く。
「王都は、勇者の血筋の者が王座につくわ。そして、その下に10名の大臣を設置、分業し、この大陸を治めているの。そして、大陸間停戦協定など、法律関係を管理しているのが、この男———」
イリスが資料に記載された一人の顔写真を指差す。少し薄めの黒髪に、いかにも政治家っぽい顔つきの男。
「イージス・パリオット、この国の法務大臣よ」
「なるほど、この男が現状、最も黒ってことか」
アスクの言葉にイリスは頷き、こう続ける。
「しばらくはこの男の動向を探るわ。また何か分かったら連絡する」
イリスが指をならすと、二人が持っていた資料はたちまち燃え尽きてしまった。
———予鈴が学園に響く。
二人は立ち上がり、教室へと向かった。
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「実技の授業だって、アスクっ」
シャノンが嬉しそうに飛び跳ねている。
「実技って言っても何するんだろうな…。やっぱり魔法の基礎についてかな?」
アスクとシャノン、ライド、イリス達4人は校庭へと集まっていた。クラスメイト達も続々とやってきて、一塊りになっていく。
「実技ってことは…うげぇ…あの女教師かよ」
沙織・九条。アスク達の担任であり、実技授業の担当教員。アスクとは古い知り合いであり、何かと絡みづらい。
「そうだ、あの女教師だ。アレイスター」
背後から聴き慣れた声が鼓膜を揺らす。
「せ、先生っ」
シャノンを含めたクラスメイト全員、いつの間にか現れた沙織に驚く。
———そりゃそうだ。この女、100mくらいあった距離、一瞬で詰めてきたんだぞ…。どんな身体能力してんだ…。
呆れながら、振り向く。
「先生の授業ですか、わーい」
「気色悪い声を出すな」
音速の拳骨が飛んでくる。寸前のところで躱し、口角を上げる。
「へ、おせーよ」
アスクの生意気な態度に、明らかに不機嫌になる沙織。そして、その沙織を見て、震えるクラスメイト達。
「では———初回の実技の授業だ。模擬戦で見本を見せてもらおうか、アレイスター」
「へぇ、公開で俺をボコろうってか?逆に伸されても知らねーぞ」
「減らず口を」
二人口角を上げて、開けた場所まで歩く。
その様子を見た、ライドは震える声でイリスに耳打ちをする。
「あ、あの二人って、なんであそこまで仲悪いんだ?」
「昔からの知り合いなのよ。本気で殴り合う程度の」
その言葉を聞いて、シャノンがこう続けた。
「九条先生って、王都でも有名な魔法師だよね?確か———」
「えぇ———【冠位付与】って呼ばれる、付与魔法のプロフェッショナルよ」
「なんで、そんな人と殴り合う仲なんだよ…」
さぁ?と、惚けるイリス。しかし、イリスはこの二人の関係性をよく知っていた。
———魔大陸での戦いが、ちょうど1年前ね
お金に困って魔王からの任務に精を出していたアスク。その彼のいく先々で戦っていたのが彼女、沙織・九条だった。
以前から水面下で魔大陸と人大陸の戦いは行われており、その前線でぶつかり合っていたのがあの二人だ。
「さすがに先生の勝ちだろうなぁ。いくら、アスクが入試の実力試験満点と言っても」
ライドの言葉に続き、クラスメイト達もそれぞれの憶測を発言し合う。やはり沙織の勝利で下馬評は揺るがないようだ。
側から見れば、教師と生徒。この両者では勝つ方を予測するのは至って簡単だろう。
———以前は、アスクが勝ったんだけどね。
内心そう呟き、イリスは少し笑った。
「どうして、貴様がこの学園にいる」
「改めて魔法を学び直そうかと」
初めからそんな質問に答える気のないアスク。人大陸のましてや国王にすら接触できるほどの有名人である沙織に自分の任務を言えるはずもなかった。
———こいつの事だし、話せば協力するとは思うがな。
下手にこちら側に組みさせて、彼女の王都ないでの地位を揺らがせるわけにもいかない。
「この私より魔法について詳しいお前が今更、何を学ぼうというのだ」
「うーん、恋ってやつ?魔法って言うじゃん?」
「貴様のその態度、相変わらず私とは相性最悪のようだな」
「そりゃ嬉しい言葉だ!」
アスクの言葉にさらに不機嫌を募らせる沙織。
「貴様に意思疎通することを選択した私が馬鹿だった。貴様は人間の皮を被った魔人。すぐにこの手で消してやる」
「ようやくその気になったかよ。いいぜ、かかってこいよ。王都聖魔法騎士団長様っ」
アスクは地面を蹴り上げ、沙織へと疾走する。
「すぐにその魂胆吐き出させてやる。【無色の魔眼】」
———爆震。
校庭中央で巨大な衝撃波が発生する。校庭の窓ガラスを揺らし、校庭に出ている生徒達は衝撃に体を持って行かれそうになる。
「何がどうなって———」
「下手に喋らない方がいいよ!ライド君」
シャノンの助言に従い、ライドは慌てて口を閉じる。
「オラァ!」
「ハァッ!」
拳と拳が交差する。紙一重の攻防。
「相変わらずの馬鹿力だな……」
回避した拳によって発生した拳圧によって、校庭が抉られる。砂埃が舞い上がり、その一撃の凄まじさを物語っている。
「拳しか強化していないぞ?その程度で驚かれては困る」
明らかに強化魔法の域を逸した攻撃力の上昇。細身の彼女から繰り出されているとは思えないほどの、一撃必殺の攻撃に若干の冷や汗が出る。
「さすが【冠位付与】って呼ばれるだけあるな」
「ふ、褒めるな。さて準備運動も終わったところだ。そろそろ本気を出させてもらう」
彼女の周囲に数多の魔法陣が展開される。先ほどの拳だけでなく、全身が付与魔法独特の輝きを発する。
「なんだよ、そのエンチャントの数…」
付与魔法———。特定の箇所や物の能力の向上や、魔法を付与する術式を意味する。付与魔法師は、同時に付与できる魔法の数とその能力の上がり幅によって評価される。付与魔法師であれば、これらの制約が必ずしも存在し、魔法の同時更新、魔力量など様々な問題に直面する。
彼女が使用する独自の魔法【冠位付与】はこれらの制約を全て超えたとされる特殊な付与魔法だ。
「骨格、筋肉、血液、神経など人体の全ての構成要素に個別にエンチャントを施すって出鱈目にもほどがあるだろ」
突然、沙織の姿が消えた。本能に従い慌てて左方向に防御を固めると、次の瞬間、防御を上から壊すほどの衝撃が襲う。
間一髪防ぎきるが体が大きく吹き飛ばされる。なんとか、空中で体勢を立て直し、着地を試みる。このままでは間違いなくやられる、そうアスクは確信し、魔力を両目へと回す。
「そこまでっ!」
本腰を入れて戦い始めようとした矢先、沙織とアスク。二人の間を裂くように一つの魔法が駆け抜けた。
「イリス…」
「アイクシュテット…」
双方ともに身体中に駆け巡らせていた魔力を切り、戦闘体勢を解除する。
「こんなところで本気で戦われたら学校がめちゃくちゃになりますよ。先生も模擬戦のつもりだったんでしょう?」
イリスの視線に従ってクラスメイトに目を向けると、全員驚きで固まっている。
「確かに、一学生が教員とマジの殺し合いになったら大変だ。今回はここまでだな」
「そのようだな…しかし、アレイスター。貴様がなぜここにいるのか、近々白状してもらうからな」
「へいへい」
アスクは相変わらずの軽口を叩きながら、クラスメイトの元へと戻って行った。イリスもそれに続こうとすると———。
「アイクシュテット、貴様も魔族だな…?うまく姿を誤魔化しているようだが、私の目はごまかせると思うなよ。貴様らが何を企んでいようが、私がいる限りこの王都では好きにはさせん」
その言葉にイリスは何も返さなかった。
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