寮って楽しいですか?
「ここがエルメス寮か…」
学園指定の制服を身にまとい、目の前にそびえ立つ六階建ての建物を見上げる。
王立エルメス魔法学園の合格届が届いたアスクは、自分の荷物をまとめ寮へとやってきた。エルメス魔法学園は全寮制の学校であり、合格した学生たちは3年間親元を離れ、勉学へ精を出す。
「思っていた以上に綺麗な寮だな…」
魔王城下町でクレアと過ごしていた家は、格安で市場に投げ売られていた物を、買い叩いた物件だった。そのため、老朽化を通り越して、破損箇所が多すぎたため、常に隙間風が耐えなかった。
これからは綺麗な家に住めると思うと、浮き足立ってくる。
「新入生ですか?」
見上げていた視線を落とすと、一人の女性がアスクの元へ歩いてきた。
「そうなんですけど、俺が入る寮ってここで大丈夫ですかね?」
「えっと、合格届見せてくれる?」
年齢は30代くらいだろうか。目元の泣き黒子が印象的で、どこか儚さを覚える女性だった。
「あなたの寮はこことは違うよー。ついてきてね」
どこか間延びした話し方。おっとりした彼女の指示に従い後ろをついていく。先ほどの寮の後ろの雑木林に入り、さらに十分ほど進んでいく。初見だと確実に迷うことになりそうだと思い、道順の記憶をしておく。
———随分、変なところになるんだな…。
なんだか嫌な予感がすると思っていると。
「ここがあなたの寮、ライネス寮よ」
吹けば飛びそうな木造の建物。あちこちに修繕の跡が見られ、窓側は所々砕けている。先ほどのエルメス寮が城であれば、こっちは荒屋。まさに雲泥の差がある。
「こ、ここっすか…」
「えぇ。ようこそ、ライネス寮へ。私が寮母のマリアよ。よろしくね」
マリアはニッコリとアスクに笑いかるが、けアスクは引きつった顔で彼女の笑顔に答えることができなかった。
「ここがアスク君のお部屋。202号室よ。以前、入っていた子が綺麗好きだったから、ピッカピカよ!」
マリアにそう言われ、鍵を受け取ったアスクは、ライネス寮の中を見物しながら、自室へと向かった。
階段を登るだけで軋む階段。廊下を走ろう物ならあたりからホコリが舞い、下手すればそこが抜けて一回へと真っ逆さま。
「はぁ…とんでもない寮に入ることになったな…。ま、師匠と住んでいた家の方が隙間風も凄かったし、十分生活できる」
そう、自分に言い聞かして、自室の鍵を開けた。
「お、意外と綺麗だな…」
ベットと机が置かれただけの簡素な部屋。マリアの言うとおり、確かにこの寮の外観や廊下に比べたら綺麗な方かもしれない。
手荷物をベッドに放り投げ、自分のそれに続いてベッドへと飛び込んだ。
「そーいえばイリスはどの寮なんだろうな…」
合格発表を受け取ったイリスは自分の荷物を持ってくると言って、一度魔大陸へ帰った。
「あいつのことだろうし、さっきの綺麗な寮なんだろうな…」
少し羨ましさはあるが、こっちの方が自分の性に合っていると思うアスクであった。
———コンコンコンッ
扉がノックされた。ベッドから立ち上がり、扉を開ける。
「お、いたいた。俺は隣のライド!よろしくな!」
扉を開けた瞬間に、大きな声で自己紹介を始める燻んだオレンジ色の髪の少年。ライドと名乗った少年は、ズケズケとアスクの横を通り過ぎ、部屋へと入ってくる。
「おー、この部屋は俺の部屋とだいぶ違うんだな!んで、お前、名前はなんて言うんだ?」
「アスク・アレイスター、アスクって読んでくれ。お前は『勝手に人の部屋に入る無礼者』って名前だっけ?」
「ははっ、そうだぜ。根暗野郎。ライドってんだ覚えとけ」
お互い握手で硬い絆を表現する。互いに、一般的な握手より力強く握り合っているのは友情の現れかもしれない。
「新入りのお前に、先輩である俺がこの寮について説明してやるから、ついて来い!」
ライドは元気よくそう言うと、部屋を出ていく。
「おい、ライド。お前、いつ入寮したんだよ」
「1時間前」
これ以上言い合うのもアホらしいと思い、ライドについていく。ライドは寮を出ると、雑木林に入る手前で止まった。
「どうしたんだ、ライド?」
「……この森どうやったら抜けられるんだろう?」
「アホか。ほらついて来い。エルメス寮に行けばいいんだよな?」
アスクはライドの前を歩き、雑木林を進んでいく。この森の抜け方は来る時に覚えたばかりなので、スムーズに進んでいく。
「アスクすごいな…この道覚えてるのか?」
「一回、通った道は覚えられる」
森の歩き方は魔大陸でいやと言うほど叩き込まれたアスク。この程度の森なら、目瞑っても通り抜けられる。
しばらく歩くと、エルメス寮がみえてきた。
「よし、到着だ。どうして、俺をここに連れてきたかったんだ…?」
「ふふふ、その説明を———」
ライドは最後まで言い切らず、固まってしまった。口を開けたまま、一定方向に視線が固定されている。
「おい、ライド———」
「……リーナ様だ」
「あん?」
アスクの視線の先に、二人の学生がいる。一人は肩で切りそろえた金髪が特徴的な男子学生。そして———。
「リーナ・ローゼンクロイツ様だよ!八色の魔眼をもち、【無限色の魔眼】とも呼ばれる、俺たち世代の最強の魔法師だよっ」
ラクスは声を荒らげながら、そう捲し立てる。
腰まで届く綺麗な銀髪に、見る人を引きつける様な相貌。見た目とその立ち振る舞いから、ある種の神々しさを感じる。
「————そうか。大きくなったな…」
そう溢れた。5年ぶりの再会。魔大陸にいても、国境線を警備しているローゼンクロイツ家の噂は時々耳にしていた。しかし、妹である彼女の事は全く情報を回ってこなかった。
不安に思っていたアスクだったが、こうして、妹の成長した姿を見ると何とも言えない感情がこみ上げてきた。
「おい、アスク」
「帰るぞ、ライド。用事を思い出した」
———俺は死んだはずの人間だ。今更、アイツの前に現れる必要もない。
この5年間、どれだけ力を付けようとも妹であるリーナに接触しなかった理由はその一言に尽きる。
一目見て確信した。リーナには、俺は必要ない。そう思い、踵を返す。
「おい、そこの男子生徒二人」
「ギクっ…」
リーナの隣を歩いていた金髪の男子学生が二人を呼び止めた。
「その制服、見たところライネス寮の落ちこぼれだろ?なぜ、ここを歩いている。この敷地は選び抜かれたエルメス寮生のみ立ち入ることが許されている場所だぞ」
声の主は間違いなく、アスクの双子の弟であるテイクだと、アスクは確信していた。見覚えのある金髪に、釣り上がった目尻。嫌味な態度は間違いなく、彼のものだった。
「おい、ライド。ここは俺たち、入ったらダメだったのかよ…」
ライドを睨み、愚痴をこぼす。
「いや、ほら、チラッと見るくらいなら大丈夫かなと」
「おい、なぜ後ろを向いている。こちらを見ろ!私たちを誰だと思っている。公爵家の者だぞ!」
「いやー、あはっはっ!僕たちの様な醜い顔をお二人に見せるわけにはいきませんのでー」
「アスクっ…どうしてそんな誤魔化し…痛っ!?」
ライドの足を蹴って、とにかくここは合わせる様に伝える。アスクの必死さに何かを感じ取ったライドは鼻を摘む。
「隣の男のバカさがうつるといけませんのでー」
「貴様達、いつまでふざけている!こちらを向け!」
我慢の限界に達したテイクが魔法を発動した。高速の雷撃。一般の生徒であれば、確実に直撃は免れないであろう一撃。
———そう、一般の生徒であれば。
「なっ———私の魔法を」
テイクによって生み出された雷撃は、アスクによって容易く打ち消された。
「バカなライドがこれ以上にバカになったらどうするんだ」
「おい、アスクっ!」
「はは、ごめんごめん」
簡易的な魔法であったが、テイクはあれほどまで容易く打ち消される魔法を発動したつもりはなかった。
そして、それ以上に驚いたことは…。
「き、貴様、今、アスクと…」
テイクは震える声で、雷撃を打ち消した白髪の少年にそう尋ねた。
「よぉ、久しぶりだな。弟」
5年ぶりの兄弟の再会。驚愕に目を見開く弟と、その隣に、表情を微動だにさせない妹の姿があった。
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