入学試験って難しいですか?
「お、終わった…」
アスクが食堂で突っ伏していると、パンを持ったイリスが向かいの席に座った。
「えぇ、二重の意味で終わったわね…」
昼休憩。午前中は筆記試験が実施された。この二人が終わったと言っているのは筆記試験が終わったことと……。
「受かるかわかんねぇ…圧倒的合格を目指していたのに…」
いくら筆記試験と言われても、二人とも、学校の入試程度の魔法や歴史は押さえているつもりだった。
「まさか、人大陸の歴史があんなに出るなんて…」
「魔大陸の歴史なんて、少ししか出なかったぜ…そういえばここが人大陸の学校だったことを忘れていた…」
イリスが顔を上げて、モキュモキュとパンを食べ始める。
「でも、魔法の科目はありえないくらい簡単だったわ。人大陸の魔法が遅れているってのは本当だったのね」
「歴史の配分が低いことを祈るしかねーな。あとは———」
アスクとイリスの考えは同じだった。午後からの実力試験で高得点を出すしかない。実力試験の内容は、対象への魔法の発動だ。
「ここは気を取り直して、午後頑張るしかねーな。入学できなきゃ任務もクソもない」
「そうね、頑張りましょう」
「では、午後の実力試験を開始します」
スーツを着た試験監督がそう宣言した。
広大なグランドの一角で、試験が実力試験が開始された。
この王立エルメス魔法学園は人大陸にある魔法学園の中でも、トップに位置する学園である。そのため、毎年度の受験生は千人に届くと言われているが、合格者枠は200人程度。その倍率は凄まじく、最難関と言われている。
受験生は50人程度に区分され、それぞれのグループに試験官がつく。
「受験番号:856番、アスク・アレイスター」
「はい」
アスクの名前が呼ばれた。
彼が前に出ると、20mほど先に、いくつかの的が出現した。
「あなたが最も得意な魔法で、あの的に攻撃してください。的は決して壊れませんの、全力大丈夫ですよ。的が受けたダメージによって、点数が表示されます。満点は100点です」
試験官が試験内容についてそう説明すると、中空にウィンドウが表示され、点数が表示された。
「あいつ平民だぜ…平民が魔法なんて使えるのか、お手並み拝見といこうじゃないか」
俺の姿を見て、後ろから心ない声が聞こえる。
この人大陸では貴族出身の人間は服に家紋のバッジをつけるため、どこにいても貴族であることがわかる。その制度が余計に、貴族と平民の溝を深くしていることは言うまでもない。
「…なるほど、決して壊れない的ね」
そう言われ、師匠譲りの悪知恵が働く。
決して壊れない=壊すことができない=壊すと合格。と言う完璧な方程式が彼の頭で組み上がる。
「それじゃ、やるか」
魔力を活性化させる。目に魔力を集中させ、魔眼を起動する。魔眼の発動によって周囲にある魔力を全て視認できるようになる。
「魔眼っ!?」
「魔眼ってあのローゼンクロイツ家の力じゃないか!」
懐かしい名前が後ろから聞こえる。確かにアスクの実家は魔眼で有名だが、魔眼は血筋に関係なく、偶然発現するケースがほとんどだ。ローゼンクロイツ家のように後天的に魔眼を発現させる家系の方が特殊である。
魔眼で目標を視認する。
どうやら的には破壊できないように、幾重にも魔法がかけられているようだ。
———雑な魔法だな…。
魔大陸での過酷な修行の結果、アスクの魔眼には魔法陣を解析する能力が備わっていた。彼の魔眼の能力と、師匠から譲り受けた膨大な魔法に関する知識によって、対象の魔法を全て割り出していく。
———使用魔法は中級【ハイバリア】と上級【マジックキャンセル】の二つか。対魔法においては盤石の魔法だな。
しかし、彼の実力は魔力の視認と魔法陣の解析だけではない。
「【魔法解体】」
魔法陣の穴。どんな魔法も、どんな精巧な魔法陣にも必ず綻びが存在する。その魔法の急所と言える場所を瞬時に発見し、その場所に攻撃を加えることができる。
それが彼の最も得意とする【魔法解体】。
最小限の魔力の塊を的の数、生成する。魔法ですらない、魔力の塊。それを標的目掛けて、発射した。
空気を切り裂き、ほぼ視認不可能の攻撃。それらは、全ての的に構成された魔法を貫き、標的そのものを消しとばした。
———派手さはない。しかし、圧縮された火力によって的そのものが霧散してしまった。
「なっ———」
「んで、点数は何点すか?」
驚いた試験官は呆然としながら、震える声で点数を発表した。
「…【測定不能】、です。原則として、測定不能は100点とします…」
———歓声。
同じグループの受験生たちから、アスクへの称賛が発せられる。先ほどまで平民と蔑んでいた受験生も含め、全ての生徒が驚き、興奮している。
「すげぇ!あれが魔眼か!」
「俺、100点なんて初めて見たぜ!」
同い年の受験生たちがアスクに集まってくる。彼らもこんな点数を見てしまった以上、自分たちの試験をそっちのけで、アスクに興味が出たようだ。
「ちょっと君たち、そこを開けてください」
試験官の女性がアスクへと近づいてくる。
「アスク君、今の魔法はなんですか…?」
「普通に魔力飛ばしただけだけど…」
アスクとしてもここまで驚かれるとは思っていなかったのだ。百点満点のテストなら平均70点程度はずなのに。
「もしかしてアイツが【無限色の魔眼】なんじゃ!?」
「あの噂の!?でも、その噂って女って話じゃなかったか?」
「平均20点であるこのテストで、100点は私も初めて見ました…。学長には私が進言しておきますので、結果は期待しておいてください」
なんだか目立ってしまったが、彼としては合格するのならオールオッケー。歴史の遅れを取り戻したと上機嫌になりながら、受験生たちの列へと戻った。
「とまぁ、そんな感じで、合格できたっぽい」
「すごいよ、アスク!僕のグループでも100点を出した人がいるって騒ぎになったよ。アスクのことだったんだね」
帰り道。試験が全て終わり、シャノンと待ち合わせして家路についていた。イリスはまた何かやることがあると言って、先に帰ったので、今は二人だけである。
「シャノンはどうだったんだ?合格できそうか?」
「うん!筆記試験がすごくうまくいったんだ。それに実力試験も40点だったし」
「ほー、そりゃすごい。俺なんて歴史ダメダメでさ。また今度教えてくれよ」
「ふぇ!?」
なにやら素っ頓狂な声をあげたシャノン。少し顔は紅潮している。
「人大陸の歴史が苦手でさー。勇者の話とか、王都の話とか聞かせてくれよ」
「も、もちろん!」
ご機嫌なシャノンを見て、首を傾げるアスク。ま、女の子はご機嫌が一番だなと思い直し、深く考えることをやめた。
「あ、そうだ。別のグループでも満点が二人出たらしいよ。すごいよね今年。歴代で出たことのなかった満点が三人もだよ」
「そりゃすごい」
そのうち一人は確実にイリスであることを察知したアスクは、とりあえず驚くふりをしておいた。
「むー。アスクってば全然驚いてない…もしかして知り合いとかじゃないの」
———なんでわかるんだよっ!?
シャノンの勘の鋭さに驚愕しつつ、隠す必要もないので、白状することにした。
「…そのうち一人はイリスっていう、俺の知り合いだ」
「イリス、さんって、もしかして今日食堂で一緒に食べていた人?」
「なんだ、見てたのか。そうそう」
シャノンは何かを考え込むと、
「も、もしかして、アスクの、か、彼女さんとか…?」
シャノンの言葉に思わず、アスクは吹き出してしまう。
「あはは、んなわけない。あいつはただの腐れ縁さ。縁あって、たまたま一緒に受験しただけ」
「そうなんだ…よかった…」
「ん…?何か言ったか?」
なんでもないと、シャノンは慌てて首を振った。
気がつくと、宿屋に戻る曲がり角についていた。
「んじゃ俺はこっちだわ。またなシャノン。お互い受かってたら、よろしくな」
「うんっ!」
そう言って、互いに1週間後の合格発表への期待でいっぱいにしながら帰路に着いた。
そして1週間後、アスクのもとに合格通知が届いた。
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