同級生ってどうですか?
————ピピピッ、ピピピッ
「———んぁ」
布団から這い出て目覚まし時計を止める。
「ふあーねみぃ…久々にこんな早くに起きた……あぁそうか、今日は試験の日か」
目覚まし時計を見ると、時刻は8時過ぎ。本日、朝10時から王立エルメス魔法学園の入学試験が実施される。
彼、アスク・アレイスターは魔王から言い渡された任務により、人大陸中央にある王都のとある宿に宿泊していた。
「しっかし、目覚まし時計って便利なもの発明したよなぁ」
しみじみと自分を起こした時計を眺める。
この目覚まし時計は近年、魔大陸で開発された時計である。魔力で動き、指定の時間に音が鳴る仕組みで、朝の強い味方だ。
「早く起きなさいアスク!」
扉が蹴破られる。
「もっとおしとやかに起こせないのか、イリス」
魔王ゼオンと同じ輝くような金髪に、深い蒼の碧眼。そして、いかにも高飛車なその相貌。黙っていれば可愛いのにと、常々思うアスクである。
「一時間前からあなたを起こしているのよ!起こしてあげてるだけ感謝しなさい!」
朝からキーキーとうるさい女だなぁと思い、横で騒いでいるイリスと無視して着替え始める。
「な、ど、ど、どうして着替えるのよ!」
「いや、着替えないと外出できないだろ」
「う、うるさいわね!は、肌を見せ合うのは、け、結婚してからじゃないとダメ!」
顔を真っ赤にして出て行った。
「ほんと、あいつウブだよなぁ…。次、下脱いだらどんな顔するか試してみるか」
パンツの中を覗き、この5年間で成長したもう一人の自分を見る。
「ふむ…今日も悪くない」
なぜかアスクは納得すると、手早く着替えを済ませて、宿の食堂へと降りた。
イリス・フォン・アイクシュテット。魔王であるゼオン・フォン・アイクシュテットの妹である。魔大陸で生活し始めたアスクに初めてできた友達であり、腐れ縁でもある。
側から見れば、明らかにアスクに恋慕の念を抱いているが、両人ともにその感情に気がついていないせいで、周囲の苦笑いが絶えない関係性である。
「イリス、お前も試験受けるんだっけ?」
「えぇ、私も1/4は人間の血だもの。上手く魔法で姿を誤魔化せば、入学できると思うわ」
ゼオンとイリスは腹違いの兄妹であり、父親が前魔王である。しかし、イリスの母親は人間と魔族のハーフであり、そのことを後ろめたく思ったイリスの母親は幼いイリスと共に魔大陸の辺境で暮らしていた。
とある事件をきっかけに、アスクと出会い、その後魔王城下で暮らし始めることになった。
「ほうかほうか…モキュモキュ」
口いっぱいに食べ物を詰め込み、尋常ではないスピードでアスクが朝食を食べていく。
「あなた、もう少しゆっくり食べられないの…?」
「食える時食っておくんだ!いつ師匠が金使って、飯に困るかわからないからな」
アスクの不憫さにイリスも頭を抱える。
「それはそうと、アスク、今回の任務について理解しているのよね?」
「あぁ、昨日手紙を読んだ。まさかゼオンさんと師匠がグルになって、俺をここに送り込むなんて思ってもみなかった…」
確かに、あの手以外で普通に依頼されていたら断っていたからなぁ、と自分を鑑みるアスク。幼い頃に人大陸を追放されて以来、アスクはどんな任務であっても人大陸への派遣は拒否していた。
「確かに私も意外だったわ。今回の任務は、人間側の動きの調査よ。王都の心臓部にある王立エルメス魔法学園に潜入して、人間側の大陸間停戦協定に関する同行を探るわ」
アスクとしては、大陸間停戦協定なんてどうでもいいと言えば、どうでもいい。しかし高い給料と、魔王城下街の人々に被害が及ぶなら、この任務も遂行する意味があると考えていた。
「おーけい。その前には入学しねーと始まらねえよな。いっちょやってやるか」
大量にあった朝食を全てたいらげ、ぺろっと唇を舐める。
「俺は街ぶらつきながら試験会場向かうけど、イリスはどうする?」
「私は、少しやることがあるから先に向かっててちょうだい」
「りょーかい」
食堂でイリスと分かれ、アスクは街へと繰り出した。
時刻は9時前。
すでに街は活気に溢れている。あちこちから露天商が通行人に声をかけ、屋台からいい匂いが漂ってくる。王都の街は魔王城下に引けをとらないほど、賑わっている。
魔人の繁殖能力はそこまで高くないため、巨大な魔大陸を見渡しても魔人の人口は多くない。しかし、人間は魔人よりも寿命が短いため、繁殖能力に優れており、人口は魔人の数倍はあると言われている。
確かに王都にいる人間の数は魔王城よりもかなりの数がいるなと、感心していると、目の前に城が見えてきた。
「あれが、聖王城…」
かつての勇者の一族がこの地に根差し、都市を作り上げた。その都市が今の王都の原型になっていると言われている。そして勇者の一族の居城が聖王城。その聖王城の隣に王立エルメス魔法学園がある。
通りを抜けると、エルメス魔法学園に到着した。
白亜の校舎に、巨大なグラウンド。アスクと同世代の学生が多く、敷地内へと入っていく。
「ん?」
何やら、前方で騒いでいる輩がいる。本来なら無視するのが正解だが、はちゃめちゃな師匠の元で5年間も修行し続けた結果、アスクの思考回路に「面倒ごとには首を突っ込め」という言葉が刻み込まれていた。
「おい、平民が格式高い王立エルメス魔法学園の試験を受けるとはどう言うことだ!」
首元に家紋のようなバッチをつけた複数人の男子が、女の子を囲っていた。
「だ、だって、ここの学園は身分の関係ない———」
「うるさい!それはお優しい勇者様が貴様ら平民共に施しを与えたに過ぎないのだ、なぜそれが建前と言うことがわからん!」
おそらくグループのリーダーであろう男子の平手打ちが女の子へと飛ぶ。
「おい、女の顔に手を出すってことは、お前らも覚悟はできてんだろうな…?」
平手打ちが女の子に当たる前に、アスクがその手を制す。
「き、貴様、どこから!?」
「うっせ、貴族だが、平民だが、何が違うんだ。同じように飯食って、クソして、寝てるだけだろうが」
「き、貴様っ…」
「生まれなんて関係ない。強い奴が一番偉いんだよ」
魔眼の発動によってアスクの瞳が黒から浅い蒼へと変容する。適度に殺気を発して脅すと、男の子は感じたことのない得体の知れない恐怖を感じ尻餅をついてしまった。
「ルーク様っ!」
倒れた男に取り巻きが集まってくる。
これで一安心だろう思い、女の子の手をとって、校舎へと向かう。しばらく女の子の手を引いていると、彼女は立ち止まり深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました!あのままじゃ試験に受けれないところでした」
「あー、気にすんな。弱いくせに調子乗ってる奴が鼻についただけだ」
魔族に身分は関係ない。と言うか、実力に身分がついてくると言う方が適切だろう。強い奴は偉くなるし、弱い奴は格式が下がる。その感覚で生きてきたアスクにとってあの少年は気に食わなかったようだ。
「僕はシャノン。平民だから苗字はないから、シャノンって呼んで欲しいな」
これが僕っこって奴か…と謎の衝撃を受けるアスク。
「俺の名前はアスク。貴族じゃねーが、アレイスターって苗字がある」
「アスク・アレイスター君…これからよろしくねっ!あ、僕はこっちだ、試験終わったらここで待ってるね。一緒に帰ろ!」
シャノンはそう言うと、元気に別校舎へと走って行った。
「これが、スクールライフ…」
自分は縁もゆかりもないと思っていた、同世代の友達との帰宅…。自堕落な師匠、魔王から降りかかる任務、毎日のように討伐する魔物。かつてアスクが憧れたスクールライフがここにはあった。
「絶対受かってやるぜ…王立エルメス魔法学園。全力で受けてやる。目指すは圧倒的合格だ!」
拳を天高く突き上げ、試験会場へと向かった。
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