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魔法学園って楽しいですか?

「きゃぁぁぁあッ!!」


 魔大陸。そこは魔物と魔族が巣食う魔の大陸。魔大陸のとある森で、小さな魔族の女の子が、巨大なカマキリのような魔物に襲われていた。


 さしもの魔族といえど、まだ年はもいかない女の子だ。一人で目の前の魔物を討伐するのは困難だ。


「キシャァ」


 カマキリの魔物は怯える少女を見て、どこか満足げだ。


 近年、この森で魔物が乱獲されていることも、この魔物も感じ取っていた。魔族や人族を怯えさせ捕食することが魔物の何よりの喜びであるが、その魔物のに怯えず、あまつさえ大量に討伐する輩がいると言うのだ。


 本来はこのように我々魔物に怯えるべきなのだ。と魔物が考えていると、視界の端に何かが映り込んだ。


「なに、女の子泣かしてんだ。くそカマキリ」


 女の子と魔物の間に立つと、そう悪態をついた。燻んだ白色の髪に、黒色の(なまこ)を持った青年。身長は175cm程度、そして服の上から作り込まれた体が僅かに見て取れる。


「ちょっとカマキリ退治してくっから、ここで待っててな」


「…うん」


 女の子の頭をポンっと撫でると、魔物を見据える。


 次の瞬間———青年から、濃密な殺気が溢れ出す。その殺気は女の子へは一切向かず、純粋に魔物だけに突き刺さる。


 その殺気で魔物は気がついた。どちらが捕食者で、どちらが獲物なのか。


 気がついた魔物の動きは早かった。反転し、脱兎の如く駆け出す。自分が出会った男は明らかに自分を超えた存在であり、戦ったら最後、自分の命は———。


「逃すかよ、バーカ」


 一瞬だった。ほんの瞬きの間に、魔物の頭は胴体から離れ、地面に落ちた。頭と胴体が離れたことに胴体が気がつかず、少し歩行を進める。そして、倒れ込み、魔力へと転換され霧散した。


「おっし、掃除終わり!一緒に帰ろっか」


「ありがとう、白髪(しらが)のお兄ちゃん!」


「次、白髪しらがって言ったら置いてくぞ…」


 項垂れながらそう呟いた青年を見て、女の子は嬉しそうに彼に抱きついた。そのまま女の子を抱き抱えると、凄まじい勢いで森を抜けていった。







「ただいま〜」


 女の子を家まで送り、白髪の青年は自宅に到着した。年季の入った一軒家。所々窓が割れており、テープで補修した後が目立つ。


 青年が家に入ると、むせ返るような酒の匂いが鼻腔を刺激した。


「くそっ、またかよ!」


 何かに気がついたようにリビングに急ぐと、そこには———。大量の空き缶と殻瓶が転がっており、一人の女性が机に突っ伏して眠っていた。


 ゴミを端に追いやりながら女性の元へと近づくと、乱雑に女性を揺さぶり、文字通り叩き起こす。


「ンァ…なんだアスクか」


「師匠、またこんなに酒飲んでっ!あれほど、酒は飲むなと……まさか!」


 彼は何かに気がつくと、師匠であるクレアを乱暴に地面に放り投げると、胸元を弄る。


「あは、あはは。なにするんだアスクぅ」


 くすぐったいのか、ご機嫌に夢の中で笑うクレア。そんなクレアを軽蔑した眼差しで見るアスク。この状況が二人の師弟関係を如実に表していた。


 財布から出てきた大量のチップとの交換明細と、そして、パン一個も買えない程度の現金。


「またあんたはギャンブル行ってきたのか!どれだけ我が家の家計を圧迫すれば気がすむんだ!!!!」


 乱暴にクレアの胸ぐらを掴み、激しく揺さぶる。


「あぁ〜揺さぶるなぁアスクぅ…ふ、二日酔いが…」


 そう呟くと、クレアはフラフラと立ち上がり、おぼつかない足取りでトイレへと歩いて行った。


 クレアの後ろ姿を見て、アスクは頭を抱える。


「最悪だ…本当に最悪だ。また今月ピンチだ…、ようやく給料入って家賃も光熱費も払えると思ったのに…師匠のあの様子じゃ、有り金全部擦ってきたに違いない」


 クレアの習性として、ギャンブルに大負けした日は、今日のように大量の酒を買い込んで一人で泥酔する。ただでさえ失ったお金を、酒に変えてさらに失う悪癖。


「こうなったらゼオンさんのところに行って、直接仕事をもらうしかない。このままじゃ我が家は火の車だ。師匠と一緒に身包み剥がされて、露頭に迷うことになるぞ…」


 とにかく。思い立ったら吉日と、アスクはコートを羽織り、魔王城へと向かった。





「あ、アスクの兄ちゃんだー」


「西の森の魔物討伐ありがとよ」


「またご飯食べにおいでー」


 魔王城下街を歩いていると、町中の魔族が彼に話しかける。


 アスクが魔王城下街にやって来てから、五年が経過した。五年で変わったのは彼の背丈だけでなく、このような周囲の人々にも彼は受け入れられていた。


 ちなみに先ほどの西の森の魔物討伐は師匠であるクレアの借金返済の代わりに、出してもらった代案だ。


 街の人たちと話しながら歩いていると、いつの間にか魔王城へと到着した。


「お、アスクじゃないか。今日も魔王様に用か?」


 魔王城の門番とアスクはこの5年間で何度も会っており、二人で昼ごはんを食べる程度には仲が良かった。


「そうなんだよ。師匠がまたお金使ったせいで、魔王様から直接依頼をもらおうかなと」


「はは、お前も大変だねぇ。ほら、さっさと通りな。俺も暇じゃねえんだ」


 感謝を述べ、魔王城に入った。


「やぁ、アスク」


「ご無沙汰してます。魔王様」


 この城の主人であり、魔大陸の王である魔王を前に、アスクは片膝を付き、頭を下げる。


「今は、そんな堅苦しくなくていいよ。今は誰もいないし、どうせここに来たってことは、クレア様の案件でしょ?」


「んじゃ遠慮なく」


 そう呟き、立ち上がる。魔王であるゼオンはアスクの兄弟子にあたるため、クレアの修行から逃げ出した時、よくゼオンのもとに匿ってもらっていた。お互いにあの師匠に苦労させられた同士でもあり、被害者でもある。


「そうなんだよ。師匠め…せっかく俺が溜めていた家賃用の金も全部、ギャンブルで溶かしてさ」


「やっぱりあの人は…昨日、ここに来た時にアスクを困らせないように、ちゃんと諌めたんだけどね…」


 二人でため息をつく。クレアが他人に言われたことを素直に受け入れるわけがないと二人とも知っているのだ。


「でも、クレア様悲しがっていたよ」


「?」


 アスクには、クレアが悲しむことと言えば、ギャンブルに負けた時か、好きな酒が売り切れだった時しか思いつかない。


「この5年間で、純粋無垢だったアスクがこんなにも擦れてしまったことにさ」


「へっ」


 この5年間、クレアの元で修行を続けたアスクの性格は大いに変化していた。と言うか、無垢だったからこそ、ここまで変化したとも捉えられる…。


「あの師匠の元で生活していたら、明日の飯だって安定しないんだ。そりゃ守銭奴にもなるし、荒っぽくにもなるよ」


「そんなもんなのかなぁ」


 ゼオンは笑いながら、首を傾げた。


「でさ、ゼオンさん。家賃を払うために、何か仕事ない?魔物の討伐でもなんでもするよ」


 この5年間でアスクは強くなった。たいていの魔物程度なら彼の相手にすらならない。


「それなら、ちょうどいい任務があるよ」


 さっすがゼオンさん!と上機嫌なアスクに、ゼオンはどこからか出した小銭袋を渡した。アスクが袋を開けると、中から見慣れないコインが出て来た。


「これは、人大陸の通貨…?」


 アスクが不思議そうな顔をしていると、ゼオンは居住まいを正して、アスクにこう命じた。


「アスク、人族の魔法学園に潜入してくるのだ!」


 理解不能な任務に、一瞬、頭がショートしそうになる。しかし、この5年間で様々な修羅場を潜り抜けたアスクは、すぐに思考回路を切替、大切な交渉に乗り出す。


「魔王様、その任務はどれほどの給金でしょうか…?」


 ゼオンに手招きされ、彼の口元に耳を持っていく。


「ゴニョゴニョ」


 提示された金額と条件に目を見開き、慌てて飛び退く。


「今すぐ行って来ます!!」


 そうと決まれば、出立の準備だと、アスクは魔王城を飛び出して行った。




「馬鹿弟子を上手く言いくるめたようだな」


 ゼオンの背後からクレアが現れた。


「あなたには負けますよ。まさかあんな方法で彼をここまで自然に連れてくるなんてね」


 二人して黒い笑みを浮かべる。


「方法はどうであれ、この任務はあいつの動き次第ということはわかっているな?」


「えぇ、大陸間不干渉協定を破ろうとしている人族の動き。それを内部から監視するにはアスクほどの適任は存在しません」


 この世界には【人大陸・魔大陸・精大陸・獣大陸】の四つの大陸が存在している。この四大陸は古くから存在する大陸間不干渉協定によって、平和が築かれていた。


 しかし、近年、人大陸で不穏な動きが確認されており、急遽調査する必要があったのだ。


「ところでアスクの戦闘力については、どうなんですか?」


「ふん。愚問だな。かなりの仕上がり具合だ。この魔大陸でも5本の指に入る程度には強くしてやったわ」


 クレアは満足げに鼻をならす。


「あやつの人大陸での生活はどうするんだ?」


「大丈夫です。私の妹を同伴させますので」


「ほぅ。あのじゃじゃ馬をか…。面白いことになりそうだな」


 二人は黒い笑い声が魔王城に響きわたった。



「はっくしゅ!…誰か俺の噂でもしてんのかね」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


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