魔王って怖いですか?
「ここが魔王城…」
アスクは目の前にそびえ立つ巨大な城を見上げ、固唾を飲む。以前、父親に付いて王都へ向かった際に王城を見たが、目の前の魔王城はそれ以上に巨大であるうえに、如何にも魔族の王というだけの物々しさを感じさせる外観だった。
「なにを呆けているんだ。さっさと行くぞ」
クレアは一人でズンズンと進んでいく。すると、魔王城に入るための門が見えてきた。門には屯所があり、兵士たちが魔王城を警備している。
「なんだ、貴様はっ!」
兵隊たちを無視して魔王城へ入ろうとしたクレア。それを複数人の兵隊が差し押さえた。手にや槍を持った兵士たちがクレアを囲い込む。
「貴様たちに話してもラチがあかん。さっさとゼオンを呼べ」
「魔王様を呼び捨てにっ!貴様、そこに直れ!今すぐ所属を———」
一人の兵士がそう言いかけると、クレアは兵士を押し除け、門に触れた。
そして、————門が持ち上がっていく。
比喩ではない。クレアが片手を用いて、魔王城の門を自力で、地面から引き揚げていく。地面に亀裂が走り、屯所も崩壊していく。
「き、貴様———いったいっ!?」
あまりもの力に腰を抜かす兵士たちを尻目に、クレアはアスクを呼び寄せた。こんな状況でも弟子を気遣う心遣いはあるようだ。
「———あそこか」
クレアの視線の先に、巨大な魔力があることをアスクは見えていた。この城で最もあの場所に魔力が集まっている。どうやらあの場所に魔王がいるようだ。
その場所目掛けて、クレアは門を投擲した。
全長三十メートルはあろう門は、クレアの怪力により、まるでボールのように標的目掛けて一直線で飛んでいき、そして———。
魔王がいたであろう場所に直撃した。巨大な振動が周囲に響き、魔王城に巨大な風穴があいた。
「アスク、いくぞ」
クレアはアスクの首根っこを掴むと、門をぶっ刺した場所目掛けて跳躍した。
アスクの臓器に強烈な浮遊感が襲いかかる。
「うっ…きもぢ悪い…」
魔王城の目当ての場所に到着すると、クレアはアスクを放り投げた。吐きそうになりながら、なんとか立ち上がると、目の前に巨大な魔力の塊があった。
「今は魔眼を切っておけ、そいつの魔力を直視すると目がやられるぞ」
———魔眼ってどうやったら切れるんだっ!?
なんとか目の前の魔力の塊から目をそらし、魔力視認の力を切る方法を模索する。そんなアスクを無視して、クレアは目の前の存在に笑みを浮かべる。
「久しぶりだね。魔王」
「やはり、貴方でしたか。城下町に見知った魔力を感じていましたので、なんとなくは察知していました」
魔王の言葉に嬉しそうに鼻をならすクレア。
「このような入城方法はお止め下さいと、以前もお伝えしたはずです」
「堅いこというんじゃないよ。アンタ魔王だろ?このくらいすぐ直せるじゃないか」
「民が驚くのです」
その魔王の言葉に、嬉しそうに笑みを浮かべると、
「しっかり魔王をやっているようで安心したよ、ゼオン」
「えぇ、お久しぶりです。クレア様、いや、師匠とお呼びした方が良いですか?」
フードを脱ぎさり、魔王の相貌が明らかとなった。輝くような金髪に、深い蒼の碧眼。体から発せられる荒々しい魔力とは真逆の優しい笑みが浮かんでいる。
「新しい弟子を見つけたからね。もうお前は弟子卒業だ。ほら、こいつがアンタの弟弟子だ」
魔眼の操作に四苦八苦するアスクの首根っこを掴み、魔王ゼオンに見せる。
「魔眼の操作は、体内の魔力を意識するといい。目に集中している魔力を切るイメージだ」
優しい声でそう指導され、言われた通りに、アスクは魔力を操作する。すると、自然に視界が晴れ、魔王の姿を視認できた。
「君も厄介な人に目を付けられたね。私もこの人に苦労させられたんだ。君も苦労するよ」
魔王は何かを思い出すように、苦笑いを浮かべた。
「ゼオン、こいつはお前と同じ【無色の魔眼】でね。私が直々に育てることにしたのさ」
「人間で【無色の魔眼】の発現者ですか…。確かに妙ですね」
———早くおろして…い、息が…。
二人でなにやら考え始めたが、アスクはクレアに首根っこを捕まえれ、絶賛宙吊り中。頑張って暴れてみるが、門を投げ飛ばすクレアに掴まれているのだ。非力なアスクが逃れれるはずがない。
「その辺りは私の方で調査しておくさ。とにかく、しばらくはコイツに修行つけるから、前の場所を借りるよ」
「えぇ、貴方のために残してあります。なんと言っても、生きる伝説と呼ばれ、現魔法体系を生み出した伝説の魔道士にして、最強の魔人と呼ばれるクレア・アレイスター様の頼みですからね」
「もう、最強はお前に委ねたさ。…ん?コイツ、気絶しちまった…今回の弟子は貧弱で参っちまう」
そう言って、クレアはその場を後にした。
相変わらず騒がしい人だ…とゼオンはため息を吐き、破壊された王城を修復するように部下たちに命令を下していく。もちろん、彼も魔法を使って城の修繕を手伝うつもりだ。
「人間の【無色の魔眼】か…。彼もこれから苦労するだろうな」
自分の苦労を思い出し、彼は城の修復に取り掛かった。
「いつまで寝ておるんだ!」
「っいたぁぁああ!!」
頭部に強烈な痛みを感じ、飛び起きる。
「こ、ここは…?」
周囲を見渡すと、自分が開けた岩場にいることに気がついた。
「これからアスク、お前と修行をする場所だ。ここは現在の魔王ゼオンも修行に使った場所でもある」
———魔王。先ほどの金髪の青年を思い出す。優しい笑みを浮かべ、自分に魔眼の使い方を指導してくれた。
「魔王様も…」
「そうだ。早速だが、今から修行を始める」
「えっ!?もう———いたぁっ!?」
文句を言いかけた時に、すでにゲンコツが落とされていた。まだ文句言ってないのに、と文句を言いそうになり口を慌てて抑える。
「この私に修行を付けてもらえるだけでありがたいと思え。急ぐ理由は一つだ。まず、お前は弱すぎる。この魔大陸で生活するのであれば、最低でもこれくらいはできるようになれ」
そう言って、クレアは隣にあった巨大な岩石を砕いた。拳ではなく、コツンと手の甲で触れただけで木っ端微塵に、だ。
「そんなの、でき———」
ゲンコツが下ろされる。
「いいか、お前ならできる。なぜか教えてやろうか?」
涙を拭いながら、うなずく。というか、頷かないとまたゲンコツが降ってきそう。
「私の弟子だからだ!」
———少しでも期待した自分がアホだった。
今日1日だけでアスクはクレアの性格を理解し始めた。尊大にして、横暴、だけど人懐っこさもあり、面倒見がいい部分もある。一言で言うとめんどくさい人だ。
「さて、その前にまずはお前の魔眼について、もっと慣れてもらう必要がある」
「師匠!僕は強くなれるのでしょうか!【無色の魔眼】ですし———」
ゲンコツ。
「あのゼオンも【無色の魔眼】だった。【無色の魔眼】は特殊な能力はないにしろ、魔力に関する感度や認識能力は飛び抜けている。極めれば相手が魔法を発動する前に阻害して、相手を打倒することもできる。極め付けに私が編み出した戦闘方法も伝授してやる」
「おぉ!!」
「では修行を始める」
クレアがそう言うと、岩場の影から、見たこともない魔物が続々と現れてきた。
「あ、あの。師匠、猛烈に嫌な予感がするのですが…」
「なーに簡単だ、お前は魔眼を使ってコイツらの魔法を避け続けるだけでいい」
あっけらかんとクレアはそう言うと、どこかへ行こうとする。
「し、師匠…ちなみにどれくらい…」
「うーん。とりあえず二日だ」
そう言うと、クレアはどこかへ消えてしまった。
「ししょ———」
次の瞬間、背後の岩が爆ぜた。それを引き金に、次々のアスク目掛けて魔法が発射される。
「く、くそ!絶対に生き延びてやる!生き延びて、僕は強くなるんだ!!」
決意を新たに魔眼を発動させ、魔法の雨を掻い潜っていく。
そうして、アスクの修行が始まった。
魔法の雨を掻い潜り、戦い方を体で覚えさせられ、死にそうになりながら魔力量を拡張し続けた。
そして、5年の月日が経過した頃、物語は大きく動き始める。
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