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アジトってワクワクしますか?

「オラァッ!」


 【魔法解体(オーバーホール)】で周囲に展開される数多の魔法陣を砕いていく。


 イリスの転移魔法によって、とある倉庫に転移した二人。その瞬間に事前に設置されていた数多の魔法トラップが起動した。


「俺がいなかったら即死だぞっ…。でも、こんなうまい具合に罠って設置されているものかね?」


「どうも私のマーキングが発見されたみたいね…。ごめんなさい、これは私の落ち度よ」


 気にすんなとイリスの頭をポンと叩き、索敵魔法を起動する。


「転移魔法の性質的にマーキングが発見されるのは仕方ない。相手の方が上手だったってことだ」


 転移魔法はマーキングを設置した場所にしか移動できない。その性質上、マーキングが発見された場合、危険が伴い可能性がある。


「ざっと周りを確認したところ、敵はいないな…。シャノンの場所もわかんねーわ。ただ、魔力が集まっている方向はなんとなく分かるから、今はそっちに進むしかないな」


 イリスを先導し、倉庫を出る。


『ノーマラス』のアジト。王都の地下に広がる下水道施設を改造し、使用されたそこは、レンガで形成された壁に、松明しか光がなく、陰鬱な雰囲気が漂っている。


「む、さっきの罠の作動を感づかれたみたいだな…。大所帯でこっち向かってくるぞ」


 イリスが気配遮断と魔力隠蔽の魔法を行使する。


「これで大丈夫よ。とにかく今は時間を欠けてられないわ。この組織の情報と、シャノンを早く見つけましょう」


「了解」


 二人の隣を慌ただしく構成員達が走り抜けていく。どうやらイリスの魔法は正常に作動しているようだ。


 廊下を進んでいく。十数分歩き続けると巨大な扉が見えてきた。明らかに地下に設置されるには巨大な建造物。


「この向こうだな…下がれ、イリスっ!」


 扉に手をかけたイリスを抱き抱え、すぐにその場を離脱する。その瞬間、巨大な扉が爆発音と共に吹き飛ぶ。


———咆哮。巨大な獣の雄叫びが鼓膜を揺さぶる。


 舞い上がった煙が晴れると、その向こうに巨大な魔物が立ち塞がっていた。


「フェンリル…っ!」


 獰猛な眼光、鋭い大牙、力強い四肢を持ち、白銀の毛並みを誇った伝説の魔獣、大狼フェンリル。高さ3mは超えるであろう巨大な体躯に、溢れ出る膨大な魔力がその強さを物語っている


「どうしてこんなところにフェンリルが…」


 魔大陸の奥地に生息する伝説の魔獣であり、本来人大陸にいるはずがない存在である。


「今はそれどころじゃねぇ!あいつ、俺たちを狙ってやがる」


 イリスを抱えたまま疾走する。魔法の掃射によって、様々な場所で爆発が起きる。


「アスク、私はここの資料を探ってくる!貴方はフェンリルをお願い!」


 狼退治、得意でしょ?と可愛らしく首を傾げるイリス。


「ははっ!任せとけっ。とりあえず下ろすから、あとは頼む!」


 イリスを出入り口におろし、大狼を見据える。ようやく闘う気になったかとフェンリルも、僅かに身構える。


 索敵魔法でイリスが離れたことを確認すると、身体中に魔力を巡らす。


「あの伝説のフェンリルがどうして、こんなところにいるのかは知らねぇ。ただ———腹に穴開けられて、虫の居処が悪いんだよ。一発ぶん殴らせろや、犬っころ」


 自分の三倍はあるであろう巨獣を睨み、全身から魔力を吹き出す。


 その魔力に呼応してフェンリルからも魔力が放出される。魔力同士の衝突。


「いくぜ、魔装術———【炎纏(えんてん)】」


 その瞬間、アスクの魔力が鼓動する。放出されていた魔力が彼に収束し、そして———。


 【無色の魔眼】に色が灯った。淡い蒼色だった瞳が真紅へと変貌していく。そして彼の魔力も、そして髪色までも紅へと染まっていく。


 彼の変わりように、魔獣であるフェンリルも驚きを隠せない。


「知ってっか犬っころ?魔法の原則は【放出】だ」


 炎魔法も、闇魔法も、付与魔法すら、一度魔力を体外に放出する。放出された魔力は魔法陣によって魔法へと転換される。


 全ての魔法の原理原則。


「俺の眼は特別でな…この原則ってのを無視できんだ。つまり———魔法を体内(・・)で行使できんだよ」


 消えた。アスクの姿が音もなく、気配もなく、予備動作もなく。一瞬で消え失せた。


 フェンリルも伝説の魔獣だ。本能に従い、アスクの拳に抗うように防御魔法を展開する。


「ハァッ!!」


 しかし、そんな物意に介さないように、魔法は一瞬で砕けちる。


 フェンリルの左頬に拳が撃ち込まれる。人の域を超えた膂力によってフェンリルは壁に叩きつけられた。


「【炎纏(えんてん)】は体内で炎魔術を使って、力と速度を大幅に上げる。その上、お前からの炎魔術への耐性もアップだ」


 崩れ落ちたフェンリルへ、一歩一歩近づいていく。


 魔装術。その名の通り魔法をその身に(よそお)う術。魔法の原理原則を無視できるアスクだけに許された規格外の力と言える。


「その上【魔法解体(オーバーホール)】との同時使用だ。大抵の防御魔法なんて紙屑以下だぜ、覚えときな」


 【炎纏(えんてん)】を解除し、動けなくなったウェンリルの目の前にしゃがみ込む。フェンリルの首に巻かれたベルトを引きちぎった。ベルトには魔術が刻み込まれている。


「伝説の魔獣がこんな物で操られてんじゃねーよ」


 魔眼によってベルトに刻まれた魔法を読み解き、このフェンリルが操られていることは気がついていた。


「悪質な魔法を使いやがるな…おい、犬。お前のことだ、自分で魔大陸までは帰れるだろ」


 フェンリルに魔力を還元し、回復を促していると、イリスが戻ってきた。


「どうだった…?」


 イリスは首を横に振る。


「シャノンの姿は無いわね…。どうやら一歩遅かったみたい。って、どうしてフェンリル回復させてるのよ…」


 だけど、と話を続けるイリス。


「やっぱりこの組織は黒ね。それも真っ黒。自分たちの魔法の技術の発展のためなら、人体実験も厭わない最低最悪のクズばかりね」


「そりゃたしかに黒だな」


「対魔人魔法なんてモノも編み出したみたいね。その他にも奴隷魔法に、従魔魔法の実験も繰り返していたみたい」


「もしかして強制のモノか?」


 イリスは黙ってうなずいた。


 奴隷魔法と従魔魔法、これは魔法の使用者が対象である人間や魔物を使役するための魔法であるが、両者の同意が必要となっている。


 しかし、これらの制約を取っ払ったモノが完成したとなると…。


「こいつら戦争でも起こす気か…?」


「そうやらそうみたいね。奴隷と従魔による戦力の確保、そして極め付けが———シャノンよ」


 ここで関係してくるのか、と呟く。


「今は、とにかくここを出ましょう。シャノンが危険に———これはっ」


 ———地響き。


 アジトそのものが大きく揺れている。壁のブロックが徐々に崩壊を始めている。


「どうりであいつら戻ってこないと思ったわ!このアジトそのものを破壊するつもりよ!」


「ひゅー、そりゃ豪快だな。イリス、転移魔法の準備を」


「もう始めてるわよ!」


 くそ、ギリギリになるわ。と声を荒立てるイリス。


 イリスの焦りを他所に、アジトは急速に崩壊していく。遠くの部屋ではすでに落盤が起き、天井が崩れている音が響く。


「犬っころ、お前はどうする!助けて欲しけりゃ小さくなれ!」


 明らかな無茶振り。アスクも焦りながら無茶苦茶を言った自覚はある。


 隣で横たわるフェンリルはその相貌でじっとアスクを見つめたと思うと、徐々に体が小さくなっていった。


「うわっ、本当に小さくなった」


 両手で抱えれる程度に小さくなったフェンリルを抱き抱え、イリスが展開した魔法陣に駆け込む。


「イリスっ!」


「【転移(テレポート)】っ!」


 間一髪。二人と一匹がその場から消えた瞬間、アジトは完全に崩れ去った。

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