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敵ってどんな人ですか?

「ようやく目覚めたわね…どう、傷は痛む?」


 とある病院の一室。ベッドに横になっているアスクが 瞳を開くと、手に花を持ったイリスが視界に映り込んだ。


「ここは…」


「王都の病院よ。校舎裏で瀕死の貴方が見つかって大騒ぎだったんだから」


「そうか…」


 その言葉を聞いて、意識を失うまでの記憶がフラッシュバックする。


「————っ、シャノンはっ!」


「そう言うと思ったわよ。まだ傷が完全に言えてないだから、横になってなさい」


 飛び起きようとするアスクをイリスが制する。


 鮮明に記憶が蘇ってきた。取り乱したシャノン、謎の男とその取り巻き。何よりもあの程度の奇襲で大怪我をおった自分に情けなくなってくる。


「俺が意識を失って、どれくらい経った?」


「今日で丸二日ね。むしろあの怪我でよくここまで回復したわね。医者だってほぼお手上げだったんだから」


「だろうな…腹に穴開くし、毒を受けるしで、踏んだり蹴ったりだ」


「貴方の持ち前の回復力のおかげで、ここまで回復したけど、医者は一ヶ月は絶対安静だって言ってたわよ」


 イリスの言葉に口角を上げる。


「この程度あと1日も寝てりゃ、すぐ治る。それよりもシャノンだ。イリス、お前のことだ。もう調べはついているんだろ?」


 ベッドから体を起こし、上着を羽織る。


「もちろんよ。そう言うと思って、奴らのアジトまで突き止めたんだから。感謝してほしいわ」


「あぁ———いつも感謝してる。ありがとうな」


 いつになく素直なアスクに面食らうイリス。


「な、何よ。調子狂うわね…。それと、魔大陸から援軍も呼んでおいたわ。あと数日もすればこっちに到着するはずよ」


「オーケイ。んじゃ軽く情報共有頼む。今のうちにわかっている情報を整理したい」


 それじゃこの資料を見て、とイリスから資料を手渡される。以前使用された確認後燃え尽きる特殊な紙を使用した資料だ。


「まず、貴方を襲った奴らから話すわね」


 頷き、話に入るように促す。


「奴らの名前は『ノーマラス』。『至人教会(しじんきょうかい)』を母体とした武力組織よ。人大陸のあちこちで人間以外の種族を撲滅しようと運動を行っているわ」


 『至人教会(しじんきょうかい)』———。人間以外の種族を認めず、この世界から人間以外を消し去ろうとする思想である人間至上思想を教義とした宗教団体。どの種族でも、似たような思想はあるが、人至教会が最も歴史が長く、苛烈だと言われている。


「なるほど、そこが大陸間停戦協定を破棄しようと動いてるってことか」


「えぇ———。これまでは普通の宗教団体って感じだったみたいだけど、ここ一年で急速に影響力が増しているみたい。どうも、王都中央政府の高官がバックについたようね」


「それがこの前言っていた、イージス・パリオットって法務大臣か?」


「まだそこまでは分かっていないわ。ただ、その男の怪しさが増したってことは間違いないわね」


 イリスのここまでの説明を聞いて、疑問点がいくつか湧いてくる。


「でもよ、その『至人教会(しじんきょうかい)』がどうして、あそこまでの武力を持ってんだよ」


 アスクが自分に攻撃を加えてきた謎の魔道師達を思い出す。その中でも特にタキシードに身を包んだ、あの男が妙に記憶に残っている。


「どうやら、その高官の紹介で傭兵が加わったようね。その結果、武力を身に付け教会からも離反。『ノーマラス』として武力組織化したみたいね」


「なるほど…てことは、『至人教会(しじんきょうかい)』って考えるよりは、人間至上思想を根底においた武力組織って考える方が自然だな」


「そうね…そして、その組織が何の関係か分からないけど、シャノンを攫った———」


薄々感づいてはいた。アスクを襲った時、あのタキシードの男の真の目的はアスクではなく、シャノン。あくまでアスクはついでに過ぎない。


「現状は分かった———で、そいつらのアジト見つけてるんだろ?なら、シャノンを助けに行くぞ」


 アスクの言葉にイリスは悪戯な笑みを浮かべた。


「大陸間協定のためじゃなくて?」


「それも大切だが、今回はダチの為に動く。シャノンは初めてできた人間の友達なんだ。このまま放っておけるかよ」


 文句あるか、とイリスに問いかける。


「あるわけないじゃない。魔族は強い者の言うことが正しいの。今、この場では貴方の言うことが一番正しいわ」


 そう告げるとイリスの魔力が病室を包み込む。彼女の魔力光である青白い魔法陣が足元に現れる。


「奴らのアジトまで転移するわ。直ぐに戦闘になる可能性もあるけど…準備は大丈夫?」


「常在戦場———腹に穴開けて、久々に思い出したぜ。いつでも行ける」


「【転移(テレポート)】」


 魔力光が無くなると、二人の姿は病室から消えていた。



————————————————————



アスクとイリスが転移する数刻前———。


 荘厳な建築物が立ち並ぶ王都の一角。明らかに高貴な身分の人間のみが闊歩するその地域に、周囲の雰囲気とは合わずに剣呑な雰囲気を醸し出している二人組がいた。


「ここが、ルーク・オルガスターの実家ですか…」


「そうだ。パトリック・オルガスターが当主を務めるオルガスター公爵家の屋敷だ。局長はここには手を出すなと言っていたが、俺のカンではこのいえは間違いなく黒だ」


 そうなんですかね、と後輩はため息をついた。


「オディナ先輩、本当に局長の言うこと無視していいんですかぁ?」


 聖王騎士団の制服に身を包んだピンク髪の少女は、先輩であるオディナを挑発するようにそう尋ねた。


「いいんだよ。あの人の言ってることを無視するのが俺の仕事だ」


 そう断言し、一服する。


「ケホッケホッ、街中でタバコはダメなんですよぉー。やーいやーい騎士団に言ってやろー」


 騎士団は俺らだろ…とため息を吐く不良騎士。吸っていたタバコをポイっと放り投げ、目の前に鎮座する屋敷を見上げた。


「相変わらず趣味の悪い屋敷だな…いくぞ、ルナ」


 オディナは後輩騎士であるルナ・アーティクルに声を掛けると、軽々と塀を飛び越えた。


「本当に後輩使いの荒い先輩だなぁ」


 ルナは何やら魔法を起動すると、塀をすり抜けて敷地内へと入っていった。


 二人が広大な敷地を進んでいると、とある違和感を感じ取った。


「さっきから全く人の気配がしませんねー。もしかして皆さんお出かけしてるんですかねぇ」


「無駄口を叩くな…止まれ」


 屋敷の裏に差し掛かると、気配を研ぎ澄ます。


 周囲を見渡すが広大な敷地の中で、人だけでなく他の生き物の気配すら感じない。明らかに異常な雰囲気。何かしらの魔法が行使されていることは間違いない。


「飛ぶぞ、ルナ」


 そう告げると突然飛び上がった。そして屋敷の2階に当たる窓ガラスを叩き割り、屋敷の中へ侵入した。


「なっ———これは…」


 オディナが着地した場所はちょうど、1階から2階へと登るための正面階段の踊り場に相当する場所。ちょうど正面入り口を含む一回を見下ろせる場所になる。


 一階に突入せずに良かったと安堵する。


 一階の全てが血に染まり、数多の人間の死体が転がっていた。


「これはエグいですねぇ。抵抗もさせずに全て一撃ですか」


 追いついてきたルナは遠目に死体を確認し、その惨状から殺害方法を推測する。一階へと降りていきながら、凄惨な現場を確認していく。


「おそらく、全てが認識外からの一撃ですね。この人たちは痛みすら感じなかったのがせめてもの救いですか…む——」


「気がついたか———上に誰かいる。急ぐぞ」


 何者かの気配。これほどまでに敷地内に生命の鼓動を感じさせない現場だからこそ、感じ取れてた生者の呼吸。


 その気配を頼りに三階へと走る。


「どうやら(やっこ)さんも俺たちに気がついたようだな。———突入する」


 二人の気配を感じても逃げないところを見ると、明らかにオディナ達を相手は誘っている。わかりやすい挑発に乗り、三階の奥の部屋へと飛び込んだ。


「聖王騎士だ。動くなっ!」


 扉を蹴破り、室内を確認する。散らばった書物に家具。そして———。


「やっぱり、あいつじゃない…どうする?」


「———殺せ」


 そこにいたのは一人の男と、全身を鮮血で濡らした一人の少女だった。

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