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騎士ってかっこいいですか?

 学園のとある一室。


 学生に服に身を包んだアスクと、一人の不機嫌そうな男が向かい合って席についていた。


 男は口にタバコを加え、貧乏ゆすりを繰り返し、舌打ちを繰り返している。


「おい、さっさと吐けよ。ルーク・オルガスターを殺したのはお前だろ」


「だから違うって言い続けてるじゃねーか。分かんねぇ奴だなぁ」


 男の不機嫌さに返すように、アスクも不遜な態度で返答をする。


 目の前で射殺されたルーク・オルガスターの事件に関しての取り調べが行われていた。アスクを取り調べているのは、王都の治安維持などを行う聖王騎士団の団員。


「テメェ…それが無罪を主張する奴の態度か!」


「初めは真面目なアスク君だっただろうが!こんなクソ狭い部屋に三時間も閉じ込めやがって、不機嫌になるに決まってんだろっ」


 昨日の事件の後、ルークの取り巻きたちが慌ててどこかに連絡しに行くのを見て、その場を後にした。


 面倒と言う理由だけだったのだが、どうやらその行動が怪しさ満点だったらしい。その報告を聞いた騎士団はいつも通り呑気に登校してきたアスクを捉えると、この部屋に軟禁した。


「腹へった…おっさん、何か食べ物持ってない?てか、いつここ出してくれるんだよ」


「誰がおっさんだ。俺はまだ26だって、さっきも言っただろうが…。お前が罪を認めるまでここから出られませーん」


 アスクを挑発する騎士団員。室内だと言うのにタバコを吸い、その煙をアスクへと吹き出す。


「おっさんの名前って、ドリアだっけ?」


「オディナだ!俺の名前はオディナ・カーディナル!聖王騎士団第五席を仰せつかっている正真正銘の騎士だ。お前とは立場も身分も違うんだよ、が・く・せ・い」


「むかっ」


 詰問が始まってからこんなやりとりを続けて、すでに三時間を経過している。二人の堪忍袋はすでに限界を迎えつつあった。


「いくら優しいアスク君でもそろそろキレちゃうかもよー。あー手が出ちゃうかもよー」


「やってみろクソガキ。優しいオディナお兄さんが力の差ってものを教えてやるよ」


「よく言うぜ、この税金泥棒め」


「テメェ、治安維持組織に一番言っちゃいけないこと言いやがったな!そこに直れ!今すぐしょっぴいて———グギッ」


 ゲンコツ。部屋に鈍い音が響く。オディナは白目をむいて、椅子から崩れ落ちる。痙攣を繰り返し、見事に気絶していた。


「ひゅー、さすが我らが担任。沙織大先生っ!助けに来てくれると思ってだぜ!」


 軽薄なアスクの言葉に、いかにも不本意であると言う表情を浮かべる沙織。


「こいつには後でキツく言っておく。ルーク・オルガスターの取り巻きから証言が取れた。お前は無実だ」


「初めっからそう言ってたのによぉ…。このクソ騎士め…」


 足元で白目を剥いて気絶しているオディナの顔にマジックで落書きをしておく。


「そいつは私の後輩だ。こう見えて正義感の強い真面目な奴だ。許してやれ」


「へいへい。んじゃ俺は帰るかねと」


 アスクが部屋を出ようとすると、制服の襟を沙織に掴まれる。


「おい、授業があることを忘れた訳ではあるまい…?今からなら午後の授業に間に合う。走って向かえ」


 有無を言わせぬ巨烈な威圧感。この学園においては沙織の方が立場も上のため、アスクと言えど何も返せない。


「わかった、わかったよ!授業行くからっ。強化した腕で襟元掴むなよ!」


 なんとか手を振り解き、襟元を確認する。 


「俺じゃなかったら窒息してるぞ!」


「貴様だからやってるのだ。その程度で死ぬのなら、私もここまで苦労しない」


「ひっでー」


 適当に返事をし、 荷物を手に取る。


「今回の件、進捗あったら教えてくれ。俺も目の前で死なれて気分が言い訳でもない」


 協力できることなら手伝うと伝え、部屋を後にした。


 詰問部屋を出て、午後の授業が行われている教室に向かっていると、曲がり角で見知った顔を見かけた。


「ようやく解放されたんだ」


「全くいい迷惑だよ。お前もいきなり帰るしよ———んで、なんのようだシャノン?」


 少しドスの効いた声。


 確信ではないが、昨日の事件にシャノンは何らかの形で関与していることを感づいていたアスク。ここで待っていたと言うことは、お互い目的は同じであろうと単刀直入に疑惑を口にしていく。


「昨日のこと、何かしらお前が関係してんだろ?」


「そうだよね…そう思うよね」


 悲しそうな表情を浮かべる彼女を見て、アスクは少し違和感を感じた。


「安心しろ。お前のことは何一つ話してない」


「そっか———やっぱりアスクは僕の思っていた通りの人だ。いつもふざけているのに、いざって時は僕を守ってくれる…」


 そう呟くとシャノンは歩き始めた。


 階段を降り、校舎裏へとたどり着いた。人気のない場所。校舎の裏には広大な森が広がっており、滅多にここに人が来ることはない。


「ここなら大丈夫かな…。アスクにはどうしても話しておきたいことがあってさ」


 覚悟を決めた瞳。


「まずは昨日、いきなり帰ってごめんなさい」


 シャノンは深々と頭を下げた。


「目の前でいきなり人が死んだんだ。戸惑って当然———」


「そうじゃないんだ」


 食い気味の返答。意外な返答にアスクは目を少し見開く。


「あの状況で驚かなかったのか…?目の前で人が死んだんだぞ」


 その言葉にシャノンは少し笑いを溢す。


「それだったらアスクだって冷静だったじゃないか。すぐに僕を守ってくれたしさ」


 確かになぁと少し頭を掻く。


 アスク自身も命の取り合いに慣れすぎていると言う、自覚はある。


 しかし、彼の場合は誰かの死に慣れているわけでない。命を賭けた戦いには慣れているが、そこで生まれうる死には慣れていないし、慣れたくもない。


 どんな死だって、それは一度きりのものなのだから。


「———っ」


 そう言い返そうとしてシャノンの表情を見た瞬間、言いかけた言葉を飲み込んだ。


 彼女の浮かべる笑みは、凪いでいた。


 自分の死、他人の死。全ての死に慣れている人間の顔。そのような人間は決まって、このような音もない、感情もない、何も表さない静かな笑みを浮かべる。


「シャノン———お前…」


「アスクも気がついたよね。僕が酷い人間だって。生きている意味のない人間だって。そうだよね、僕なんて———僕なんてっ!」


 悲鳴にも聞こえる声。どこか空な表情を浮かべるシャノン。


「おい、シャノンっ!」


「ねぇ———アスク。昨日、僕の体の魔法陣見た、よね…?」


 昨日の光景がフラッシュバックする。


 体に刻まれた魔法陣。魔法陣を瞬時に解析するアスクだからこそ、あの一瞬で魔法陣を読み取った。


「あれは———ちっ!誰だ!」


 瞬時にその場から後退する。次の瞬間、アスクの立っていた地点が突然爆ぜた。


 爆風に体を煽られながら魔眼を起動し、周囲に索敵をかける。


「クソがっ!」


 アスク目掛けて発動準備されていた魔法陣全てに【魔法解体(オーバーホール)】を発動する。数多の魔法陣が音を立てて砕け散る。


 魔力で脚力を強化しシャノンへと駆け出す。彼女へと手を伸ばし———。


「シャノンっ、こっちへ!———ガッ…」


 その手が届く事はなく、口から大量の血が噴き出した。


「アスクっ!!!!」


 地面から隆起した巨大な鋼の刺がアスクの腹部を貫通している。力任せに刺を砕き、膝をつく。血溜まりの大きさが、その惨状を物語っている。


 血溜まりに倒れ伏し、目の前の刺に刻まれた魔法式を視認する。魔法式を一瞬で読み解く魔眼によって、その効果を理解する。


「へ、へへ———。毒かよ…」


 対象に接触した瞬間に体細胞を解読し、その体に最も有効な毒を生成し、対象に打ち込む魔法陣。学生に見合わない明らかな高等術式。


「アスクっ!そんなどうして!」


 シャノンは回復魔法を起動するが一向に傷口は塞がらない。毒の他に回復魔法を阻害する効果もついているようだ。


「に、逃げろ…———ガァァアアアア!」


 毒が体を蝕み始める。


 魔大陸の生活のおかげで大半の毒には耐性のあったアスクであるが、特殊な術式によって生成された毒は確実の彼の体を蝕んでいく。


 —————パチパチパチ。


 アスクに攻撃を加えて集団の間を割って、一人の男が歩いていく。


 顔には張り付いたような気色悪い笑みを浮かべた男。拍手をしながら二人の元へと近づいてくる。


「アスク・アレイスター、貴方の為に編み出した特製の毒は如何ですかぁ?あの【無色の魔眼(ノーコード)】に私の術式が通じたと思うと喜びでいっぱいですよぉ!」


 長身の黒髪の男。気障ったらしいタキシードに身を包み、役者の如き振る舞いをする。


「ほぉほぉ、魔大陸で生きた人間も赤い血が流れるのですねぇ。これは面白い結果です」


「一体、貴方たちはなんなんですかっ!昨日だってっ!アスクには手を出さないって約束じゃ———」


「ふーん、うるさい小娘ですねぇ」


「は、離して!————っ」


 タキシードの男はシャノンの顔を掌で掴むと、近くの木へと投げつけた。


「シャノンっ!」


「この毒を受けてまだ話せるのですか———全く驚く頑丈さですね!」


 男はアスクの、傷口を抉るように踏みにじる。


「———っ」


「ほぉ、これでも声を出さないのですか。全くどう育てばこんな人間になるのか。はてはて、本当に魔大陸は無くなった方がいいですねぇ」


 嬉しそうに男はそう言うと、さらにアスクの傷口を抉る。しかし、何があってもアスクは声を上げない。声を上げないことだけが唯一の抵抗だった。


「目的は僕だけのはず!どうして、アスクまで!」


 涙を浮かべたシャノン。


 ———シャノンと、こいつは知り合いなのか…?


 疑問が浮かんでは腹部の激痛と毒による痺れでかき消されていく。


「おやおやおや…?貴方、もしかして自分の正体を隠しているんですかぁ?」


 男は耳障りな声で、腹の底から笑い声を上げる。最高の喜劇を見たかのような、そんな反応。


「シャノンさん、これは我々のためなのですよぉ?この男は人間の敵、それも天敵中の天敵。憎き仇なのですよ」


 男は演劇の登場人物のように大袈裟に手を広げる。


「1年前まで人間と魔人の間で密かに行われていた戦い。その真っ只中で、人間でありながら人間と敵対し続けた男、それがこの男、アスク・アレイスター!」


 ———意識が朦朧としてくる。


「またの名を【無色の魔眼(ノーコード)】、人類を裏切った男ですよ」


 そこで意識が途切れた。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。


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