通学路ってどんな感じですか?
「アスクって本当に強いんだね!僕、びっくりしちゃった!」
帰り道。
アスクはシャノンと二人で帰ることになった。イリスは今朝の調査の続き、ライドは部活動の見学に行くと言って消えてしまった。
「まぁ、同学年の中では強い方かもな」
「そうなのかな?この学園の中でも相当上位に入ると思うけど…あ、でも、僕たちの学年にはリーナさんがいるよね。やっぱり彼女が一番強いんだろうなー」
「む…」
突然の妹の名前にアスクも否が応でも反応してしまう。周囲には自分たちが兄妹であると言うわけにも行かず、アスク自身どう反応すればいいのか困っている。
「おやおや?アスクもリーナさんが気になるのかな?綺麗だもんねー彼女。ライド君なんてずっとリーナさん、リーナさんって言ってるし」
どこか不機嫌そうなシャノン。
「いや、ライドとは一緒にしないでくれ。まぁ、あれだ。昔の知り合いに似ているんだよ」
「そうなんだ。でも、僕、彼女に少し憧れちゃうな…。あれだけ綺麗で、優秀で、それにアスクに興味も持ってもらえて———」
「なに言ってんだ。シャノンにだって興味あるさ」
「ふぇっ!?ぼ、僕に興味!?」
思いがけないアスクの発言に、不意に顔が熱くなる。
———アスクっていつもやる気なさげなのに、こう言う時だけちゃんと欲しい言葉行ってくれるからずるいんだよねぇ…。
イリスさんもこれにやられたのかな…?と頭の中で想像を膨らます。
「シャノンの事って、意外と知らないんだよな。もっとシャノンのこと教えてくれよ」
学友。お互いを知り合い、より理解し合うという夢にまで見たキャンパスライフ。今、アスクは長年の願いを成就させている最中であった。
「ぼ、僕のことかぁ。聞いても面白くないと思うけどなー」
「いいんだよ。友達のことは知りたいって思うのは当然だろ?」
アスクの屈託のない笑顔に押されるシャノン。彼女としては『友達』と言うよりも、もう少し特別な関係だと嬉しいと思ったり、思わなかったり。
「そ、それじゃぁ。僕の話を———」
シャノンは自分の家族を思い出すように、話し始めた。
「お父さんとお母さんと僕の三人家族で、王都の外れの村で過ごしていたんだ。家族すっごく仲良くて、お母さんのシチューが絶品なんだ。それでね———」
シャノンの家族の話を聴き、アスクは懐かしい気分になった。自分にもかつてあったモノ。父親がいて、母親がいて、兄弟がいて———。彼自身、今の自分の境遇には何も文句はない。むしろ感謝すらしている。
だけど、どこか懐かしいそんな気分になる。
「魔法が使えるし、試しにエルメス魔法学園を受けてみようって話になってさ。記念で受験してみたら、本当に受かっちゃって……あの時のお父さんの顔、嬉しそうだったな…」
「そこから、あの試験の日に繋がるってことか」
「そうなんだ!あの時は本当にありがとね、アスク。王都で一人だったところを、突然囲まれてさ…」
シャノンを囲っていたルークとか言う貴族を思い出す。取り巻きを連れた典型的な貴族の子供。あんな風にはなりたくないわね、と軽口を叩いていると——。
「平民同士、仲良く帰宅中ってわけか?」
物陰から噂の貴族、ルークが現れた。
「すげーなこいつ。噂をしたらなんとやらって本当だったんだな」
アスクの小馬鹿にした言葉に、シャノンも苦笑いを浮かべる。
「おい、お前たち!」
ルークがそう叫ぶと、10名ほどの生徒に囲い込まれる。その中には試験日にみた顔も何人か混ざっている。
「俺たちに復讐するために、こんなところで待ち伏せかよ。貴族ってのもやることはくだらないんだな」
「復讐…?馬鹿を言うな。これは躾だ。我らが王都に住う平民が貴族への礼儀を弁えていないことへの、僕からの思いやりさ」
「思いやりねぇ…」
シャノンに下がるように伝え、前へ出る。取り囲んでいる生徒たちの手には武器が握られており、油断すればシャノンへ攻撃される可能性もある。
「なんだ?ナイト気取りか…?そんな女、守って何になる」
ルークの笑い声に、取り巻きたちも同調し、君の悪い笑い声を上げる。
「ナイト気取り?上等じゃねーか。お前らみたいに通り魔気取りのクズよりはマシだ」
「貴様ぁ!———やれ、お前たち!」
ルークの言葉に取り巻きたちが一斉に攻撃に移った。
アスクは瞬時に魔眼を起動し、敵の行動を認識する。
———数は10。半数が武器での攻撃、もう半分が魔法の詠唱。
敵を認識して後、コンマ数秒で制圧プランを組み立てる。
「シャノン、そこを動くなよ!」
武器を持った学生たちの攻撃。何人かは訓練を積んでいる可能性がある身のこなしであるが、所詮は素人。
難なく攻撃をかわし、頸椎、鳩尾、陰部、人間のありとあらゆる弱点に攻撃を入れていく。
「これで、ラストっ」
五人目の学生の剣を紙一重で躱し、体の入れ替わり際に顎に一撃放り込む。男子生徒は、脳を揺さぶられたことにより、一瞬で意識を刈り取られた。
そして、魔法の発動。ここまで僅か10秒。
「ファイア———」
炎熱系の魔法が発動されかけた時、彼らが構築していた魔法陣が一瞬で砕け散った。
「【魔法解体】」
彼らの構築した魔法は全て暴かれ、生成された微弱な魔力によって、全て破壊された。
「な、どうして魔法がっ!?」
「下手くそな魔法使ってっから、そうなるんだよ」
下手くそな魔法。高度な術者ほど、魔法陣に綻びは少ない。一方で学生程度が構築する魔法陣は荒も多く、アスクの格好の獲物となってしまう。
「離してっ!」
取り巻きたちの制圧が完了したと思った時、シャノンの声が鼓膜を震わせた。
「う、動くなぁ!」
ルークは、シャノンを人質にとると、ナイフを彼女の喉元に近づけた。
———いつの間に!?
魔眼によって周囲の魔力の動きは全て感知していたというのに、ルークの動きを察知できなかった。
「テメェ…どうやって…」
「は、ははははっ!やっぱりだ、やっぱりだ!あの人の言う通りだ!おい、アスク・アレイスター」
どこか目が虚なルーク。
「お前、【無色の魔眼】なんだってなぁ!それも、元ローゼンクロイツ家だって言うじゃないかぁ!」
「———っ!?」
ルークの言葉に、初めてアスクに動揺が現れた。まだ、彼が【無色の魔眼】であることは、魔眼に詳しい者がいればわかる可能性がある。しかし、アスクがローゼンクロイツ家出身であることを、彼が知っている事はあまりにもおかしい。
———それを知っているのは、師匠とゼオンさん、そしてイリス。あとはローゼンクロイツ家の人間だけのはずだ。
「おい、その情報、誰に入れ知恵された…?」
「どうして、平民のお前が僕にタメ口なんだよぉ!どっちが上の立場かわかってないんじゃないかぁ!?」
先ほどよりも明らかに情緒が不安定になっているルークを見て、アスクは警戒心を高める。変に煽って、シャノンに危害が加わることを避けなければならない。
「あ、アスク!僕のことは放って———」
「黙れ女ぁ!」
「シャノンっ!」
シャノンの頬にナイフが突きつけられる。目に涙を浮かべる彼女を見て、ルークは気味の悪い笑みを浮かべた。
「あぁ———そうだ。あの人がこうも言っていたな…。女ぁ、お前の服、破けば面白いモノが見えるってさぁ!」
ルークの怒鳴り声とともに、シャノンの制服がナイフによって切り裂かれた。前部分を両断するように裂かれた制服。そして、彼女の肌には———。
「おいおい、おいおい!なんだよ、それぇ!なんで、体に魔法陣が———」
風がアスクの頬を掠めると、何かがルークの額を貫いた。吹き出す血流がスローモーションとなって、アスクの脳内へと流れ込む。
瞬時に察知し、魔力で脚力を強化する。
「シャノンっ!!」
地面を蹴り上げ、シャノンを抱き抱えると、すぐさま草陰へ転がり込む。
「頭を伏せろ!」
シャノンを抱き抱え草むらから周囲の様子を伺う。
無音の狙撃。
明らかにプロの手腕であることを本能的に感じ取り、魔力と集中を極限まで研ぎ澄ます。感知の術式によって3km先まで索敵するが、候補となる術師はいない。
「くそっ———」
敵の動きを待っていると、シャノンが突然、アスクをの手を振り解いた。
「シャノン…?」
「僕、帰るね」
彼女は切られた制服を両手で押さえて立ち上がった。前髪で表情は見えない。
「さよなら———アスク」
そう最後に呟き、シャノンは森の中へと消えていった。索敵魔法ではルークを射殺した敵も、シャノンすら見つけることができない。
「何がどうなってんだよ…」
空を見上げ、そう溢すしかなかった。
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