《ノーコード》ってそんなにダメですか?
「【無色の魔眼】が、我がローゼンクロイツ家に生まれたなどと知れたら、我ら一族が終わる。貴様は一族の恥だ。今すぐ、ここから出て行ってもらう」
父親であるハインツ・ローゼンクロイツからの宣告。
若干10歳である幼いアスクには到底受け止めきれない言葉であった。
「お、お父様っ…ぼ、僕はっ」
「うるさい!貴様の顔なんぞ、見たくもないわ!今後、貴様がローゼンクロイツの名を名乗る事も、口に出す事も許さん」
無慈悲な敵意。鋭い目つきで、自分の息子を見据えるハインツの表情は、子供の親と言うにはあまりにも冷徹であった。
幼いアスクには、これほどまでに他人から敵意を向けられたことがなかった。
「おい!今すぐ、こいつを魔大陸に捨ててこい!あそこなら、死んでも足がつかんし、不味いことはなかろう」
実質的な死刑宣告。
魔大陸は魔族と魔物が巣食う、魔の領域。あの領域に立ち入ったものは生きて帰ってこれないとされている。
ローゼンクロイツ家は国王から魔大陸との国境線の管理を任されており、アスク一人、魔大陸に捨てるなど容易であった。
「おい、兄さん…いや、アスク。もちろん、僕のことも弟だなんて言うなよ?お前が僕の兄貴だって知れたら恥ずかしいからなぁ!」
双子の弟、テイクもハインツ同様にそう言った。テイクはハインツの徹底的な貴族思想を色濃く教育されており、実の兄が追放されると言うのに、むしろ喜んでいる。
突然、後ろから何者かによって顔に麻袋を被される。
「んーーーー!!」
なんとか逃れようとアスクも踠くが、相手は大人だ。10歳の彼が勝てるはずもなく、あっけなく床に組み伏せられ、何かで手を縛られる。
次の瞬間、彼の後頭部に強烈な衝撃が走った。一瞬で意識を手放した彼を、小汚い格好をした男が担ぎ上げた。
「こいつを魔大陸の国境の向こうに捨ててくればいいんだ?」
「あぁ。くれぐれも足がつかないようにな。そのために金を払って、わざわざ私の部屋まで入れてやってるのだ」
そう言われ、男はうなずくと、部屋を出て行った。
なぜ、アスクがこのような仕打ちを受けているのか。———時は数時間前に遡る。
———————————————————————
「今日は開眼の儀だ!」
アスクは中庭で嬉しそうに、一人の少女にそう言った。
「そうですね兄さん。私も楽しみです」
彼女の名前はリーナ・ローゼンクロイツ。アスクの妹であり、彼のいつもの遊び相手だ。
アスクは父親譲りの黒髪だが、リーナは母親譲りの銀髪。今は亡き妻とよく似ているのか、父親であるハインツはリーナを痛く可愛がっていた。
「でもいいよなぁリーナは。その年でもう魔眼が自然に出てるんだもん」
ローゼンクロイツ家は10歳で魔眼の開眼儀式が行われる。ローゼンクロイツ家の血を引いたものは、独自の魔法によって、魔眼が授けられる。
しかしリーナは先天的に魔眼が宿っており、すでにその資質が高いことは周囲から認められている。そのため、1年ほど早いがリーナも魔眼の開眼儀式を受けることとなった。
「私なんてダメですよ。きっと兄さんは私なんかより、すごい魔眼が発現するはずですっ」
控えめに言ってリーナは兄であるアスクが大好きだ。いつも遊んでくれて、いつも気遣ってくれるアスク。暇さえあればアスクと一緒にいたいリーナであった。
「あ、テイク」
庭の向こう側にアスクの双子の弟であるテイクの姿がみえた。
「おーい、テイクー」
アスクが手を振っても、テイクは見向きもせずどこかへ歩いて行った。
「ぶー。私、あの人嫌いです。いつもアスク兄さんを無視して、馬鹿にしてます」
「いいんだよ。テイクは賢いもん。きっとすごい魔眼が宿るはずだよ」
リーナはアスクの底抜けの人の良さに、半ば呆れながらため息をついた。リーナが時計を見ると、儀式の時間に迫っていることに気がついた。
「兄さん、もう時間ですよ!いきましょう!」
「おっけー」
気の抜けた返事を返すアスク。
二人で手をつなぎながら、開眼の儀式が行われる【開眼の間】へと向かった。
【開眼の間】はローゼンクロイツ家の地下に位置しており、人生の中で二度だけ入ることが許されている。一度目は自身の開眼、そして二度目は自分の子供の開眼。
そんなわけで、初めて入る【開眼の間】にアスクとリーナのテンションは最高潮に達していた。
500年前からあるとされている【開眼の間】は無骨な扉の向こうに、床に魔法陣が刻まれた祭壇が用意されており、その横にステータス授与の石版画設置されている。
ステータスとは個人の能力などを示すものであり、誰しもが使用できる。10歳を越えた少年少女たちは各教会に設置されているステータス授与の石板に触れることで、ステータスを見れるようになる。
「ここが【開眼の間】…」
「アスク、早く座りなさい」
父親であるハインツからの指示を受け、すでに着席しているテイクの隣にリーナと腰掛ける。
「それではこれから、開眼の儀を始める。まずはリーナ」
「はいっ!」
行ってくるね兄さまとアスクに小さく耳打ちすると、リーナは開眼の祭壇へと向かった。祭壇中央の魔法陣の上に立つと、両手を組み、祈りを捧げる。
ハインツが魔法陣に魔力を込めると、祭壇の魔法陣が赤く光り始める。徐々に大きくなっていく魔力光。そして、—————。
「終了だ。瞳を開いてみろ、リーナ」
リーナが恐る恐る眼を開くと、そこには金色に輝く瞳があった。元来の彼女の瞳は碧眼であり、瞳の色が変わったと言うことは魔眼が開眼した、と言うことだ。
「———金色、5色———いや、これはっ」
彼女の瞳を見て、すぐにハインツはリーナにステータスを得るように指示する。リーナは指示に従い、ステータスの石碑に触れると、石碑に光が灯り、彼女の目の前にステータス画面が現れた。
「リーナ、自分のステータスになんて書いている…?」
ハインツが震えた声で、そう尋ねた。
「【八色の魔眼】って書いてあります」
彼女の言葉を聞くと、ハインツは涙を流しながら、リーナを抱きしめた。
「【八色の魔眼】…だとっ?」
アスクの隣で、テイクは驚愕の表情を浮かべている。
「テイク、テイク。【八色の魔眼】って何?」
「そんなことも知らないのか。伝説の魔眼だ。一つの瞳に八つの能力を宿すと言われている。我らがローゼンクロイツ家の悲願、【無限色の魔眼】に最も近いとされている魔眼だ」
テイクは鼻を鳴らしてそう説明するが、アスクにはちっとも理解できなかった。
「次は、テイクだ」
テイクが祭壇の魔法陣の中に立つと、先ほどと同様に光が部屋を包み込んだ。
「【四色の魔眼】だ」
どうやらテイクは四つの能力を秘める魔眼に開眼したようだ。先ほどのリーナに比べ半分の数字だが、リーナが規格外すぎるだけであり、テイクも十分優秀と言える。
「次はアスク」
そう呼ばれ、アスクは元気に立ち上がると、祭壇へ向かった。
「がんばれっ兄さん!」
リーナの声援を背中で受け止め、自分に宿る魔眼がどんなものか期待で胸いっぱいになる。
先の二人同様、魔法陣が灯り、彼に魔眼が宿る。そして、ステータスを見ると、———。
「……【無色の魔眼】って書いてあります」
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それからは早かった。
ハインツに胸ぐらを掴まれ、部屋に閉じ込められた。その数時間後、アスクはハインツの書斎に呼ばれ、追放を宣言された。
【無色の魔眼】。
それは何も特殊能力を有さず、魔眼共通の能力である魔力の視認ができるだけの、最弱の魔眼。
こうして彼は最弱の魔眼と共に、魔の巣食う魔大陸へと追放された。
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