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短め最終話です。
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
「ヘイベルナ閣下」
壮年の…第一部隊の閣下方が声をかけてこられた。あら?シレガー=ビクリュム大尉もいらっしゃるわ。いつも怖い顔で私を見るのよね…嫌われてると思うけど、取り敢えず、大尉に微笑みかけてみた。
「ヘイベルナ閣下、少しお話をされませんか?」
他の部隊の方々が私に会釈しながら、ルドガー様を呼び止めた。
「いや…あの…」
躊躇っているルドガー様の背中を私はポンと押した。
「ルドガー様どうぞ、私はお待ちしていおりますからお話なさって」
「サリュ……分かった。すぐ戻る」
こちらをチラチラ見ながら軍の方々の輪の中に入って行くルドガー様を笑顔で見送ってから、私は行く先を軽食が設置されている一角へと変えた。
よしっちょっと食べちゃおう~
そう思って歩きかけた私の目の前に、数名の貴族子女と子息が立ち塞がった。ニヤニヤと笑っている…嫌な感じ。
「まあ~お珍しい!サリュシア=アノバテート嬢。あなたにお会いするなんてね~軍の若い兵士では飽き足らずに、また子息を漁りに来ましたか?」
そう言ってニヤニヤ笑う男爵家の子息?だったかしら…そういえばこの方からいつも嫌味を言われるわね…おまけにいつも一緒にいるご令嬢方も…
「本当よね~あのルドガー=ヘイベルナ様と婚約なんてぇ嘘でしょう?ねぇ…どんな手練手管で閣下を落とし込んだのか…是非知りたいわぁ…」
「令嬢方の憧れのヘイベルナ閣下とね~どんな弱みを握り…あら失礼、どうなのかしらぁ~?」
やっぱり嫌味の連発だ。
手練手管ね~皆、私がそんな能力があると思ってるのかしらね…そうねぇ敢えて言うなら…
「ルドガー様にこれからもずっと一緒に居て下さる?とお聞きしたら、喜んで下さったもの。私がお伝えしたのはそれだけよ?」
「……え?」
ポカンとする周りの顔を見て、私は言葉を続けた。いつの間にか周りに沢山の野次馬が集まっていたので恥ずかしいけれど…頑張った。
「ずっと一緒に居たいと言った私の願いをルドガー様だけが叶えて下さったのよ?今まで誰にも言われたことがなかったし…それに、ずっと可愛いと仰ってくれるし…私、ルドガー様の方がもっともっと可愛いと思うのだけどね?そう思わない?」
周りにいた皆様から悲鳴のような歓声のような声が上がる。その時に人垣の向こうで拍手のようなものが聞こえた後…その人垣の向こうからルドガー様が真っ赤な顔をしながら現れた。
お酒でも飲まれたのかしら?
「サリュシア…ゴホン、ゲフン…待たせた。行こうか?」
「あ…ルドガー様、私あちらで何か食べたいですわ」
私は会場から廊下に向かおうとしていたルドガー様を制して、軽食が置かれているテーブルを指差した。
「ああ…そうか、甘い菓子もあるな…行こうか」
そう言ってルドガー様は私の腰に手を置いて体を引き寄せると、軽食の置いてあるテーブルへ足を向けてくれた。
「きゃあああ!」
「ステキィィ!」
何やら物凄いものすごい歓声を受けているので、慌てて後ろの方を見ようとしたが、ルドガー様にしっかりと腰を押さえられていて、体を動かせない?
「周りを気にしなくていい…俺だけを見ていて…」
「…はい、ルドガー様…」
ルドガー様に耳元で甘く囁かれて…うっとりしながらしな垂れかかった。
2人で軽食が置いてあるテーブルに行くと、友人のバーバラとエカテリーナがニヤニヤしながら手招きしている。
「貴女たち~本当に仲がいいわね~」
「いや~サリュシアたら益々可愛くなっちゃって…」
恥ずかしくなってルドガー様の方を見上げると、蕩けるような顔で私を見ていた。益々恥ずかしくなって顔に熱が籠る。
「あ~もう見てらんない!」
「私も新婚の頃こんなのだったかなぁ~」
バーバラとエカテリーナは笑いながら、私とルドガー様を取り囲んだ。
楽しい…こんなに楽しくて嬉しいことがあるなんて…笑っているのに泣きそうだわ。
軽食を摘まみ、笑っている私の耳元にルドガー様が囁いた。
「サリュシア…たまにでいいのだが、サリュシアの家で2人きりで夕食を食べてみたい…」
「…!」
はにかみながら私の耳元に口付けを落とす大きくて可愛い人…
「ええもちろん、ふたりきりで食事をしましょう」
私もルドガー様の頬に口付けを返した。
淡々としたお話でしたが、ハピエンが大好物なのでこれで締めとします。お付き合いありがとうございました^^




