英雄の歌
目指せベタ
その剣は全てを絶つ
その魔法は全てを凌駕する
その拳は全てを砕く。
その肉体に傷はつかず
その魂は輝きに満ちていた。
酒場に吟遊詩人の歌が響く。なるほど確かにいい声だ。
高名な吟遊詩人だというのも頷けるし、歌も褒めてもいいレベルだ。
俺のことじゃなければな!
「英雄ケイトの歌ねぇ…ププッ本人がいるとしたらみんな腰を抜かすかもよぉ~」
「残念ながら同一だと認識してくれる人間はここにいるテーブルだけだからなぁ…言うなよミカ」
「まぁまぁ私は好きですよこの歌。まさか50年前からずっと歌われているとは思いませんでしたが」
さて、そこのアンタ。まぁこれは独り言だよ。
俺は今田舎の酒場でエルフの美女二人とささやかな夕食をとっているんだが…どこから説明すればいい?
いや、まぁさすがに俺の耳と俺の思考だけがアンタの暇つぶしなんだ。そうだろ?
そうかそうか、まず俺か。んじゃちょっと自己紹介しますか。
俺の名前は宮崎恵人、変な名前?まぁそうだろうな。
こっちの世界に来てから性は名乗ってないから、ケイトって呼んでくれ。
アンタはオツベル…か。まぁ悪かったな。でも運が無いと思って諦めてくれ。
まぁ不満か…こっちも悪いとは思ってるからさ。俺の本当の体が見つかるかこの魂を移せる人形みたいなのが見つかるまでまっててくれよ。
「しかし、貴方がこんな場所で…冒険者をやってるなんて…」
「よくある田舎だよ。まったり過ごすには丁度いいさ」
「まったり…という割にはやってることが派手なのよね」
「昔を基準にしたらいけないっていうのは良くわかったよ…まさかスリーテイル程度で大騒ぎになるなんて思わなかったんだ」
「昔のB級冒険者が倒せるレベルでしたわね…」
「それが今じゃSランクでも1人で倒すのが難しいと来たもんだ、魔物の質の低下が冒険者の質も落としたのか?」
「おそらくそうでしょうね、あの魔王亡き後、魔獣の力が落ちていきましたから」
「まぁそのスリーテイルのおかげで私たちが貴方を見つけられたんだからいいじゃない!」
「そうですね」
美人の名前を教えてくれ?ああ、すまない。会話をしながら説明するのは難しいんだ。
ちょっと大きめのパンにかぶりつきゆっくりと咀嚼する。俺が知ってる知識とすればパン・ド・カンパーニュみたいな感じだな。
はやく美人?わかったわかった。俺から右にいるツインテールの弓使いはミカ、フルネームはえーと…イズ・ミカ・リーヴェル。胸も体つきもちゃんとエルフしてるエルフだな。
ちなみにエルフはミドルネームを呼ぶ習慣がある。ファーストネームは親が付ける名前で、ミドルネームは神樹の精霊が付ける名前だそうだ。そして家名…となる。
そして左にいる魔法使いはアム・ラフィ・リーヴェル。何故か胸がエルフしていない…。ちなみに姉妹でミカは一応姉だ。どう考えても妹の方がお姉ちゃんやってるが。
ついでに言うと二人は10歳年が離れているらしい。まぁ年齢はまちがいなく70は超えているな…
「オツベルさん?」
とてつもない殺気と共にラフィに名前を呼ばれた。大きく口にいれたパンを思わず飲み込んでしまった。
「げほっげほっ」
「ちょっとアンタ何してんの!飲みなさい!」
ミカが食事についてる葡萄酒を渡してくる。俺は一気に飲み干した。
「す、すまない助かった」
「ラフィも急にどうしたのよ」
「す、すみません、何故かオツベルさんが失礼な事を考えていたような気がしたので…」
正解だよ、何でわかった?
「どうせコイツの事だから普通に50年経ってるんだから70は超えてるよな~とか考えてたんでしょ」
正解だよ、何でわかるの?
「まぁ、ラフィは人間に毒されてるけど、普通にエルフなんて200歳ぐらいが人間の20歳ぐらいだからね」
「ね、姉さん…」
あんまり触れて欲しくない話題のようだ。
「ま、まぁ折角会えたんだ。あれからどうなったかちょっと教えてくれよ」
「50年分あるのから結構長いわよ~あ、店員さん葡萄酒追加!水で割らないでね!」
「す、すみませんパンとスープのおかわりとチーズとハムも追加で」
相変わらずミカは良く飲むし、ラフィはよく食べるなぁ…
懐かしさを感じながら俺はゆっくりと蒸留酒を流し込んだ。