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神聖払魔師 聖ミカエルの戦士達  作者: ウィンフリート
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第1節 旅の始まり ハーゲン男爵の城へ

遅くなりました。難産でした。


魔物との戦闘は、サクサクかけますが、日常を繋げてエピソードへ持っていく話が難しいですね。

私達は、ハーゲン男爵の紋章付き馬車の後ろを馬でくっついて走った。

私の護衛騎士は、公爵家の紋章を付けている。やはり貴族の世界では、身分の高さが重要だ。護衛騎士の紋章一つで、私の待遇が変わるといって良い。だから、司教様は、拘りの人選をお願いしてくれたわけで、騎士も従者も一族の中から選んでくれた。

彼らの場合は、仕えているのが公爵というだけでなく、公爵の身内だということが分かるようになっている。


街道の進行方向が西向きから、北向きに変わってきたあたりで、道を右に曲がった。


「ハーゲン男爵の城は小高い山の上にあったと思う」

ベルンハルト殿がそう言った。道は段々と坂道となっていった。小高い丘の上、城館はあった。

城館の手前に、農民と思われる小さな集落があった。

こういった場合、その集落をも含めた、城壁で囲まれるものだが、ハーゲン男爵の館は周囲を囲むような城壁をもっておらず、小高い丘の上に堅牢な城壁を建て、その中に城を建造していた。


領民の家はみな瀟洒で、暮らしぶりがいいことが見て取れる。城のある小高い丘に登る道の両側に、小さな商店街のようなものがあった。


小さいとはいえ、街中を走るようになり、馬車は速度を緩めた。私より数倍は馬術が得意な、ベルンハルト殿が、馬をすこし寄せて話しかけてくる。

「神父様、ここは元々ローマ人の砦だったんですよ。ローマ人のガリア征服のための砦だそうで

すから、かなり古いですよね。当時の砦は丸太を地面に立てたようなものですから。今は石造りですからね。ハーゲン様は、きっと歓迎してくれますよ」

「いきなり毒殺とかなさそうですか?」私はニヤニヤしながら、ベルンハルト殿に尋ねた。

「あははは、それは、姫様の秘密を知って、協力しなければ、可能性はありますね」

「さすが、数多のも死地を潜り抜けてきたお方は余裕がありますな」

「いや、死ぬのは私だけでしょう。まさか公爵様の身内を討つとか、監禁するなんてことはありえませんぞ」

「冗談はさておき、お嬢様の病気はなんなんでしょうね?」

「悪魔憑きではないと思います」

「ほう、それはどうして、そう思いになれらたのですか」

ベルンハルト殿は、前後左右を見て、更に上半身を曲げて、私の顔を覗き込んで言った。

「勘です。エクソシストの」

なんだか煙に巻かれてしまったと思いながら、前を見ると、騎士達が止まっていた。もう正門前に着いていた。

「姫様がお戻りになった。開門」代官が大きな声で言った。

ここの城は、堀を持っていない。山城はそもそも堀がない場合が殆どだ。よほど地の利がいいのなら、川から水を引けるだろうが、攻城戦となば、すぐに水を止められてしまうだろう。


門は、城塞都市と同じタイプの門で、重い鉄格子を吊り上げて開けるタイプだ。鉄格子門の場合、人力では巻き上げられないので、鎖などを上部につけ、門の上に立ち上げた双塔の中に巻き上げ機が仕込まれている。巻き上げ機も、人が水車のような車の中を歩いて、ぐるぐる巻きあげる。石工たちが工事の時に用いる、クレーンの仕組みと同じだ。鉄格子の後ろ側に、木製の扉がある。どこの城も、平時は、木の門は夜にならないと閉めない。

私は、ギリギリと音を立てて上っていく鉄格子門を見ながら、水車のような車の中で歩いている兵士たちの姿を想像していた。


入ると中庭になっていた。中庭には、いくつか小さな館があった。馬車を含む車列は、中庭を通過していく。すぐに次の門があった。こちらは開くタイプの木の門で、すでに開いていた。

馬車は館の前に横付けされ、姫様は、また同様に数人で運ばれていった。

代官がやってきて、私達を案内してくれた。館の玄関の前で、馬を下りるように促される。館の

下働きの馬丁が数人やってきて、馬を引き継いだ。

男爵の家令らしき初老の男性が玄関の前に立ち、代官が耳打ちをしていた。

家令は、私達に近寄り、慇懃に挨拶をした。


「私はハーゲン男爵様の家令、マンフレッドと申します。この度は、姫様をお助け下さり、まことにありがとう存じます。田舎故、大したおもてなしもできませんが、ごゆるりとお過ごしください。どうぞ、こちらへ、客間にご案内いたします」

私達は、客間に通された。かなり立派な部屋だ。枢機卿様をご案内しても大丈夫なくらいだ。

「公爵様も領地巡回の際は、男爵様にご馳走になっているそうです」


若い騎士オルドルフが仕入れてきた情報を披露した。元々自由身分である領主が、土地を貰うことによって、上位のものに忠誠を誓うという仕組みは、ゲルマンの従士制に馴染んでいた我らには、問題なく受け入れられたのであった。忠誠というのは、軍事的義務があるということだ。

実際のところ、封建社会で、分権的な支配構造なのだが、公爵様は、かなり広い範囲の土地を持

っており、分権的に各貴族に土地を与えて支配させている。

公爵様はもともと部族の大公であるし、男爵も同じ部族だ。ザクセン貴族というのは、長い時を経ても同じように、堅く結束している。

元々部族軍だからだろう。


客間の扉がノックされ、マンフレッド氏が入ってきて、扉の所に立ち、


男爵の奥方様を紹介した。

「皆様、こちらがハーゲン男爵夫人でございます。奥様こちらにどうぞ」

そう言うとマンフレッド氏は、すうっと横にずれ、後ろに下がった。

奥様はそっと前に進み、話し始めた。

「この度は、娘をお助けいただきありがとうございました。旅でお疲れでしょう。お飲物をご用意させて頂きました。お酒もございます。食事の用意もいたしておりますので、どうか、しばらくお待ちくださいませ」

そう言うと、扉から下がり、給餌係達がトレーに飲み物を沢山載せてやってきた。


「こちらは、エーデルシュタイン水でございます。あと、蜂蜜酒、シュトルム、エール、シードルなどかございます。いかがですか?」


ベルンハルト殿が、シュトルムのところで目を輝かせた。南の方の人は、シュトルムが好きだな。まぁ、嵐という言葉通り、アルコールも高いし、また、シュワシュワと発泡するので、どんどん飲める。一層危険な酒だ。しかし、季節ものなので、今飲まなかったら、来年だ。


私も迷わず、シュトルムにしたが、奥方様の一押しはエーデルシュタイン水だったようだ。表情には出さないが、私の護衛騎士が、エーデルシュタイン水を選んだ時には、目が輝いた。


どうも騎士という職は、女性の事ばかり考えているような気がしてならないが、まぁ、若いから仕方ない。聖母様に仕えるように、女性に愛を捧ぐなら、問題はない。


最近、翻訳されたばかりの騎士物語を読んだのだが、私は、聖職者にならなければ、家の関係上、騎士になるしかなかったわけで、別の人生を送っていたらと、深く考えることになった。


アーサー王の物語は、面白かった。聖ミカエル様の島からなら近いよな。7王国の島か、いってみたいな。ドイツ人の使徒、聖ポニファティウス様もあの島出身だった。


シュトルムは、危険だ。酔っ払って、椅子でうたた寝をしていたようだ。私は、ベルンハルト殿に起こされる事となった。


「ドミニク神父様、起きてください。ハーゲン男爵様がお待ちですよ。さぁ、お食事を一緒にとのことで、マンフレッド様がいらっしゃいました。食事室に参りましょう」


目を覚ますと、護衛騎士達もすっかり鎖帷子を脱いでいて、通常の騎士服を着ていた。


廊下では、マンフレッド氏が、お待ちのようだ。私は、少し頭が痛い。こめかみに手を当て、椅子から立ち上がった。


廊下に出て、マンフレッド氏の後について、食事室に入ると、男爵夫妻が待っていた。


「ようこそ、ドミニク神父様。ベルンハルト殿、オルドルフ卿。此度は、娘を助けていただきありがとうございます。まずは、さぁ食事でもいたしましょう」


「ハーゲン男爵、お久しぶりです。城塞都市にお越しの際は、是非、私のところにも、足を伸ばしてください」

「神父様、修道院長様にも、宜しくお伝え下さい。うちの三男が、司祭の道に進むかもしれませんので、その際は是非、ご指導いただけましたらと思います」


会話もそこそこに一同席に着いた。それから食事となり、城塞都市に最近滞在している吟遊詩人の話や、悪魔の子の話、異端の辻説教師など、他愛のない話をした。


「さて、実は、折角ベルンハルト殿が来てくださって居ますので、少しご相談に乗って頂きたい事がございます」


来た。本題だ。やっと頭も痛くなくなったし、一つ真剣に取り組むとしましょう。


ハーゲン男爵は、少し上を向いて、考えながら話し出した。



お読みいただきありがとうございます。


次話は、男爵令嬢の奇行です。


宜しくお願いします。

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