第1節 旅のはじまり
このお話は、スピンオフです。本編の
https://ncode.syosetu.com/n2511fl/39/
このお話の続きです。
体調もよくなりましたので、再開します。一部脱字を修正しました。
月日の流れるのは早いというが、あっという間に出発する日になってしまった。
待合せ場所は、城塞都市のカテドラルだ。
カテドラル、すなわち司教聖座に所属する祓魔師エクソシストのベルンハルト殿が、街道の街、シュトラースブルクで開催される、祓魔師の会議に参加するので、そこまで同行しようという計画だ。
メンバーは、私と騎士オルドルフと、従者の3人だ。
特に、騎士になったばかりのオルドルフは初めての遠出に浮足立っており、従者とともに、何回も荷物をだしたりしまったりしているらしい。
武具や馬具もぴかぴかに磨いて、ザクセン騎士の名に恥じないように念には念をいれているそうだ。持っていくものを最低限にといったのだが、武器を沢山持っていこうとして、ベルンハルトに止められた。そして、優秀な武人たるもの、食事用のフォークだけでも敵を凌がなければならないと言われて・・・実際に、ベルンハルトは、長剣のオルドルフをフォークだけで軽く捌いたらしい。それからというもの、従者の木剣にオルドルフはフォークだけという練習を日夜しているそうだ。
まぁ、公爵様の護衛騎士に任じられているぐらいだから、相当の腕だ。剣と盾だけで十分とは思うのだが・・・そう、護衛の人選としては問題ないだろう。
公爵様の親戚だし、かくいう私もそうだ。オルドルフが子供ころから知っているし、剣の稽古もつけてやったことがある。そういった意味では安心している。
また、従者も子供のころからよく知っている。彼らがどんどん育っていくのを見ると、思わず目を細めたくなる親戚のおじさんとは私のことだ。私も聖職者を目指さなければ、彼らのように騎士になっていただろう。
ベルンハルトは、十字軍に参加し、負け戦で帰還した強者だ。遠征の荷物は最小限と口を酸っぱくして言っている。何千人もの部隊ではないのだから、レンジャーのように身軽であるべきだと言っているわけだ。本来なら、ベルンハルトにも同行してもらいたかったが、会議もあるし、城塞都市を長くは留守にできないのだ。
ベルンハルトは、そこで修道院に宿泊し、会議が終わるまで滞在するが、私達、聖ミカエル聖地巡礼組は、一泊するだけだ。それでも、あまり他所の街にいったことがない、まだ若い同行者たちは、浮足だっているようだ。
朝、修道院長に挨拶をし、関係各所に顔を出した私は、実家より借りた馬にまたがった。司祭館の前には、数人だが見送りにきてくれている。
城塞都市の前を通る街道を西にそのまま向かうと、古代ローマ時代の街道に出る。そこから南北に延びる街道を北へ進んでいくと、ライン川の東側を川に沿って進むようになる。
50kmぐらい北にある、オッフェンブルクという古代ローマ時代からの古い街に入り、そこから西に進み、ケールという川の側の街に向かう予定だ。
全員馬なので、今日中にライン川を超えることができればと思っている。ダメな場合は、ケールで泊まりたいところだ。ただ、ケールには修道院がないので、宿に泊まることになる。
騎士を先頭に、私とベルンハルトが並んで、後ろに従者がついている。全員騎乗しているので、意外と早く着くのではないかと期待しているのだが、馬の疲れを気にして、スピードをセーブしているのが、若干不満だ。私は代わり映えのしない景色に飽きて、ベルンハルト殿に話しかけた。
「ベルンハルト殿、会議が始まるのはいつからなのですか」
「明後日からです。今日、ライン川を渡りたいのですが、まぁ、無理でしょうな」
「そうなのですか。それは残念です。橋があればいいのですが・・・」
「橋なら夜でも渡れますが、渡し船は、夜はやっていないですからね。あのあたりは、ライン川も一本でないですからね。中州ができているのですよ。中州から先は橋があるのですが、ケール側には橋がないのです。何回か流されて、そのままらしいです」
「渡し船しかないのですね・・・」
すこし遅れ気味のようですので、すこし速くしますか。それから、しばらく皆黙った。気を付けないと舌を噛むからだ。大体お昼までに、中間地点程度までは行けたようで、そこで一旦休憩となった。人間の休憩というより、馬の休憩のためだ。従者は、すこし歩いて街道を戻り、後をつけているものがいないか調べてきた。異常は無いようだ。従者は皮鎧を身に着けており、身軽だ。レンジャー的な役回りを与えられている。
街道からすこし離れた、小川の横の小高い丘の木陰で、私たちは休むことにした。休むとはいえ、気は抜けない。追いはぎや強盗がでるかもしれないからだ。それでもドミニクは安心していた。ベルンハルトは十字軍戦士だったからだ。
軽い疲れが眠気を誘うが、眠るわけにもいかない。こういう時は、楽しい話をするに限る。ドミニクは、シュトラースブルクの旨いものは何か訊いてみた。
「神父様、何もないですよ。ただ、近隣の村でワインを作っているので、ワインはいい物が多いですね」
「そうなんですか。楽しみですね。でも今日中に着けなければ、明日の宿はもっと先になるから、そうなると飲めないですね」
「確かに。まぁ、特にトラブルに巻き込まれなければ、今日の夜には着けると思います」
ドミニクは考えていた。できれば、シュトラースブルクに泊まりたい。産地ならではのフレッシュなワイン飲みたいよね・・・ミサでキリストの御血として使うのは、ミサワインで、糖分が多い保存が効くやつだし。日常ではワインは飲んでいない。高いからね。
騎士オルドルフが振り返って何か叫んでいる。おやおや、さっそく初日からトラブルですか・・・
ベルンハルトが叫んだ。
「まて、軽率に下りるでない。まず周囲を確認せよ。従者、弓を用意。
神父様、騎士の弱点をご存じか?」
私は、すこし考えて、真面目に答えた。
「弓か、鋼鉄の槍でしょうか?」
ベルンハルト殿は、目を丸くして、私のことを見つめてから、微笑んだ。
「あなたは、真面目ですな・・・正解は貴婦人です。あそこに倒れているのは、貴婦人ではないですが、農民の女のようですね」
「なるほど、騎士は、か弱きもの保護には、心を砕かねばならないと、教えられますからね」
「左様。これは囮かもしれません。馬を下りて駆け寄ったら、馬を乗り逃げされるとか。射手に囲まれて、降参せざるを得ない状況だとか、ルドルフ殿は、身分が高いですから、身代金目的で、捕虜になりそうです。そうそう、神父様も、捕虜になりそうなときは、ご実家の名前を出したほうが有利ですよ」
「なるほど。承っておきます。つまり、ドミニクですっていうと刺されてお終いというわけですな?」
「あははは、さすがに聖職者を殺そうという輩は少ないですから、大丈夫ですよ。身代金がとれるとなると、多少、待遇がよくなるかもしれぬってぐらいです」
「うーん、喜んでいいのか悪いのか・・・」
「ザクセン貴族の名門、リウドルフィング家を敵に回す愚か者はいないでしょ?それに、貴方が剣どころかあらゆる武芸の訓練を小さい頃から積まされているのは有名ですからね。まず、その目つき、目の配り方。身のこなし。そして、信じられないぐらいの隙だらけ。ここまで隙だらけというのは、逆に怖いですぞ」
ちょっとまて、なんだその隙だらけって? そんなにひどいかな・・・すこし傷ついたんだけど。確かにベルンハルトの言うように、物心ついたときには、剣を持っていた。
すこし、落ち込んでいたら、オルドルフが従者からの報告を受け、周囲の安全を確かめて馬から降りた。
私はオルドルフに意識を向け、周囲を見渡した。
「ほら、あなた様は、聖職者の皮を被っているが、根っからの武人なんですよ。圧力を感じましたぞ」
いや、確かに今警戒したよ・・・だって、可愛いオルドルフ、いや、私の姉の子だが、姉に対しての責任もあるから・・・あの優しいお姉さまの悲しむ顔は見たくないもの・・・
「あの・・・ベルンハルト殿。あなたも凄い気ですよ。まぁ、エリアス殿ほどの殺気はないですが」
「あはははは、エリアスに比べないでくだされ。あれは、殺気どころか・・・あの顔で見られると、どんなものも寿命が縮まります・・・」
戦地を一緒にかけぬけたから、そういえるんですよ。ベルンハルト御大。
従者は、相変わらず周囲をきょろきょろ点検している。特に街道に沿って生えている樹木の上を、目を凝らして見ていた。機転が利くようで、ベルンハルト殿も感心しているようだ。どうして盗賊や悪者は、木の上が好きなんだろう。不思議だ。
オルドルフは、農民の女を抱えおこした。気を失っているようだ。女ではないな、少女のようだ。しかも美しい。農民と思えぬ、透き通るような白い肌。手仕事などしたことのないような細く、白い、まっすぐな指。おや、素晴らしい指輪がいくつも嵌っている。
「ザイフリート様、この娘は農民ではないですな・・・野良仕事や家事などをしたことのない、貴族の手ですぞ」
初日から、厄介なことに巻き込まれているようだ・・・私は、天を仰ぎ、神にご加護を願った・・・
いかがでしたか?
ヨーロッパでは、猛暑が続いています。エアコンの普及率も、5%以下ですからね。
そういう私のうちにも、エアコンがありません。
あづいよ・・・
そうだ、教会にいこうっと。事務室には、うるさい爺さんもいるけど、
フリードリッヒ神父様もいらっしゃるかもね。事務室にはエアコンあるんだぁ・・・
神父様はイケメンだし。アイス好きだし。ていうかオーストリア人はアイス好きだよね。
アイス・グライスラーのアイスをいつも冷凍庫にストックしているのはチェック済み。
今から行けば、4時にはつけそうだし。あ、日本とオーストリアの時差は7時間ですよ。
夕方のごミサには間に合いそうね・・・
ではでは、またね~