【5年3組 教室】

「やっぱりそうだよね〜! 分かる!」
「ふふっ、でしょう?」
「着眼点、すごい……」
ガラガラッ

「おはよーす」
「あ、あすかちゃん! おはよ!」
「おはよー」
「おはよう……」
「楽しそうね。何の話してんの?」
「もうすぐ夏休みだから、自由研究をどうするかーって、みんなで話してたんだ」
「へぇ。宿題の話の割に盛り上がってたわね」
「多分だけど、あすかちゃんの陰口を所々に散りばめながら話したおかげだよ!」
「あれ? 本人が目の前にいるよ?」
「あすかちゃんの陰口、大晦日の午後七時くらい盛り上がってたよ〜」
「一年で一番盛り上がる瞬間じゃん。やめてよ」
「あすかちゃんの陰口、カマキリの腹からハリガネムシが出てくる瞬間くらい盛り上がってた」
「それは盛り上がらないだろ」
「でもなかなか実りある会話は出来たよ〜」
「へぇ。じゃあみんな、自由研究何するか決まったの?」
「私は交差点を一日何台の車が通るか数える研究……」
「それアルバイトだよね」
「私はいろんな洗剤を混ぜて、より効果の強い洗剤を作る研究!」
「なにそれ? 自殺?」
「私は警察官の目の前で白い粉を落としたら、本当に追いかけてくるかの研究」
「うん。檻の中でも達者で暮らしてね」
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「はぁ……三人ともロクな研究が思い浮かんでないのねぇ……」
「あすかちゃん……随分と余裕の態度……」
「そういうあすかちゃんはどんな研究するの? 去年やった『鼻から入れたうどんが口からそうめんになって出てくる研究』はダメだよ!」
「その研究やってないな」
「ほっしゃんみたいだね」
「ほっしゃんでも麺の種類は変えられないけどね……」
「ふふっ、残念ながらあなた達と違って、すご〜〜く良い自由研究が浮かんでるわよ」
「へぇ? そうやって新垣結衣みたいな傲慢な態度を取るからには、それなりの自由研究を見せてくれるんだよねぇ?」
「新垣結衣に傲慢なイメージないだろ」
「でも自由研究って難しいから……ここまで余裕ありげだとよっぽど良い題材が思い浮かんだとしか思えない……」
「分かった。人は何メートルの高さから落ちたら終わるのか? でしょ」
「全然違うし、死ぬことを終わるって言うのやめて」
「あすかちゃん! 参考にしたいから教えて〜〜」
「ふふっ、しょうがないわねぇ〜」
「勿体振らずに早く教えろ」
「あれ? 二重人格?」
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「……私の研究はね、『次の元号を予想する』ってのにしようと思ってんだ」
「次の元号?」
「そう、平成ももうすぐ終わりでしょ? だから次の元号を考えてみようと思って」
「なるほど〜! 斬新で面白そう」
「あれ? 次の元号は「破滅」に決まったって、新聞か月刊ムーのどっちかに書いてあったよ」
「絶対月刊ムーよ」
「破滅なんて漢字、難しくて書けない〜!」
「月刊ムーに騙されんな」
「石〜に皮〜がありま〜して〜」
「『破滅』の覚え歌なんて作らなくて良いわよ」
「『滅』を書いたら、『破滅』〜」
「難しい方サボんな」
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「ただ折角研究課題を決めたは良いんだけどさ、良い案が全然浮かばないのよね」
「確かに、普段考えたこともない話題だしね」
「平成に生まれ平成に死ぬ私たちには関係ない話題だよね」
「平成には死なないだろ」
「あすかちゃん……次の元号、一人で考えられそうなの?」
「それなのよ。一人では少し難しそうなのよね……。そこで3人にお願いなんだけど、私の課題、手伝ってくんない?」
「良いよ! 1時間900円ね!」
「元気なクズだ」
「でもせらちゃんみたいな無学人に900円分の働きなんて出来るの?」
「海人みたいな悪口だな」
「当然! 赤子の手をちぎるより簡単だよ!」
「無学を否定する文脈で無学がバレてない?」
「私も……漢字とか、得意だし、手伝う」
「本当! ありがとう!」
「あっ、良いこと思いついた! これ、みんなで共同研究にしない? 全員で分担すれば楽だし一石二鳥だよ〜」
「確かに……全員WinWin」
「いいね。じゃあ、三人でやろっか」
「わーい!」
「頑張るぞー……」
「おー!」
「あれ? 考案者がハブられたよ?」
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「あ、から始まる……安心。い……院……。う……う……う……」
「うーん、意外と良い言葉って出てこないね」
「まあ所詮、小学生の語彙力じゃアイデアも頭打ちだよね」
「そのセリフがもう小学生の語彙じゃないし」
「そもそも元号って、既存の単語をそのまま使わないんじゃない? 平成も昭和も、元々無い単語だし」
「うーん、なんか混乱してきたわね。だれか五十音表とか持ってない? 役に立つかも」
「もう小五だし、五十音表なんて教科書にも載ってないなぁ」
「私、五十音表、常に持ち歩いてる……」
「本当? それはちょうど良いわね」
「でも、五十音表なんてどうして持ってるの?」
「『常に五十音表を持ち歩け』が、死んだおじいちゃんの最後の言葉だったから……」
「最後の言葉しょうもないな」
「おじいちゃんはこの時を見越して遺言を残したんだね……」
「じゃあその五十音表、見せてもらっても良い?」
「うん……」

「いやいつの時代だよ」
「古すぎた、かな?」
「なんというか、古いとか新しいの次元を超えてるわね……」
「グレネードランチャーを感じるね〜」
「?」
「それを言うなら、ジェネレーションギャップだよ」
「あ、うっかりさんしちゃった☆」
「よく訂正できたな」
「でもゆりねちゃん。なんで昔の表なんて持ち歩いてるの?」
「確かに、一番の謎よね」
「……」
「……あー」
「……実は私……200歳なんだ……」
「理由が適当かよ」
「若作りの真逆ね」
「嘘だ〜! ゆりねちゃん、絶対サバの塩焼き読んでるでしょ〜」
「なんで美味しく焼いちゃったんだ」
「それを言うなら、塩焼きを読むよ」
「絶対違う方残すな」
「ふふっ……美味しく……焼いちゃった……ふふっ……」
「おっ、あすかちゃんの抱腹絶倒ツッコミがゆりねちゃんのツボに入ってる」
「そう言われると恥ずかしいから笑わないでよ……」
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(書いた)

「せ……そ……た……あっ! 一個思いついた! 泰安とかどう?」
「永遠に平和……永平とかも良さそうよね」
「ここはシンプルに、未来とかどう?」
「えー、未来なんてダサいよ」
「そう? 『未来』ってすごく格好良いわよ?」

「あら、こうして見ると書きやすいし悪くないわね」
「格好良いかも……」
「ねぇねぇ? 泰安は?」
「泰安はこんな感じよ」

「ズルすんな」
「ううっ……負けた……」
「なんでだよ」
「無学人は騙されやすい……」
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「そもそもだけどさ、漢字の元号なんて世界では通用しないと思うんだよね。時代は横文字だよ」
「日本の元号なんだから、日本で通用すれば良いでしょ」
「でもそんな考えじゃ世界のアブノーマル化に置いていかれるよね?」
「?」
「グローバル化よ」
「うっかりさん☆」
「さっきからなんで分かるの? 事前打ち合わせしたの?」
「でも横文字はともかく……今風の言葉にしてみるのはありかも……」
「今風に……つまり、キラキラ元号ってこと?」
「キラキラ年号?」
「例えば『樹理愛』とか」
「いやいや」
「樹理愛元年生まれってカッコ良いかも〜」
「そうか? 絶望以外感じないよ?」
「後にジュリア世代って呼ばれそう……」
「同級生に「や〜い! お前ジュリア生まれ〜!」って馬鹿にされそう」
「言ってる方もジュリア生まれだろ」
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「キラキラより、折角なら……格好良い名前が良い」
「格好良い名前?」
「例えば、ヴァルハラ元年とか……」
「いやいや」
「武亜流破羅」
「昔の少年漫画の技名みたい」
「うーん、ヴァルハラは流石にダメだよ〜」
「……無学人 に言われたくない」
「わっ、私、無学人じゃないし!」
「いつの間にか無学人定着してるけど、この場以外では通用しない言葉だからな」
「でも無学人って言葉、広辞苑か月刊ムーのどっちかに載ってたよ」
「それも月刊ムーだよ」
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「でもやっぱ、ヴァルハラ……良いと思うけど……」
「ダメ! 『ヴ』なんて難しい発音、お年寄りが言ったら入れ歯が飛び出ちゃうよ!」
「そんなことないだろ」
「それに日常生活で「ヴ」なんて言葉使う機会ないじゃん!」
「……腹を殴られた時とか……口から出るし」
「そんなことないし! 出ないし!」

「ゔっ」
「出た(笑)」
「心が無いのか」
「無心人誕生の瞬間」
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「私、元号も子供ウケを狙ったほうが良いと思うの。漢字だけじゃ子供は喜ばないよね」
「確かに、大人だけ平成とか昭和で狂喜乱舞発狂してるのズルいよね」
「別に狂喜乱舞発狂はしてない」
「でも……子供が喜ぶ単語ってなんだろう」
「それはやっぱり『うんこ』だよ!」
「……」
「……」
「……」
「あれ? なんで静かになったの? 私の鼓膜破れた? あ! あ! あーっ!」
「鼓膜は正常だから安心しなさい」
「空気が異常になっただけだよ」
「そっちの方が残酷ではある」
「うんこ、別に良いと思うけど! ほら!」

「20年前のおもしろ画像?」
「世界一ダサい金太郎飴の断面?」
「チェーンメールでこれが回って来たら2日寝込む」
「ううっ……流石にうんこは駄目か……」
「同級生に「や〜い! お前うんこ生まれ〜!」って馬鹿にされそうだね」
「だから言ってる方も」
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「……そうだ」
「ん?」

「変な呪術始めんな」
「これ知ってる! ひょっこりはんでしょ」
「こっくりさんだよ」
「もうすぐ消える一発屋と神を一緒にしないで……」
「失礼だからもうすぐ消えるとか言わないで」
「これを書いたってことは、元号をコレで決めようって事だよね?」
「そう……。いい案が浮かばないなら、こっくりさんに、聞いてみれば良い……」
「でもこっくりさんって、順序とか間違えると悪い事が起きるんじゃなかったっけ?」
「失敗したら、全身の爪が裏返って死ぬ」
「手足以外に爪はないだろ」
「あらあら、そんな視野が狭いこと言うなんて、あすかちゃんは『爪が甘い』ね……」
「おー」
「おー」
「えっ? 別に上手くないよね?」
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「じゃあ……こっくりさんに聞くよ」
「うん……」

「大地は朽ち、太陽は黒く沈み、されど光は未だ空に満ちる……。託宣の空はここに来たり! 友の命を贄として捧げ、今宣告する。次の元号を指し示せ!」
「こっくりさん、こんなだっけ?」
「勝手に友の命を捧げるな」
「しっ! 動き始めたよ!」



「!」
「!」
「!」
「……待て待て。『!』じゃないから」
「……決まった」
「決まってねーよ」
「正解出たね……」
「出てねーよ」
「ふふっ……」
「何笑ってんのよ」
「……サバの塩焼き……ふふっ……」
「まだツボってたのかよ」
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「気を取り直して、もう一回やり直そう……」
「もうやらなくて良いと思うけど」
「良いからいいから……指置いて……」

「おい」

「!」
「!」
「!」
「私はこの茶番にいつまで付き合えば良いんだよ」
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「……結局、ロクな元号思いつかなかったなぁ」
「まあ冬休みはまだ来てないんだし、これからゆっくり考えれば良いよ」
「そうだ! 新しい元号『平成』ってどうかな?」
「この30年間はなんだったの?」
「難しいこと考えすぎて……混乱してきたんだよ……」
「なーんか気分転換したい気分ねぇ……。そうだ、明日の土曜日みんなで遊びに行かない?」
「でも、明日仏滅だからなぁ」
「なんで六曜気にすんのよ。ご祝儀渡そうとする社会人か」
「私は明日、月に一度家族でエターナル・グローリア様に謁見する日だからダメ……」
「変な宗教入ってない?」
「気分が乗らない」
「シンプルかよ」
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「どうやらみんな明日予定あるみたいだし、今日の放課後どっか行かない?」
「アンタは予定ないでしょ」
「いいね! ファミレスかカニの食べ放題、どっち行く!?」
「なんだその2択」
「カニといえば、カニについてる黒いブツブツって全部寄生虫の卵なんだって……」
「聞かない方が良いタイプの雑学を植え付けないでよ」
「あと、タピオカも寄生虫の卵らしいですよ……」
「適当な嘘も植え付けないで」
「たらこも卵らしいよ」
「それは、うん」
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「それじゃ、ファミレスでタピオカティーとたらこスパゲティでも食べよっか」
「この会話の後でそのチョイスかぁ」
「良いね良いね! もちろんあすか©︎も行くよね?」
「ちゃんを©︎って言うのやめない? 昔の交換ノートかよ」
「商標登録かも知れないよ」
「私はなんの権利を持ってんだ」
「キーンコーンカーンコーン」

「朝の会……始まる……」
「ヤバっ、まだ机の整理してなかった!」
「先生来る前に、急がないとね」
「机が汚いと先生すぐ怒るよ〜」
「おっけー。じゃ、この話の続きは放課後、ね!」

おしまい