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vol.76 アラクネ

 訳のわからない光のような攻撃もあることだし……ちょっとこれは気を抜くことができないな。



「それにしても、どういうつもり? ヘリアン王を消滅させちゃったりして。あいつ、黒薔薇とつながりがあるんじゃなかったの?」


「おかしなことを聞きますね。彼と黒薔薇は、あくまで互いに利益があったから手を貸していたに過ぎないのです。彼に対する街の民からの信用が地に落ち、利用価値の無くなった今。もはや邪魔者に過ぎないのですよ。単純な話でしょう?」



 エスタロッテは当然かのように言うと、妖しげに微笑んでみせた。協力関係というわけではなく、お互いに利用していただけってか。きっと、お互いに立場が危うくなれば切り捨てるつもりだったのだろう。



「……納得したよ」



 私は自嘲気味につぶやき、相手の攻撃に備える。エスタロッテとジャギは今は無数のチューブで繋がれているわけだ。当然、その動きは鈍足になる。それを見越してもあの余裕ある態度だ。きっと、鈍足になってもなお相手を捉える自信があってのことだろう。



「キキョウ! ルピナス! アリッサム王女を連れて安全な場所へ!」



 身構えたまま叫ぶ。悪いけど、彼女らのことを考えてまでは戦えそうにない。自分たちが足手まといになってしまうと察知したのか、私の言う通りアリッサム達は素早く王座の間から離れていく。



「……意外ね。あっさり逃してくれるなんて」



 何か攻撃が飛んできたら弾いてやろうとしていたマリンが、エスタロッテに向けて言う。私もてっきり、「誰も逃さない」なんて言って魔法をぶっ放してくると思っていたもんだから少しだけ拍子抜けだ。



「おや、言ってませんでしたか? あんな小物などどうでも良いのですよ。私の目的は、散々私のことをコケにしてくれた貴方達への復讐です」



 エスタロッテが手をかざす。すると、私達の後方から爆発音がした。ガラガラと王座の間の入り口が瓦礫で塞がれていく。……逃げ道を塞いだか。とことん、私達とやり合いたいらしいな。



「さぁ、これで邪魔者は入りませんね。覚悟はよろしいでしょうか? 最も、出来ていなかったとしても待つつもりはありませんがね」



 そう言うと、エスタロッテはその場から飛び上がった。……違う。チューブでつながっているジャギが、彼女をチューブごと引っ張ったのだ。エスタロッテはそのまま、ジャギの背に着地する。ガシャン! という気持ちの良い音とともに、奴らは一つになった。見た目は、ジャギの背中からエスタロッテの上半身が生えている状態。



「きもちわる……」



 クレハが正直な感想を漏らす。いや、確かにビジュアルは最悪だけど。しかしこれはアテが外れたなぁ。循環がどうとか言ってたから、あのチューブさえなんとかしてやれば良いと思っていたんだけど……。



「これじゃあ、二人を分離させるのは難しそうだなぁ」


「あちこち機械が飛び出して足みたいになってますね……まるで、蜘蛛みたいです」



 ジャギの身体からは、機械のパーツが多数、足のように生えていた。アンズが「蜘蛛」と比喩したのも言いえて妙で、何かの図鑑であんなモンスターを見たことがある気がする。なんていったっけ、アレ。



「戦闘モード:アラクネ。どうですか、この完成されたフォルム。美しいでしょう?」



 そうだった、アラクネだ。……なんて、下らないことを考えている場合じゃないな。奴が余裕をかましている間になんとか作戦を考えないと……ッ!?



 次の瞬間。ある程度の距離があったことで生まれた小さな油断。奴がゆっくりと手をかざしたと思ったら、光が放たれる。その光に触れ、私の左腕が消し飛んでいた。



「コユキちゃんッッ!!」


「――ッ!!」



 馬鹿な、ありえない。いくらなんでも、攻撃する速度が速すぎる。これじゃあ、手を向けられた時点でアウトじゃないか! 吹き飛ばされた左腕がじんじんと……。あれ、痛くない。感覚もある。にも関わらず、そこに左腕は無い。



「ど、どうなってんのこれ……」



 状況に思考が追いつかず、混乱してしまいそうになるが。何はともあれ、アレを何回も食らってやるわけにはいかない。<形態変化>で吹き飛ばされた左腕を再生する。



「だ、大丈夫なの!?」


「とりあえず平気! ええい、攻撃しないことには始まらない! みんな、いくよ!」



 心配している様子のマリンに、再生したばかりの左腕でぐっと親指を立ててみせる。勢いに押されては駄目だ。私は先陣を切って相手に突撃をした。



「はぁぁぁぁっ!!」



 左腕を鋭い刃へ変化させ、勢いよく相手に叩きつける。エスタロッテはジャギから生えている機械の足をひとつ、ひょいと動かして容易く受け止めてみせた。ゴィィン、という金属同士がぶつかる音が響く。



「ッ!」



 間髪入れずその他の足が私を串刺しにしようと迫ってくるので、一太刀入れたらすぐに距離をとらないとこっちがミンチになってしまう。身を翻し、<形態変化>をフル活用して身体の形を変えながら私はなんとか相手の攻撃を避けきった。



「おや、今のを避けますか。貴方も中々一筋縄ではいかないようですね」


「……そりゃどーも」



 余裕たっぷりの相手に言われても嬉しくない。今の一撃で分かったことだが、予想通りあの機械の身体は相当に堅固な作りであるらしい。ちょっとやそっとの物理攻撃や魔法ではびくともしなさそうだ。で、厄介なのがいち、にい……六本ある、金属の足。



 かといってそっちばかり気にしていたらエスタロッテ自信の手から放たれる謎の光にやられてしまうし。くそう。こいつ、強い。



「みんな、こっちは四人いるわ! 手数で押しましょう!!」



 マリンが励ますように叫ぶと、<炎魔法>を唱えた。彼女は両手をぐっと握り、相手に向けて一気に開く。指の一本一本から、計十発のファイアボールがエスタロッテに襲いかかった。



「ぐっ、こんな魔法……」


「<魔法付与エンチャント>! <風魔法>ウィンドスピード!!」



 すかさず、クレハがマリンの魔法に合わせて風魔法を放つ。ただのファイアボールは、クレハにより劇的に加速され炎の弾丸となってエスタロッテに襲いかかった。



「ちいッ!!」



 貫通力を秘めた炎の弾丸。流石に棒立ちで受け止めるわけにもいかず、奴は機械の足でそれらを受け止めようとする。……が、足は六本しかないのだ。四本、足りない。余った四発の炎が、エスタロッテに襲いかかる。



「おのれ……こんなもの!!」



 奴は再び、今度は炎に向かって手をかざした。例の光が奴の掌から放たれる。すると、炎は奴にぶつかる前に綺麗サッパリ消滅してしまった。まただ、この違和感。あの光は一体何なんだ!?



「まだまだ!!」



 奴が炎に気を取られている間に、アンズが奴の足元に潜り込んでいた。彼女は機械の足のうち、一本に狙いを定める。



「手刀・瓦割り!!」



 そして、力任せの手刀でその足を叩き切った。流石に切断とまではいかなかったが、鉄の足がへし折れて奴のバランスが僅かに崩れる。私は、アンズに攻撃がいかないよう<酸攻撃>を放ってアシストした。奴は機械の身体だ。錆びるのは好ましくあるまい。



「……足刀・鉞蹴りッ!! 」



 更に、アンズは離れ間際に別の足にも蹴りをお見舞いする。ミシィ! という音と共にエスタロッテの足がまた一本ひん曲がった。彼女は蹴った勢いを利用し、華麗に攻撃を避け地面に着地する。



「ぐっ……!」


「あ、アンズ! それ……」



 しかし、アンズが苦痛に顔を歪めた。違和感を感じた私がアンズに近寄ると、攻撃を仕掛けた側の彼女の手足も大きく腫れてしまっていた。よくよく考えてみれば鋼鉄に打撃を打ち込んでいるのだ。無事で済むはずがない。



「す、すみません。私にはこれくらいしかできなくて……」


「……十分だよ! 一旦下がって<チャクラ>で回復に専念してて」



 この手足ではまともに戦えるはずもない。私はアンズに一度身を引くように指示をしたが、彼女にはそれが不本意だったようで。



「で、でも! 私はまだ……」


「ダメージソースのアンタに倒れられるわけにいかないの! 分かって、アンズ」



 アンズは悔しそうに歯噛みしたが、私の考えを汲んでくれたらしい。一旦後衛に下がってくれるようだった。……厳しいこと言っておいてアレだけど、ここからは私一人で前衛をこなさないといけない。なんとかなるだろうか?

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